自分でしっかり歩けることが介護が不要な状態を保つ「健康寿命」を延ばすことにつながるという。歩くための力には「脚力」以外に、「血管力」が必要であると提唱するが、いったいどうすれば健康な血管が手に入るのか。
毛細血管は加齢とともに減少する
私たちの体のなかには、大小ふくめて膨大な量の血管が張りめぐらされています。なかでも、毛細血管のネットワークは大きく、血管の95〜99パーセントは毛細血管です。
毛細血管をすべて合わせると、長さはおよそ10万キロメートルもあり、地球2周半分にもなります。体のあらゆる臓器や細胞は、このわずか5マイクロメートルほどの小さな血管から栄養と酸素を受け取り、老廃物を渡して、機能しているのです。
健康な毛細血管の内皮細胞は、1000日ほどで新しい細胞に入れ替わり、働いてくれます。
毛細血管の数は、加齢とともに減少します。20代とくらべると、40代ごろからは新陳代謝されることなく、死んでいく細胞が増えていきます。60〜70代では、20代と比較して40パーセントも減ってしまうのです。
血流が減って、そのうち栄養がこなくなるため、血管が消失する現象を「ゴースト化」と呼びます。
ゴースト化を起こした毛細血管のことを、「ゴースト血管」と名づけたのが大阪大学の高倉伸幸先生です。
毛細血管がゴースト化する3つの生活習慣
毛細血管がゴースト化する生活習慣として、次の三つがあげられます。
①運動不足
運動が不足すると、まずは大きな血管の血行が悪くなり、血液が毛細血管まで行き届かなくなりがちです。
大きな血管のいちばん内側には内皮細胞という1層の細胞があり、ここからは血管弾力性を保つため、ガスである一酸化窒素(NO)が放出されています。運動不足になるとNOの放出が少なくなることから、毛細血管までの血流が悪くなると考えられます。
②太りすぎ
へその高さで測定するウエスト周囲径が、男性で85センチメートル以上、女性で90センチメートル以上の人は「内臓脂肪型肥満」と判定されます(正確には、腹部CTによるへその高さでの測定が必要です)。
内臓脂肪型肥満の場合、内臓脂肪から放出される、体に悪影響をおよぼすホルモンが血圧を高めたり、血糖のコントロールを悪くしたり、血液のサラサラ度を下げたりするなどして、最終的に毛細血管への負担を増加させると考えられます。
③食べすぎ・飲みすぎ
これは肥満の原因になりますので、②の説明と同じメカニズムで悪くなることがあります。
さらには、糖分、脂質、アルコールを過剰に摂取した際には、体内で生成されるアルデヒド基が原因となって、老化促進物質の一つである「終末糖化産物」(AGEs)が生成されます。
AGEsは大きな血管ばかりでなく、毛細血管の細胞を傷つけることで「ゴースト血管」が進行する可能性が高まります。
ゴースト化を予防することで寝たきりを防ぐ
ゴースト血管は、むくみや冷え性、シミ、シワ、たるみ、認知症につながる可能性があります。ですから、ゴースト化を予防することで、寝たきりになるのを防ぐことができるともいえます。
先述したように、毛細血管は年齢とともに減っていきます。でも、「年だから」とあきらめる必要はありません。日常のちょっとした工夫で、何歳からでも毛細血管の劣化を遅らせ、復活させることができます。
毛細血管の減少や老化を食いとめるポイントは、まずは血流をよくすることです。
毛細血管を形成する細胞(内皮細胞と壁細胞)は、血流がよくなると正しく接着するようになり、健康な毛細血管によみがえることが知られています。
なかでも、「Tie2」という成分は、毛細血管の細胞どうしを密着させる成分です。これを、血管外側の壁細胞から分泌される「アンジオポエチン‒1」が活発化することで、毛細血管のゆるみが修復され、ゴースト化を防いでくれます。
ヒハツ、シナモン、ルイボス茶が効果的
では、Tie2を活発化する食べ物には何があるでしょうか。いま、最も注目されているのは、ヒハツ、シナモン、ルイボス茶です。
ヒハツは、ロングペッパーともいわれるコショウの一種で、スーパーマーケットなどで購入が可能です。
愛媛大学看護学科の研究では、冷え性の人があらかじめヒハツの乾燥エキスを摂取しておくと、冷水に両手を1分間つける「寒冷ストレステスト」という試験を行った際、「両手の皮膚温度の回復が非常に速かった」という結果が出ています。
シナモンは、クスノキ科の常緑樹の樹皮を乾燥させたものです。スーパーマーケットなどでは、これを巻いてスティック状にしたものや、パウダーにしたものなどが販売されています。
漢方では、「桂皮」という生薬として活用されています。体の冷え改善や、芳香性健胃薬として、胃腸のもたれや痛みを改善できます。
ルイボス茶は、南アフリカに自生するマメ亜科の植物、ルイボスの葉を乾燥させたもので、抗酸化作用が強い健康茶として若い女性を中心に人気があります。これもスーパーマーケットで購入できますので試してみてはいかがでしょうか。
脳神経細胞が死ぬ前に認知機能障害が起こっている
近年、アルツハイマー病や血管性認知症などの患者さんが増加し、社会的な問題になっています。一般的に認知症の病状としては、記憶障害、判断力低下、見当識障害(時間や場所がわからない)、言語障害、失認(物や人の顔が認知できない)などがあげられます。
これらの症状を引き起こすメカニズムについては、まだ多くの未解明な点があり、ほとんどわかっていません。
ただ、最近、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が危険因子ではないかということが知られてきました。たとえば、生活習慣病によって動脈硬化が進み、血管弾性の低下、血管の狭窄が起こることで、脳が慢性的な低血流状態(脳虚血状態)におちいることが明らかになっています。
脳虚血状態になると、神経伝達が円滑に進まなくなり、歩行時のふらつきや口のもつれ、物忘れなどが起こります。こうして、認知機能障害などが引き起こされることが明らかになりつつあります。
シナモンには認知機能を維持する働きがある
シナモンにふくまれる辛み成分であるTRPA1(一過性受容体電位アンキリン1)遺伝子が発現しないマウスを使って、「脳血流を慢性的に低下させることで白質傷害をへて認知機能障害に至る『血管性認知障害』の病態モデルを作製し詳しく調べたところ、(中略)対照群の野生型マウスよりも早期に白質傷害および認知機能障害がおきること」がわかりました。
さらに、くわしく調べたところ、「脳で最も多いグリア細胞であるアストロサイトに発現しているTRPA1の活性化が、(中略)白質傷害を抑制していること、シナモン主成分であるシンナムアルデヒド(CA)でTRPA1を刺激し続けると白質傷害が抑制されて認知機能障害がおきなくなることを見いだし、アストロサイトのTRPA1活性化が、認知症に対する生体防御機構として働いている」ことを明らかにしました。
短絡的にいいきることはできないものの、脳の慢性に続く低灌流状態(主要臓器の血流不足)から、白質傷害を経て認知機能障害にいたる病態メカニズムは、認知症の発症や、症状の悪化に深く関与していると考えられています。
このことから、シナモンには、少しでも認知機能を維持する働きがあるのではないかといえます。