朝食後や就寝前など、毎日欠かさず歯みがきをしているは多いだろう。
その「歯みがき」が、糖尿病、認知症、誤嚥性肺炎といった重大疾患の発症のカギとなるとの医学研究が、続々発表されている。
“たかが歯みがき”と侮ってはならない。間違った歯みがきは、命の危険につながるのだ。
そこで、健康長寿のための歯みがき法を“歯みがきのプロ”に聞いた。
◆歯茎マッサージはNO
何より大切なのは、正しく歯を磨いて諸悪の根源であるプラークを除去することだ。そのためにまず、歯ブラシの「持ち方」が重要になる。
「グーで歯ブラシを握り、肘を支点に力強く磨くひとが少なくないですが、この方法だと力が入りすぎて歯や歯茎を傷めるリスクがあります」
正しい歯ブラシの持ち方は、ペンを握るように持つ「ペングリップ」だ。
「ペンで文字を書くように歯ブラシを握り、そのまま歯にあてます。ブラシが歯に触れる感触が指先に伝わるので、より細かなコントロールができます」
続いては磨き方。注意すべきは、歯みがきの際の「音」だ。
「歯の表面をきれいにしようとするがあまり“シャカシャカ”と音を立てて磨く方がいますが、それではプラークはきちんと取れません。プラークは歯と歯茎の間にも潜んでいるので、そこにしっかりと歯ブラシの毛先を差し込んで、プラークを掻き出すように小刻みに動かすことが大事です」
どれくらい小刻みに動かせばよいのか。
「歯2本分くらいの範囲で1か所20回ぐらい小刻みに“揺らすイメージ”で磨くと、プラークを効果的に除去できます。その際、“シャカシャカ”といった音はほとんど鳴らないはずです」
ブラッシングの際、歯茎の血行をよくするため、「歯茎マッサージ」をすべきとの通説がある。だが、「それは誤解です」
「歯茎に対してブラッシングをしても、プラークを除去する効果はありません。歯茎を傷めるだけなので避けたほうが良いでしょう」
「いつ磨くか」も大きなポイントとなる。「寝る前」だ。
「就寝中は殺菌作用のある唾液の分泌量が減り、歯周病菌が繁殖しやすくなりプラークも増えます。しかも口の中が汚れた状態で唾液が少なくなると、口腔内の酸性度が高まって虫歯になりやすくなる。これらを防ぐためには、寝る前の歯みがきが有効です」
「起床後」を推奨する。
「歯周病菌は睡眠中に繁殖するため、朝起きた後は口の中が最も汚い。だから起床後にしっかりと歯を磨いてプラークを除去することが大切です」
子供の頃に「食後すぐ」と教わったはずだが、そうすると通常はアルカリ性を保っている口の中が食後すぐだと酸性になっているため、場合によっては歯を傷める恐れがある。
「お菓子などを食べるたびに歯を磨く人がいますが、それだと磨きすぎて歯が削れてしまう恐れがある。朝、昼、晩の3回が限度でしょう」
◆硬すぎ、付けすぎ、すすぎすぎは×
歯ブラシの「硬度」も気になるところだ。
「硬い歯ブラシじゃないと磨いた気がしない」という人もいるかもしれないが、「硬め」は避けたほうが無難だ。
「『硬め』だと歯茎を傷つけやすいので、『ふつう』か『やわらかめ』が適切です。特にすでに歯周病の初期症状がある方は、腫れた歯茎を傷つける恐れもあるので『やわらかめ』を勧めます」
ブラシ部分のサイズは「小さめ」が適している。
「大きいほうが一度にたくさん磨けそうですが、歯周病が最も多いのは奥歯の歯茎です。ブラシを奥まで届かせるには小さくて小回りの利くタイプが最適。ただし小さい分時間をかけて丁寧に磨いてほしい」
歯を磨く前に歯ブラシを水で濡らして、たっぷりの歯磨き粉を乗せる人が多いが、これもNG。
「歯ブラシを水で濡らすと、歯磨き粉の成分の濃度が薄くなってしまいます。また歯磨き粉を盛りすぎると口が泡だらけになり、“よく磨けた”と勘違いするリスクもあります。
そもそもプラークは歯磨き粉の成分では剥がれ落ちず、丁寧なブラッシングで物理的に取り除くしかありません。最近の歯磨き粉には歯茎の炎症を抑えるなど様々な工夫がありますが、1回の量は歯ブラシの幅の3分の1~2分の1程度で十分です」
“どこの歯から磨くか”にもポイントがある。
「奥歯には歯ブラシが届きにくいため歯磨き粉の有効成分も届きにくい。まず奥歯を丁寧に磨き、そこから前歯を磨くという順番を習慣を付けてほしい」
丁寧に歯を磨いたら、うがいは「1回だけ」する。
「フッ素など薬用成分入りの歯磨き粉の場合、何度もうがいをすると口内に残った薬用成分が流れてしまいます。うがいは軽く1回で大丈夫です。何度もクチュクチュしすぎるのも禁物」
歯ばかりでなく「舌」のケアも心がけたい。
「舌が汚いと口の中全体の菌が減らず、歯周病を招く土壌となります。とくに舌の上が白くなっているのはまさにプラークがこびりついている証拠なので除去が必要。舌みがき用のブラシがなければ、通常の歯ブラシで舌の上を5往復程度、軽くブラッシングしてください。舌はデリケートなのでこすりすぎに注意です」
これらのポイントを守らず、間違った歯みがきを続けていると、いくつかの「予兆」が生じるはずだ。
「顕著なのは、起床時に口の中がネバネバすること。歯を触ってみてネバネバした粘着質の膜の感触があったら、それがプラークです。放置すると口内のプラークがどんどん厚くなって歯周病菌が増殖します」
この時点ではまだ歯周病を発症しておらず、正しい歯みがきを行なえば、重大疾患への発展を防げる。だが「歯茎からの出血」が見られたら黄信号だ。
「歯周病は自覚症状が少なく気づきづらいですが、歯みがきの際に歯と歯茎の間から軽い出血が見られたら要注意です。口から出した歯磨き粉に血が混じっていれば、歯周病の初期症状である歯肉炎が始まっている可能性があるので、まずは歯科を受診してほしい」
特に「強く磨いて血が出る」のではなく、「痛くないのに何度も出血する」ケースは、歯周病が進行しているサインとなる。
重大疾患の原因は口の中に潜んでいる。日々の歯みがきに気を付けることが、何よりの予防となる。