前回のあらすじ
大げんかの末に絶交の危機に陥っていたチョンホとソンだが、ソンは仲直りをしようとチョンホに話しかける。しかし、それでも意地を張るチョンホにリョウォンは決死の思いで彼を怒鳴りつけた。リョウォンのお陰で自分の間違いに気が付いたチョンホはついにソンと仲直りする決心をする。一方、ソンとユンナが恋仲であることを知ったスボクは、事を収拾するためにソンを呼び出す。既に決まっている縁談に従えと言うスボクにソンは反抗するが、そんな彼にスボクは家柄の話を持ち出す。だがソンは、ここ数日抱いていた疑問をスボクにぶつけ、ソンが本当は庶子であることが明らかになってしまった。夫妻は戸惑い、何も知らないホヨンは衝撃を受けた。ソンは怒りに身を任せ、部屋を飛び出してしまう。
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仲直り
ホヨンがソンの部屋に入ると、ソンは荷造りをしていた。
「ソン・・・!ソン、だめよ・・・行ってはいけないわ!」
ホヨンは泣きながらソンにすがりついた。
「姉上、今まで本当にお世話になりました。どうか姉上だけは達者でお過ごしください」
「いやよ!・・・ソン、あなたがいなければ、私はどうしたらいいの・・・?・・ねえお願い、私を置いて行かないで!!!・・・今出て行っても何にもならないわ!」
「姉上は母上の子なんですから、おれと違ってどうにかなります」
「いいえ!ソン、あなたなしでは無理だと言ってるのよ・・・!!!聞いてちょうだい、もうすぐあなたは15歳よ。そうなれば、父上の元から独立する道なんていくらでもあるわ!!でも、今出て行ったらあなたは全てを失うし、それに、ユンナだって家族を捨てなければならなくなるのよ!」
ソンは顔を上げた。
「ソン、お願いだから、私のために・・・そして、ユンナのために、もう少しだけ辛抱して頂戴!!!・・・あなたには私がいるわ。何かあったら、出来る限りのことはする。だから、それまではここで我慢してほしいの!・・ソン!!」
ソンは荷造りする手を離した。
「・・姉上を悲しませるつもりはなかったんです」
ソンはそう言うとホヨンを振り払い、何も持たず外へ飛び出した。
「ソン!!・・だめよ、ソン!・・」
ホヨンはそのまま床に崩れ落ちた。
リョウォンとチョンホは遠くまで出かけすぎたせいで、書堂に戻るのが遅くなってしまった。リョウォンとは書堂の前で別れ、チョンホは薄暗くなってきた空の下、一人書堂でソンを探した。既に生徒たちは帰り、従者たちが教室を掃除していた。チョンホが尋ねたところ、ソンは授業が終わるとすぐに帰宅したようだと言われた。チョンホは書堂を出て、すぐそばのパク家の屋敷に向かった。
だが、パク家の前に着くや否や、少し先に行ったところにソンらしき青年が呆然と歩いているのが見えた。チョンホはただならぬ気配を感じて急いで駆け寄った。
「ソン!!」
チョンホはソンと喧嘩をしていたことなどすっかり頭から飛んで行った。なぜなら、彼の声に振り返ったソンの顔は、これまでに見たことのないくらい憔悴しきっていたからだ。
「・・・ソン!・・・何があった?」
ソンは呆然とチョンホを見たまま、動かなかった。
「ソン・・・?」
「父上が認めたんだ」
「えっ・・?何を・・・・?」
「おれが庶子だってこと」
「・・・・・ええっ?・・・・・」
チョンホは驚きのあまり声にならなかった。ソンは目を伏せた。
その時、パク家の門が開く音が聞こえ、暗闇の中からホヨンが現れた。彼女は泣きじゃくっていた。
「・・・ああ、チョンホ道令様・・・・!!!」
駆け寄ってきたホヨンはチョンホを見、安心したように言った。
「道令様・・・ソンが・・・・ソンが・・・・」
ホヨンはそう言って嗚咽し、座り込んだ。チョンホは慌てて駆け寄る。
「お嬢様・・・どうか、お気をしっかり・・・」
「道令様、ソンを止めて下さい・・・どうか、お願い、お願いします!!・・」
ホヨンはチョンホに体を支えられながらすすり泣く。
「大丈夫です、お嬢様、ソンは私が見てますから、だから安心してください。もう暗くなってきましたからお嬢様はお戻りください。私がいますから」
チョンホの言葉にソンは顔を上げる。ホヨンは不安そうにチョンホの顔を見たが、チョンホはホヨンの目を見て頷いた。チョンホを信じたホヨンは、嗚咽を押さえて家の方に戻っていった。
「お前がおれを見てるって?」
ソンは呟いた。チョンホはソンの言葉の真意が分からず戸惑った。
「ソン・・庶子のことは、本当なんだな?」
「嘘ならよかったんだけどな・・。それより、おれをどうするつもりなんだ?」
「・・一旦場所を移して話そう。ここじゃ、家から近すぎるだろ」
「そうだな・・・」
ソンはチョンホに同意し、2人は歩き出した。
暗闇の中、池のほとりに腰かけた2人の間にしばらく沈黙が流れた。
「・・・庶子だって、どういうことだ?」
チョンホはソンに聞いた。
ソンは一連の流れを話した。両親との会話、ソンが真実に気づいた過程、そしてマという下女のこと。そして彼は付け加えた。この事は、スボクだけでなくイクスやミョンホンも知っているということを。
「・・・じゃあ、皆お前を騙していたって事なのか?」
チョンホは信じられないという風に言った。まさか、あれほど心優しいスボクが過去にそのような過ちを犯したとは信じられなかったのだ。
「そうだ。お前、覚えてるか?2年前、おれが両親との会話を聞いた時のこと」
「ああ。隠し子がお前かもしれないって言ってた時だろう」
「その時の会話はおれの聞き間違いじゃなかったんだ。あの時に全てお話しなさってさえいれば・・・いや、何も変わらなかったかもしれないけど、それでも、父上と母上はおれに嘘をついたんだ。もしかしたら墓場まで持っていくつもりだったのかもしれない」
「そんな・・・」
「父上は、おれの本当の母親を破滅に追い込んだ人間でもあるわけだ。しかもマ下女の行方は誰も知らないらしい。おれは母親に会うことすら出来ないんだぜ。こんなことってあるか?おれは生まれてこの方、父上の手の中で踊らされてたってわけだ!」
ソンは言った。チョンホは返す言葉が無かった。彼の胸を罪悪感が締め付ける。
「ソン、こんな時に本当に悪かった」
ソンはチョンホを振り返る。
「お前に謝りたくてずっと探してたんだけど、今やっと、本当に悪かったことが何か分かったよ。お前がこんなに大変な時に、ひどいことをして本当に申し訳なかった」
チョンホは俯いて言った。
「ひどいって、どうひどいか本当に分かってるのか?」
ソンが聞く。
「お前の望みを考えずにおれの希望にお前を当てはめようとして、それが叶わなかったことでお前に当たったことだ」
「違う。チョンホ、お前は本当に馬鹿だな。お前はいつも、本心をおれに話してくれないじゃないか。今度だって、おれが親友じゃなくなるかもしれないと思って言ったんだろう?」
「その・・・本当は・・・ああ、そうだ・・」
「・・・じゃあなんで黙ってるんだよ。一言そう言ってくれれば、おれはお前の誤解を解くために一生懸命努力できたのに。おれはお前の気持ちも知らないまま、ただお前に怒られて・・・。お前の中ではいろいろ話が進んでたんだろうけど、何せ話してくれないからお前の気持ちをこっちが推し量らないといけないじゃないか」
「・・・実は、最初お前と口論した後に、仲直りしようと書堂に入ったんだ。だけど、お前がユンナさんといるのを見てしまったんだ。その時に、もうお前はおれとの仲を修復することなんてどうでもよかったのかと・・・」
ソンはチョンホの言葉に頭を掻く。
「なんだ、見てたのかよ・・・えっ、い、いつ見てたんだ?教室にいる時か?」
「中庭でいい感じにしている時だよ」
「あ、ああ、そんなとこ・・・困ったな。・・・あのさ、あの日ユンナは裁縫の教室に来る最後の日だったんだ。お前と口論になった後でイドから聞かされたんだよ」
「うん。おれも、先生に告げ口してからそのことを聞いたよ・・・。それを知ってから、ずっと後悔してたんだ。お前を誤解してたって」
「じゃあもっと早くそう言えよ、馬鹿。お前がそう言ってくれさえすれば、おれは意に反して小筆を折るなんてことせずに済んだのにさ。なあチョンホ、お前も悪かったけど、おれもお前に沢山ひどいことを言ったし、あの筆を折ったし・・・だからお前ばっかりそんなにしんみりして謝るなよ。おれが辛くなるだろ」
「・・・ごめん」
「だからそれはやめろって言ってるじゃないか。全く、お前ってやつはいちいちめんどくさいよな。こっちが気持ちを推し量ってやらないといけない親友って一体何なんだ。はあ・・・それがお前のいいとこでもあるんだけどな・・・。でも、ほんとにこれからはちゃんと話してくれよ。なあ、ところで、お前はあの小筆持ってるか?」
「小筆?ああ、持ってるけど・・・」
「ちょっと出してくれ」
チョンホは懐から小筆を出した。ソンはチョンホの手を取って小筆を両手で握らせ、そのまま力を入れて筆を折った。
「ソン!」
チョンホは驚いてソンを見た。
「ほら、これで2本ともおさらばだ」
ソンは筆を池の中に投げ入れた。
「何でそんなこと・・・」
チョンホは呆然と池を見つめた。
「・・・お互いこれを見るたびに気まずくなるだろ。必要ならまた新しいのを買えばいいさ」
チョンホはソンの心の広さに思わず涙が込み上げた。ソンはそんなチョンホに気が付く。
「・・・おい、おれのほうが泣きたいのにお前が泣くなって」
ソンはそう言って笑い、チョンホの背中を優しく叩いた。チョンホは夜空を見上げた。満点の星空である。
しばらくして落ち着いたチョンホは、再びソンに話しかける。
「・・・庶子の件、先生を恨むか?」
「当然だ。説明するまでもない」
ソンは真っ直ぐ前を見たまま言った。
「お前が先生を恨めしく思うのは分かるよ。でも、先生は既に後悔なさってるんじゃないか?」
ソンは黙って答えない。
「そのマ氏という方が生んだのが男の子だったから引き取ったわけじゃないと思うよ。例えそうでも、他に選択肢が無かったのかもしれない。お前が偶然男の子だったから身分を偽らせようと考えただけで、どのみちお前は母親から引き離されていたし、先生はお前やホヨンお嬢様、それにチョン氏のことを考えるとマ氏を置いておくわけにはいかなかったんだろう」
それでもソンは黙っていた。
「・・・問題は、真実を知ってしまったお前がどうするかだ」
ソンはため息をつく。
「この先、どの道を選ぶにせよ後悔しないといけないんだろうなあ。庶子だからと官職を諦めても、あの時自分で機会を潰したと後悔するだろうし、かといってこのまま身分を偽って官職に就いても、いつ身分が知られてしまうかと一生怯えなければならない」
「だから先生はお前に黙ってたんだろうな」
「・・・・通りで、何回もお聞きになると思ったよ。『本当に官職に就きたいのか』って」
「で・・・直ぐには決められないだろうけど、お前はどうしたい?」
ソンはしばらく口をつぐんでから声を発する。
「・・・やっぱり、今更官員になることを諦められないような気がする。もし全てが明らかになったらその時はおしまいだけどな」
「だけど、お前が直接知らないことじゃないか。免職は避けられないだろうけど、それでもお前自身が罪を問われることはないんじゃないかな」
「どうだろう。殿下がそんな風にお考えになると思うか?」
「晋城大君ならそうはなさるまい」
チョンホは声をひそめて言った。
ソンはチョンホの言葉に答えず、夜空を見上げた。
「・・・今日は快晴だな」
ソンはぼそりと言った。
チョンホは何も言わず、頭上に広がる天の川をじっと見つめ続けた。
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今回はここまで。皆さんまた次回