潜在能力というと「表に出ていない、内に秘めた才能」と定義づけられています。英語では「potential ability」と訳されるようです。英語表現で見ると「可能性のある」「能力」とも読み取れます。
実は「潜在能力」は隠れているものではなく、一定の考え方と行動を伴うことで誰でもいつでも発揮できるものであり、それを十全に発揮すれば、想像していなかったレベルの成果が得られることもあるというのです。
潜在能力を発揮するための体の鍛え方
本稿では潜在能力を発揮するために、どういう体の使い方をすればいいのかということをお話ししましょう。
第1に必要なのが、バランスのとれた姿勢をつくるということです。
今、アメリカでロルフィングという運動が流行っています。
マッサージのように手技を使って、緊張している筋肉や癒着している筋膜を緩めるというものです。
そこから派生して、さまざまなエクササイズが生まれ、アメリカではプロスポーツ選手や音楽家、役者などの体や頭を使う人たちに人気になっているそうです。
要するに、固くなった筋肉をほぐして楽に動ける体をつくることがロルフィングの目的なのですが、言い換えれば、それはバランスの崩れた体軸をまっすぐに整えるということです。
その方法として、ロルフィングでは手技などによって緊張している筋肉を緩めるというアプローチをするわけです。
しっかりした体軸をつくるために大事なのは、脚の脛(すね)の前方にある前脛骨筋を鍛えて、坐骨まわりの筋肉を緩めることです。それによって体軸が安定すると、高い運動能力を発揮できるようになります。すなわち、潜在能力を発揮する条件が整うのです。
この足の前脛骨(ぜんけいこつ)筋が重要な競技に、スキーがあります。
硬いバーンを滑る競技スキーでは、スキーのサイドカーブに乗ってズレの少ない滑りが求められます。一方、深雪では、この前脛骨筋を使ってスキーの前半部を吊り上げて滑る必要があります。
私が指導していた湯浅直樹選手は、前脛骨筋を鍛えることでスキーの外側のエッジに乗って滑ることができるようになり、オリンピックの日本代表選手にまで成長しました。
私はスキーが得意で、昔の映像を見るとプロが滑るようなきれいなフォームでした。足首に力があったので、バランスよくスキーのエッジに乗れました。エッジに乗った状態で斜面を曲がっていたので直滑降と同じぐらいの速さで滑れたのです。
周りの人は「どうして直滑降で滑っても追いつかないんだろう」と首をひねっていましたが、その理由は前脛骨筋にありました。
寝たままできる1日10回の足首運動
前脛骨筋を鍛えると、足首が強くなります。そのため、カーブに差し掛かっても足首がずれることなくターンできるのです。この前脛骨筋の強化は、スキーだけでなく、あらゆる運動の能力をアップさせます。
前脛骨筋の鍛え方はいたって簡単です。
いすに腰かけたままでも寝たままでも構いませんから、足首を上下(前後)に動かせばいいのです。私は今、朝起きたときに寝たまま足首を10回ぐらい動かしています。それだけで前脛骨筋を鍛えることができます。
私は小さいときから相撲が強くて、中学時代にはクラスの男子全員を投げ飛ばしていました。これも足首が強くてスピードが速かったからで、面白いように技がかかりました。同じ理由でスキーもあっという間に上級者になったのです。
前脛骨筋の強化は、スポーツ全般に効果的です。
足首を鍛えたバランスのとれた体軸姿勢は、あらゆるスポーツの原点です。まず足首を鍛え、次に体幹を鍛えると、ゴルフでもすぐにうまくなります。
スポーツに限りません。
お年寄りが歩けなくなるというのも、前脛骨筋が弱くなっているからです。私はここ数年、立て続けに病気にかかりました。リハビリのために病院へ行きましたが、最初はまっすぐ歩けませんでした。
リハビリ担当の先生に聞くと、「お尻の筋肉が落ちているからです」と言われました。前脛骨筋の話はまったく出てきませんでしたが、自分で前脛骨筋を鍛えるようにしたら、やがて元通りに歩けるようになりました。リハビリの先生も前脛骨筋の働きを知らなかったのです。
臀筋(でんきん:お尻の筋肉)が落ちると体軸がぶれるため安定しないのは確かです。そのため、臀筋を鍛えることも大事です。
しかし、歩行についていえば、前脛骨筋を鍛えることが最も重要です。私はスキーをやっていましたから、すぐにそこに気づきました。前脛骨筋を鍛えないと足首が安定しないので、ふらついてまっすぐに歩けないのです。
ですから、潜在能力を出するために一番大切なのは、前脛骨筋を鍛えて足首をしっかり固めることです。それをもとにバランスのとれた美しい姿勢を保つと、それだけでも抜群の運動神経になります。
走る姿勢にしても、体軸を足の前脛骨筋で蹴り上げるようにすると、体が前に飛び出るダイナミックな走法になります。
その第一歩は足首の運動です。足首の上下(前後)運動を1日に10回でもいいので続けてみてください。
美しい姿勢づくりをするために
美しい姿勢づくりをするためには、水平目線と足裏感覚をしっかり保つことも欠かせません。
水平目線というのは、対象との間合いを正確に測るために必要です。イチロー選手がバッターボックスで腕を伸ばしてバットを立てていた姿を覚えている方は多いと思います。
あれは体軸と立てたバットを合わせ、バットを握った小指の外側のラインと背中の軸を合わせて、グリップエンドを見て目線が水平になるように測って構えを決めているのです。
水平目線にするとボールの軸が目線とずれないので、よく見えるのだと思います。実際に打てないときには目線が水平ではなく、傾いていました。
私は、歩くときには目線はいつも水平に保つようにしています。それによって体軸がまっすぐになりますから、姿勢のバランスが良くなり、長い時間歩いても疲れにくくなります。
目線を傾けるということは、傾いてものを見ているわけですから、間合いが正確ではなくなります。猫背になったり、逆に反り返ったりするので、バランスも悪くなってしまいます。
したがって、目線を水平にして歩くというのは、歩行のときの基本姿勢として身につけたほうがいいと思います。
傾くクセがある人はたくさんいます。それは、そもそも人間の左右の目の位置がずれているからです。そのため、目線を水平にしようと思えば、意識してやらなくてはいけません。
その簡単なやり方ですが、イチロー選手のバットの代わりに、腕を伸ばしてボールペンや親指などをまっすぐに立てて体軸と合わせ、小指の外側のラインと背中の軸を合わせれば水平になっているかどうかが確認できます。
足裏感覚を整えるための立ち方
次の足裏感覚というのは、まっすぐ立っているかどうかということです。
立ったときに足裏の感覚がずれていると体軸が傾いてしまいます。これは足の裏がまっすぐ床についていないということです。
足の裏も普通に生活しているうちにゆがんできます。外側にゆがむとО脚になり、内側にゆがむとX脚になります。そのゆがみは感覚として自覚できるので、それを足裏感覚と呼ぶわけです。
この足裏感覚を整えるには、足の裏の中心に重心がかかるように意識して立つことです。そうすれば体はまっすぐになります。
つま先に重心がかかれば前のめりになるし、踵だと反り返ったような歩き方になります。
自分がどういう歩き方になっているかを考えて、どこに重心がかかっているかを意識してみてください。つま先や踵に重心がかかっているならば、中心に重心がかかるように調節してみましょう。