「珈琲を単なる飲み物と考えるのは間違っています。嗜好品であると共に病気を予防するための薬です。ただし、薬ですから用法・用量を守って正しく飲む必要があります」
いまでこそ珈琲は健康に良いものという情報が多く発信されているが、かつてはむしろ健康を害するものと考えられていた。覚醒作用と常用性があり、「目を覚ましてテンションを上げ、毎日飲まないと落ち着かない」というイメージがあったからだ。
■日本人の疫学データからも証明されている
そんな珈琲がなぜ健康に良いと言われるようになったのか?
「イメージが覆るキッカケとなったのが、2012年のニューイングランドジャーナルと呼ばれる一流の医学雑誌に掲載された医学論文です。40万人以上の健康調査で、珈琲の摂取量と生命予後との関連を分析しています。珈琲を1日6杯以上飲む人は男性で10%、女性では15%、それぞれ有意に総死亡のリスクが低下したというのです。しかも、死亡原因別にみると、がんを除き、心臓病、呼吸器疾患、脳卒中、感染症、糖尿病、事故などによる死亡リスクの低下が明らかになったのです」
とはいえ、それは欧米人の話で日本人は関係しないのではないか、と思う人もいるかもしれない。
ところが、2015年には「アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション」という栄養学の専門誌では、日本の代表的疫学データを使い、同様の結果が得られたという。
「日本人のデータでは1日3~4杯飲む人が最も総死亡のリスクが低下していることがわかりました。ただし、5杯以上飲む人はリスクの低下幅が低下しているだけで飲んではいけない、というものではありませんでした」
珈琲にはさまざまな病気の予防効果が確認されているが、忘れてならないのは肝臓病への予防効果だ。
肝機能を低下させるものにはB型・C型肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、アルコール性肝機能障害、胆石症などがある。珈琲はこれらが原因となる肝機能障害を改善させることが多くの研究で証明されている。
「健康診断では肝臓の機能を調べる3つの血液検査が必ず行われます。GOT(AST)、GPT(ALT)、γ―GTPです。
GPT(ALT)とGOT(AST)は、肝細胞の中で働く酵素で、タンパク質を分解して、体が必要とするアミノ酸を取り出す働きがあります。そのため脂っこいものを食べ過ぎて脂肪肝や肝炎になると、炎症により幹細胞が壊されて、細胞内の酵素が血液に流れ出して、数値が上昇します。しかし、GPT(ALT)はほぼ肝臓内の細胞にしか存在しないのに対してGOT(AST)は心臓や赤血球にも存在する。そのため、GPT(ALT)ほぼ肝臓の病気のみで数値が増加するのに対してGOT(AST)は心筋梗塞や筋肉の病気など、肝臓以外の病気の時にも増加するので注意が必要です。また、γ―GTPは胆道計酵素と呼ばれる検査値の一つで、肝臓の異常以外にも胆石症や膵臓の病気、お酒を飲む人で増加が見られます」
基準値は、GOT(AST)が5~40IU/Lで、GPT(ALT)が3~35IU/L、γ―GTPは、男性80IU/L以下、女性30IU/L以下。
珈琲の肝障害改善効果について触れた初期の有名な研究としては1986年に発表されたノルウェーの臨床研究がある。それ以降、数多くの疫学データが報告されている。
「珈琲で胆石発作リスクが抑えられることは2019年に内科学の専門誌に発表されたデンマークの研究にあります。1日3杯以上で明確になり、6杯以上だと23%の低下とされています。理由はハッキリしませんが、珈琲成分に胆のうの働きを活発にして胆汁の排斥を促す効果があるためでないか、と考えられています。B型・C型肝炎についても珈琲の効果が認められていて、C型肝炎についてはカフェインに増殖作用を抑える働きがあるのではないか、と言われています。また、珈琲は肝臓の線維化を予防する効果があることが知られています」
珈琲には糖代謝や肝機能の数値を改善させたり、肥満を予防するなど、さまざまな効果がある。
それを可能にするのもは珈琲に多く含まれる、カフェインだったり、クロロゲン酸と呼ばれる成分だったりすることが明らかになっている。
しかし、それも正しい飲み方をしてこその効果。せっかくの成分も正しい飲み方、飲むタイミングを逃しては、健康になるのを妨げてしまう。どんな飲み方がいいの「コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?」
■肥満の人は食前がおススメ
「飲んで胃が痛んだり、胸やけをしない人で、糖尿病が心配な肥満な人は食前をおススメ。食後血糖値を改善するからです」
珈琲を飲むと胃酸の分泌を活発にするため、逆流性食道炎の人や胃酸の人は食前の空腹時に珈琲を飲むと症状を悪化させることになりかねない。
「インスタントよりレギュラーの方が良いと思われがちですが、こと健康という基準で考えた場合は、どちらがいいというものではなく、インスタントでも十分健康に良いことがわかっています」
そもそもインスタント珈琲は焙煎した珈琲豆から珈琲液を抽出し、それを乾燥させて粉末にしたものを言う。それ以外のものをレギュラー珈琲というが、カフェインやクロロゲン酸という珈琲の有効成分に大きな差はないという。
珈琲には紙フィルターやサイフォンなどさまざまな淹れ方があるが、健康を考えるなら紙フィルターの方がいいかもしれない。
「珈琲豆から直接抽出した方が香りやコクがありますが、それはジテルペンなどの油の成分が入っているからです。ジテルペンは人間の体に良いとはいえないので、健康を考えるなら紙フィルターの方が私は良いと思います」
また、珈琲は飲めば飲むほど体に良さそうだが、研究で良いとされるのは1日3杯程度で、5杯以上は健康的にプラスかどうかは不明。妊娠している女性は、胎児への影響が明確でないことを考えれば1日2杯程度に抑える方がいいという。