「ひとり言」は脳の衰えを防ぐ簡単にできる対策 | ゆきちゃんのブログ

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言葉には、不思議な力があります。「自分は○○だ」、「自分〇〇できる」といった自己規定の言葉を発したとたんに、不思議に自分自身がその方向に向かっていくようになります。

なんだか地味で、暗い感じがするかもしれない「ひとり言」ですが、実はさまざまな効用があり、奥が深いものだといえます。

では、何をどのようにつぶやくと、効果が出るのか?

脳と言葉のメカニズムを脳科学的な視点から解き明かし、上手にひとり言と向き合うことで、自分の能力を高める方法を3回に渡り解説します。

直感的に出たひとり言を大事にする

右脳の直感的なひとり言を、頭ごなしに「否定」することは禁物ですが、「検証」することはひとり言の事実化には必要不可欠です。

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手前みそになりますが、私がfNIRSという新しい脳機能の計測法を発見、開発したとき、「これは従来の技術であるfMRIを超える」と直感しました。

ただし、それと同時に、「本当にそうか?」という問題提起と、それを検証するひとり言をつぶやいていたことも確かでした。

問題提起や検証することは、左脳的な作業になります。具体的に実験を繰り返しながら、fNIRSの有用性を検証していきました。

私はfMRIを学ぶためにアメリカのミネソタ大学に渡り、その道のパイオニアである恩師らに学んだわけですが、学ぶ機会を与えてもらった恩に報いるためにも、発見したfNIRSの完成度を上げなくてはならないと考え、試行錯誤していました。

そんなとき、「押してダメなら、引いてみな」という言葉が脳裡に浮かび、自分のfNIRSの技術そのものを疑って、検証し始めました。

ひとり言ノートをつけてみる

話は逸れますが、私(脳内科医の加藤俊徳)はいつしか「ひとり言ノート」を作り、そのときにひらめいた言葉などを書きつけるようになりました。あえてひとり言を生み出すために、ノートを持参してカフェに行くこともありました。

ミネソタ大学と自宅の途中にあるダン・ブロス・コーヒーに行くと、ひとり言が出やすいので頻繁に通いました。以来、旅をしたり、街を歩くときは、ひとり言が出やすい“ひらめきカフェ”を探す癖がつきました。

そして2022年、fNIRSの発見から31年目に、脳機能を定量する技術を完成させて、国際特許と論文にまとめ、発表しました。fMRIはもちろん、従来のfNIRSでもできなかった、脳機能を頭皮上から定量的に評価できる技術を確立したのです。

私は、自分のひとり言を信じたおかげで、30年以上も一途に研究を続けることができました。生物学的にはとっくに老化しているはずなのに、私の脳が生み出すひとり言は老いるどころか、年々威力を増しています。ひとり言の威力たるや、恐るべしではないでしょうか。

いずれにしても、右脳のひとり言に対して、左脳で言い返してみてください。

「それって本当かな?」、「どこかに間違いや問題はないだろうか?」、「例外事例はないだろうか?」。自分の頭の中で、右脳と左脳の真剣なセッションが繰り返されるわけです。

この過程に、外側の世界にあふれている雑多な情報はほとんど関係ありません。というか、むしろそれらは邪魔なノイズのようなものです。

ところが得てして、私たちは外から入力しないと、不安になりがちです。ですが、信じるべきは自分の脳なのです。

自分の左右の脳を信じ、内側で激しく対話を繰り返す──。新しいものや真理というものは、そうやってたどり着けると考えます。

■集中力がアップする言葉

イギリスの研究で、ひとり言で集中力が増すという実験結果があります。このことを、脳のしくみから解説してみましょう。

実験ではある数を見つけるオンラインゲームを4つのグループに分けて、その成績を比較したということです。そのうちもっとも優秀だったのが、ひとり言をつぶやきながらゲームをするグループでした。

しかも「90点を取るぞ」というような具体的な目標を立てるより、「一番になりたい」といったひとり言がもっとも有効だったそうです。

オンラインゲームですから、おそらくコントローラを使いながら対戦するのでしょう。ひとり言をつぶやくことで、まず左脳の「思考系」が刺激され、左脳の前頭葉から「運動系」に指令がいきます。

このとき、ひとり言をつぶやくことで脳がモチベーションを上げ、臨戦態勢に入るということだと考えます。

ゲームでは視覚で数字を捉え、ある数を見つけ次第、手と指を動かしてコントローラを操作します。「運動系」が活性化されていることで、これらの動きも他のグループに比べるとスムーズに行ったと考えられます。

また、「90点を取る」という数値目標より、「一番になる」という言葉が有効だったのもうなずけます。90点という数値それ自体は、概念的なものです。そのため脳の中でイメージしにくいのです。

その点、「一番になる」というのは、ずっとイメージがしやすい言葉です。一番になったときに喜んでいる自分の様子、周りの賞賛する光景が連想されます。イメージ化しやすい言葉であるがゆえに、脳を働かせやすくなるわけです。

ひとり言で記憶を呼び覚ます

ひとり言によって、記憶力が増すという実験結果もあります。

ちなみに、記憶には「短期記憶」と「長期記憶」という2つがあります。短期記憶というのは、「思考系」脳番地と「理解系」脳番地が合わさってできた、ワーキングメモリに記憶されたものです。

一方、長期記憶というのはワーキングメモリから「記憶系」脳番地、とくに海馬によって情報が蓄えられたものをいいます。

短期記憶が、数字や意味のない言葉の羅列のようなものが多いのに対して、長期記憶は体験に基づいたエピソード記憶などが中心です。逆に言えば、脳は意味を持たない記号より、意味を持つエピソード記憶を重視しているのです。

記憶とひとり言の深い関係

実際、私たちが過去を振り返り、現在の人生、あるいは未来に役立つ情報は何かというと、歴史の教科書に書いてあった年号ではなくて、過去に体験したさまざまな体験やエピソードでしょう。

だからこそ、過去の体験を通じたエピソード記憶が、海馬の長期記憶の中枢に収められるわけです。

脳にしてみると、声帯や顔の筋肉を動かして発せられた言葉=ひとり言は、発せられたという事実で、エピソードと同じ意味と重みを持ちます。

それゆえに、何かを覚えるときは体を動かし、声を発声して覚えます。それによって、エピソード記憶に近いものとして、長期記憶に残すことができるのです。

また、たくわえられた長期記憶を呼び覚ますときにも、ひとり言が大きな力を発揮します。探し物をするときに、無言で探すより、「ノートはどこに行ったのかなぁ」とひとり言をつぶやきながら探してみてください。

すると、ノートという言葉をキーワードにして、さまざまな連想が浮かび、それが長期記憶を刺激して、ノートのありかがフッと思い出されるわけです。

記憶力をアップさせるには「言葉」──それも「ひとり言」がとても大きな力を持っているということです。