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未亡人のホン・スンヨンはこの日、春の暖かな日差しの下で絵を描いていた。

両班の男がカヤグムを弾く絵である。当然彼女の目の前にそのような男はいないが、スンヨンはいかにも本当にその男が目の前に見えているかのように、ちらちらとその何もない空間を見やりながら微笑んでいた。

絵の中の男は美男子であった。歳は30代半ばごろで、その帽子飾りから高い身分であることが伺えた。漆黒の目は手元に向けられており、梅の花が散る中、演奏に身を捧げている。

スンヨンはため息をついた。我ながら美しい絵だと思ったのである。絵の中の人物が今にも現れ、そして本当にカヤグムの音色が聞こえてきてもおかしくない程であった。しかし、聞こえて来たのは美しい音色ではなく、慌てふためきながら近づいてくる足音だった。

「夫人!夫人・・・!」

スンヨンは少しいらっとして振り返った。

「何の騒ぎです」

「大変です、チ、チニュンが、毒キノコを食べたようで・・・」

駆け寄ってきたのは2人の官奴だった。彼らは息を切らしながらスンヨンに言った。

スンヨンは慌てて立ち上がった。

「納屋の裏にあるいつもの薬草箱を持って来て頂戴。チニュンはどこにいるの?」

「丘の上です、夫人。いつも種を植えておられるところです」

スンヨンはその言葉を聞くなり、身一つで駆け出した。

 

彼女がようやく丘のふもとに辿り着くと、そこには既に人だかりができていた。

「誰か、医官を呼べ!」

「何を言ってる!流罪になった奴婢だぞ、医官なんかに見てもらうわけにはいかない!」

口々に叫ぶ声をよそに、スンヨンは急いで彼らのもとに割って入った。

「どいて下さい、どいて」

皆スンヨンを見るとすぐに道を開けた。彼女はチニュンのそばにしゃがんだ。

チニュンは口から泡を吹きながら倒れていた。苦しそうに喉元を押さえている。

「どれを食べたの?」

「こ、これです・・・!」

近くにいた奴婢が差し出したキノコをスンヨンは手に取った。

彼女は首を傾げた。これは毒キノコではないのでは?

スンヨンは真っ青な顔で喉を押さえて苦しむチニュンを戸惑った表情で見た。

すると、再び人混みが割れ、若い男が飛び込んできた。

「急がないと」

男の声にスンヨンは顔を上げた。男はミン・ジョンホだった。

スンヨンは声を上げようとしたが、チョンホはすぐにチニュンを起こし、手に持っていた湯薬らしきものを飲ませた。

「ちょ、ちょっと、何をなさってるんですか!?」

スンヨンは非難するように言った。周りの者たちも、驚いた表情で彼らを見つめていた。

チョンホは何も言わずただ熱心に湯薬を飲ませた。途端、チニュンは吐き出した。

スンヨンを含め皆が驚いてのけ反る中、チョンホだけはチニュンの背中を叩き、自分の手に食べたものを吐き続けさせた。

やがてスンヨンは吐き終えると、そのまま大きく深呼吸した。顔色はもとに戻っていた。

歓声が上がる。

「うわあ・・・」

「なんてことだ、あのナウリが」

「さすが、内医院の副提調様であっただけあるよ!」

皆が称賛する中、意に介さない様子でチニュンを介抱するチョンホにスンヨンは話しかけた。

「一体、何を飲ませたんですか?」

チョンホは初めてスンヨンを見た。

「緑豆汁です。多くの毒に対して解毒作用がありますが、まだ治療が必要です。医官がだめなら、見習いの医女を呼んでください」

チョンホはチニュンに視線を戻して淡々と言った。

「でも・・・、このキノコは毒ではないように思います」

スンヨンは疑わしげに言った。

「ええ、素人目には毒キノコかそうでないかの区別がつきにくいものだってあります」

チョンホは言った。

「では私は素人だと?」

スンヨンは咎めるように言った。

「そうですね、病人を前に何もしていなかったのでね。それに何より、今はこんな話をしている時ではありません。どなたか、医女を呼んでくださいませんか」

チョンホはスンヨンの攻撃を交わし、周りの者たちに話しかけた。

スンヨンはむっとした表情になったが、それ以上は何も言わなかった。

 

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久しぶりにトックの家でゆっくりと眠ったチャングムだったが、気分は最悪だった。

両親やハン尚宮が亡くなってからは「せめて夢で会いたい」と思っていたが、彼らが1度も夢に出ず、チョンホばかり出てくるのは心外だった。しかも、見ず知らずの女性まで一緒なのである。

「チャングム!おうい、まだいるかい?」

トックの声が聞こえたので彼女は慌てて部屋の外に出た。

珍しく早朝から起きて来たトックはチャングムのもとに駆け寄った。

「おじさん、今日は早いんですね」

チャングムはトックに手を握られながら言った。

「そうだとも、チャングム、お前が主治医になってからってものの、全然家に帰ってこないじゃないか」

チャングムは口をすぼめた。

「殿下の主治医ってのは、殿下だけを担当するんだろ?なのに、何で前より忙しくなるんだ。女官たちを診てた頃の方がよっぽどいそがしいはずじゃないか」

「おうい、あんたって人は!本当に何にもわかっちゃいないんだから!!!」

部屋の奥から羅州宅(トックの妻)が出てきて言った。

「いてっ、分かってないって何の話だよ。一体何が分かってないんだい」

両手を挙げて反論するトックを脇目に、チャングムはそっとその場を去った。

「黙りなって!令監があんな形で流刑になったってのに、あの子が平気でいられると思うかね?え?ゆっくり家に帰って来て休んでいられると思うのかい!」

羅州宅は少し声を潜めて言った。

トックは額に手を当て、そのまま縁側に倒れこむように座った。。

「そうか・・・そりゃそうだよな、あんなに好き合ってたのに、あんなことになっちまうなんて・・・そうだ!」

トックは急にひらめいたように膝を打ち、自室に飛び込んだ。

「ちょっとあんた、何する気だね?」

羅州宅は慌てて彼を追った。

トックは風呂敷を出して荷物をまとめだした。

「何って、ナウリを連れ戻しに行くんだよ!」

羅州宅は呆れた表情を浮かべた。

「何言ってんだよ、馬鹿なことはよしな!あんたが行ったってどうにもならないよ!殿下の命令で流刑になって、次の王の御代まで復権させないっと仰ったんだ。殿下だってお呼び戻しにはなれないのに、あんたが、行ったって、何に、なるんだね!」

最後はトックの尻を叩きながら彼女は恨めしそうに言った。

「じゃあどうしろって言うんだよ!チャングムが悲しそうにしているのをこのまま黙って見てろって言うのかよ!」

「何言ってんだよあんたは!あたしらに出来ることっていったらね、新しく男を見つけてやることしかないじゃないか!」

「でも、チャングムはあんなに令監のことが・・・」

「じゃああんたはあの子がこのまま独り身でいてもいいって言うのかい!え!!」

「お取込み中のようだが・・・・」

突然声がしたので2人が部屋の外を除くと、入り口から見知らぬ両班の若い男が覗き込んでいた。

「見ての通り、取込み中ですよ!」

羅州宅はぶっきらぼうに返した。

「カン・ドックの酒屋というのはここで合ってるか?」

男は言った。途端に羅州宅の顔色が変わった。彼女は揉み手をしながら男に笑顔を向けた。

「ええ、ええ、そうですがナウリ、うちの酒をお求めですか?」

「えっ?あ、ああ・・・それは・・・。それより、ここにチャングムが住んでいると聞いたが」

羅州宅の表情が途端にこわばった。

「ああ、チャングムならさっき・・・」

呑気な表情で言いかけたトックの口を羅州宅が手でふさいだ。

「あの・・・、どちら様でしょう?」

羅州宅は警戒した作り笑顔で言った。

「私は内医院副提調のパク・ソンだ。大長今に用があって来たんだが」

2人は飛び上がった。

「ええ!じゃあ、ナウリがミン令監の後任の・・・」

トックの口を再び羅州宅が覆った。

「チャングムならもう出かけましたが・・・こんな早朝から、どんなご用事で・・・?」

「いや、大したことではない。ところで、そなたたちが大長今の義理の両親か?」

「え、ええ、そうですが・・・」

ソンは2人をまじまじと見た。

「・・・ふうん」

彼はそれだけ言うと、中に入ってきた。

カン夫妻はソンを警戒するように見ながら後ずさりした。

「ところで」

しばらくの沈黙の後、ソンはいきなり声を上げた。

カン夫妻は驚いて飛び上がった。

「は、はい!何ですかな、ナウリ!」

「そなたたちがミン・ジョンホに酒を下ろしてたんだな?」

羅州宅は目を丸くした。

「え、ええ、そうですが・・・」

「なるほど。じゃああの赤蟻酒を売っていたのもそなたたちか」

羅州宅の表情がみるみるこわばっていった。

「う、うちに赤蟻酒なんて高価なものはありませんよ。どこかと勘違いなさって・・・」

「そうか?チョンホのやつがここの酒は旨くて赤蟻酒まであるって言ってたんだが・・・」

夫妻はソンの『チョンホのやつ』という乱暴な言葉に反応した。

「あの、ナウリ、もしや、ミン・ジョンホ令監と・・・、その、親しかったんですか?」

トックは恐る恐る尋ねた。

「ん?ああ。子供の頃からの親友だが」

夫妻は飛び跳ねた。

「ええ!じゃあ、ナウリが・・・。ナウリ、そのですね、ミン・ジョンホ令監が仰っていた通りうちの酒は大層評判でして、宮中にも卸してるんですよ。だから、ナウリも一度・・・」

「おい!お前、何言ってんだよ!」

揉み手をしながらにやつく羅州宅にトックは噛みついた。

「何って何さ!ミンの旦那がいなくなってうちが大赤字だってのに、あんたは何言ってんだよ!ナウリのご友人だって言うじゃないか。この方も酒好きに決まってるさ!」

羅州宅はトックに囁いた。

2人の会話が丸聞こえだったソンは肩をすくめた。

「まあ、酒ならうちに卸してほしいところだけどな。なにせ漢陽に来てまだ日が浅いから、酒の手配すらできていないのだ。どれ、明日にでもうちに持って来てくれ。私が留守なら妻が応対するだろう」

ソンは大仰なそぶりで言ってのけ、咳ばらいをすると胸を張ってそのまま出て行った。

カン夫妻はあまりにも簡単に話が進んだのでぽかんとして顔を見合わせた。が、すぐさまトックが飛び上がった。

「あ、ナウリ!お宅の場所を聞いてませんで!ナウリ!」

トックがソンを追ったが、ソンは既に姿を消していた。

 

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見習いの医女の治療を受け、チニュンはかなり良くなったようだった。この官奴はチョンホに丁寧に礼を述べた。医女もチョンホのとっさの機転を称賛した。騒ぎを聞きつけてやって来た流人たちも皆チョンホを褒めたが、彼自身は終始謙虚な態度にとどまっていた。

一人ぱっとしない表情で、スンヨンは皆を眺めていた。チョンホはふと彼女の表情に目が行ったが、大して気にも止めなかった。

一通りの賛辞が述べられ、何人かがそれぞれの持ち場に帰って行った後、スンヨンはチョンホのもとに近寄った。

「偶然緑豆汁を手に持っていただなんて、とても運が良かったんですね」

スンヨンの嫌味にもチョンホは動じなかった。

「あなたは疑っておいでのようですね」

「ええ。だって、おかしなことだらけじゃございません?医女の話では、あのキノコはやはり毒がなさそうに見えるとのことでしたし」

「そうですね。ですが、毒がないと言い切ったわけでもありませんよ」

スンヨンは鼻で笑った。

「言葉遊びですか?」

「その方がずっとましでしょう?」

チョンホはそう言ってスンヨンの目を見た。スンヨンはからかわれてむっとした表情になる。

「どうか、調子にお乗りにならないよう。ここは宮中とは違います。手柄を立てても、誰も取り立ててはくれませんよ」

「そうでしょうか」

「それとも、もっと大きな期待でもなさってるんですか?」

スンヨンの言葉にチョンホは笑った。

「例えば、数々の善行が殿下のお耳に届いて、殿下が再び私をお呼び戻しになるとでも?」

「あら。ご正直なこと」

「それはありえませんよ。私は次の王の御代においても復権を禁じられている身です。つまり、私が復権する可能性があるのは私の死後で、私の一族が滅びた後でしょうね」

スンヨンは驚いた。次の王の御代まで復権を禁じられるなんて、それほど簡単に起きることではない。この若い男は、それほどの人生経験も積まないうちに国を揺るがすほどの重罪を犯したということである。

「それほどまでの罪を犯した方が、本当に偶然毒キノコを食べた奴婢に出くわして、本当に偶然手に持っていたのが解毒作用のある緑豆だったなんて、ここでは通用しても宮中では当然通用しませんわよね」

スンヨンがそう言って鼻で笑うので、チョンホは優しくたしなめる。

「私は殿下のために宮廷を去ったのです。私が忠臣であることに変わりはありませんよ」

チョンホは穏やかな表情で言った。

何を言っても少しも動じないチョンホを見てスンヨンはむっとしたが、チョンホはにこにこ笑ってスンヨンを見ている。

この男はまるでばかみたいだ、とスンヨンは思った。

 

チョンホは帰り道、済州島での出来事をじっくり回想していた。

済州島に来たばかりの頃は、首医女チャンドクのすることなすことに文句を言い、反抗していたチャングム。

人の壁は何よりも高い壁だ。だが、壁を作るのには必ず理由がある。

チョンホはスンヨンの反抗的な態度に、古き日のチャングムを重ねたのであった。

 

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いつもの朝の散策を追え、チャングムは肩を叩きながら自室の椅子に腰かけた。

王の主治医であるが故、自身の健康にもかなり気を遣っていた。しかし、「心労」というのは彼女にもどうにもならなかった。様々な手を打っても、夜の悪夢と不眠はあまり完全しなかった。

しかし、チャングムはそれを顔色には出さなかった。このような姿を誰にも見られてはならないからだ。彼女はため息をついたが、すぐに深呼吸した。ため息は良くない。体の中に残った気をすべて吐き出してしまう。

チャングムは目の前の医学書をぱらぱらとめくった。彼女はまだ若く、知識も経験も乏しい。その類まれなる才能と頭脳、そして信念こそ主治医にふさわしいとはいえ、まだ頼りがいのある医員とは言えなかった。主治医になって医官たちと対等に議論するうちに彼女の思いは日に日に強くなっていった。「より研鑽を積みたい」という思いである。

チャングムは医学書を閉じた。経験に勝る物はない。百聞は一見に如かずである。頭だけで事を行っては、「人」を軽んじかねない。チャングムはハン尚宮を思い出した。かつて競い合いで、ソルロンタンを作るためにより良い牛骨を探しに行き、さらに紙で油を吸って時間を短縮しようとした彼女をハン尚宮は叱った。今なら恩師の気持ちが痛いほどわかる。主治医になったからと焦っていろいろな子難しい技ばかり勉強するのではいけないのだ。どれほど急いでいても、地道に努力せねば。あの時はまだうら若い女官であり、ウナム寺に派遣されるという罰だけで済んだ。だが、医女である彼女はそれ以上に人の命を預かっているのである。

と、考えを深めていたチャングムだったが、ふとウナム寺のことを思い出しその表情に影がよぎった。そのため、部屋に誰かが入ってきているのに気が付かなかった。

「チャングム!チャングムったら!」

チャングムは驚いて飛び上がった。

「ねえ、ほんとに大丈夫なの?こんなに近くで呼んでるのに気が付かないなんて」

最高尚宮のミン尚宮であった。彼女はチャングムを覗き込むように見ながら言った。

「すみません、ちょっと考え事をしていて・・・」

明らかに疲れ切った表情のチャングムを見ながら、ミン尚宮はため息をついた。

「淑媛媽媽があなたを連れて来いって。チャンイから聞いたけど、最近は全然来ないみたいじゃない」

「はい・・・」

「淑媛媽媽だってお寂しい身なんだから、あなたが時々行ってあげなくちゃ」

チャングムはミン尚宮の言葉に俯いた。

 

 

イ淑媛ヨンセンはチャングムを見るなり様子がおかしいことにすぐ気が付いた。

「チャングム、大丈夫なの?あまり具合が良くなさそうだけど」

「大丈夫です媽媽」

チャングムはイ淑媛に微笑んで言った。

「少し疲れてるだけです。昨晩はちゃんと家に帰ったので大丈夫です」

イ淑媛の住まいの庭で2人は人払いをして散歩をしていた。

「それより媽媽、翁主媽媽(オンジュママ:側室が生んだ姫)のお具合はどうですか」

「とても元気よ。シンビがちゃんと見てくれていて安心しているわ。チャングム、私が聞きたいのはそんなことじゃないの。あなたの心が大丈夫なのか心配しているのよ」

チャングムは俯いて、しばらくの沈黙の後話し始めた。

「・・・私、もう全て忘れたんです」

「・・・・忘れた?」

「はい。もう、誰かを恋しく思ったり求めたりする気持ちは捨てたんです。過去を振り返って生きるのは嫌なんです。だから・・・」

そう言って彼女は躊躇った。

「だから、令監のことは忘れるって?」

イ淑媛は代わりに言葉をつないだ。

チャングムは答えようとしたが、ふと頭上の木から物音がしたので言葉を切った。

2人は見上げた。2羽の鳥が仲良くさえずりながら花の蜜をついばんでいた。

「ねえチャングム、覚えてる?センガッシの頃、あなたよく木に登ってハン尚宮媽媽様に叱られてたわね」

イ淑媛はふと微笑んで言った。

チャングムも微笑む。

「はい。媽媽はいつも『やめて』と言いながら、木の下でずっと待っていて下さいましたね」

「ヨンノがいつもそれを見て尚宮媽媽たちに言いつけに行っていたわね」

「ええ、そうでした」

2人は顔を見合わせて笑った。が、その笑顔はすぐに消えた。

「みんな、いなくなってしまったわね・・・」

イ淑媛は呟いた。

チャングムはイ淑媛に向き直った。

「媽媽がいらっしゃるじゃないですか。それに、ミン尚宮媽媽様も、チャンイも」

「あなたがそう思っているならいいのだけど」

イ淑媛は言った。

チャングムはイ淑媛の視線を交わすように、再び木の上を見上げた。つがいの鳥たちは、既に揃って飛び立ってしまった後だった。

 

続く