みなさんこんばんは爆  笑

 

前回のあらすじ

ソンとユンナは晴れて慕い合う関係となったが、それを良く思わなかったチョンホは2人の関係をスボクに話してしまう。翌朝、激怒したソンとチョンホは大げんかになり、2人は絶交の危機を迎える。いつもならすぐに仲直りする2人だが、今回はそうはいかなかった。何日も険悪な2人を心配した友人たちは彼らの仲を取り持とうとする。一方、喧嘩のことを知ったユンナは、チョンホと仲直りするようソンを説得する。

 

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出自

 

翌日、登校したソンは真っ先にチョンホの席に向かった。

「なあ」

ソンがいきなりチョンホに話しかけたので、教室の全員が凍り付いた。

「ちょっと話があるから来いよ」

「うるさい」

チョンホは顔も上げずに言った。

「・・おい、意地を張るなって。来いよ」

チョンホはソンの言葉を無視した。

ソンはチョンホの前に座る。

「なあ、いつまでおれたち揉めてるつもりなんだ?こんなことしてても意味ないじゃないか」

「お前がそうやってそこに座ってるのが時間の無駄だ」

チョンホは本を見たまま目を上げない。

「・・・小筆のこと、悪かったよ。かっとなって言い過ぎてしまったとも思ってる。頼むからちょっと話そう」

「ふざけるなよ。何の真似だ?おれの時間を無駄にしないでくれ」

チョンホはいきなり立ち上がると荷物を抱えて教室を出て行こうとした。

「おい待て、チョンホ!」

ソンは叫んだがチョンホはそのまま出て行ってしまった。

 

チョンホは早足で書堂を出ようとしたが、後ろから誰かが走って追いかけて来た。

「チョンホ!」

それはソンではなくリョウォンだった。

チョンホは振り向かなかったが、リョウォンに追いつかれて肩を掴まれた。

「馬鹿野郎、もう意地を張るのはやめろ!」

珍しくリョウォンが怒鳴ったのでチョンホは驚いて立ち止まった。

「おれはお前と同じで自分の気持ちを口に出す方じゃないからお前の気持ちは分からないでもない。だけど、お前はこれでいいのか?本当にこれが望みなのか?」

「お前には関係ないんだリョウォン。放っておいてくれ」

そう言ってチョンホは去ろうとしたが、リョウォンは力ずくでチョンホを振り返らせた。

「いいか、よく聞けよ。おれは医官の息子だ。そんな家に生まれた誇りがある。医員の心意気を教えてくれた父を誇りに思っている。そしてその志を信じている。医術はな、チョンホ、無償の精神で行うんだ。病んでいる人がいればその人のために全力で尽くす。見返りを求めず、ただ母のような心で接するんだ。相手によく思われたり、報酬を期待して行う医術は医術とは言えないんだ。人の命を扱う医術だから、これを守らない者が医術を行ってはならないと言えるぐらいの原則なんだ。だが、他の仕事や人と人との関係でも同じだと思うんだ。与えた後のことを考えて与えるんじゃない。それを考えている間は、相手も自分も幸せにならないんだ。お前は民に見返りを期待して良政を行うつもりか?民が期待にこたえなければ、重税でも課して苦しめるのか?」

チョンホはリョウォンの顔を見た。リョウォンは話を続ける。

「官員も、ただ民のために殿下に仕えるのだろう?では、お前はその心をもって周りにも接さなければいけないじゃないか。もうソンを苦しめて自分も苦しむのはやめろ。あいつの行動をお前の期待に当てはめるな。ソンはあいつなりの方法でお前の親友でいようとしてるんだ。いつもお前の価値観通りでいくとは限らない。それに、あいつだって間違うこともある。あいつに変な期待をして苦しむのはソンもお前も一緒なんだぞ?お前が期待しなくても、ただ親友として接しているだけでも、それで十分親友と言えるんだ。誰かに親しくしてほしいと求めているうちは何も満たされないぞ」

「・・・」

「お前の心がいつも空虚なのは、ないものねだりをしているからじゃない。与えることで満たされるのを知らないからだ。だけどソンは知っている。お前の親友でいて、ユンナを好きでいて・・・あいつはそれだけで幸せなんだ。そんなソンの気持ちに目を背けて、お前も親友を手放すのか?つまらない意地のために?お前は、ソンに何かしてもらわなくても親友として接してただけで幸せじゃなかったのか?・・・なあ、おれはお前に会うまで友達がいなかった。だけどお前は、ひねくれて内気だったおれに優しく接してくれたじゃないか。おれに真心を込めて接することを教えてくれたじゃないか。お前が教えてくれたんだぞ?なのに、お前が忘れてしまうなんて!」

チョンホは俯いた。

「チョンホ、心で詫びているのなら、行動で示さないと。心で思っているだけでは決して伝わらないし、何にも繋がらない。お前、パク・スボク先生の授業の時だけ内容を書き留めてるじゃないか。あれも、授業に出てないソンのためじゃないのか?お前が一人でそんなことをしていても、ソンに伝わらなければ何も変わらないんだ」

チョンホは首を振り、そのまま前を向いた。

リョウォンはそんなチョンホを見、ふと腕を取って外に連れ出した。

「・・・どこに行くんだ?」

チョンホは驚いて聞いた。

「いいから」

リョウォンはそれだけ言って歩き続けた。

 

「おい」

しばらくそのまま歩いていた2人だったが、チョンホはおもむろにリョウォンの手を振りほどいた。

「どこに行くんだよ」

振り向くリョウォンにチョンホはそう言った。

「どこって、決まってるだろ。おれの家さ」

「・・・どういう意味だよ」

チョンホは解せないという表情で自信満々のリョウォンを見た。

「そんなに苛立って、ずっと怒ってるなんてお前らしくないよ。陽気が多すぎるんじゃないのか?うちに来て柴胡湯でも・・・」

「待てよ、湯薬を飲ませるつもりなのか?」

チョンホは少し呆れて儒医の息子であるリョウォンを見た。

「確か柴胡湯だったんだ。あと何だったかな、竜骨・・・そうだ、あと何かを入れるはずなんだけど・・・」

チョンホは吹き出した。

「何だよ、自分が何の湯薬を飲ませるのかも分からないで言ったのか?」

「そうじゃなくて、ほら、ちょっとうっかり・・・うっかりちょっと忘れただけで・・・ほら、か、観相や証は分かるんだけど、薬剤の名前までは・・・」

そう言ってさっきまでの威勢とは打って変わってあたふたしているリョウォンを見てチョンホは笑った。

ひどく慌てていたリョウォンだが、そんなチョンホを見てふと表情を緩めた。

「・・・もういいよ。帰ろう」

リョウォンは言った。

チョンホはしばらく瞬きを繰り返していたが、やがて黙って頷いた。

 

「あのさ」

今しがた来たばかりの道を引き返しながら、チョンホは沈黙を破るように言った。

リョウォンは振り返った。

「・・・本当に、これからも以前と同じようにいられると思うか?ソンが、あいつの目が曇ってしまわないと思うか?」

リョウォンは微笑んだ。

「曇ったっていいじゃないか。ソンが変わっても、お前はお前でいろよ。お前は昔のようにソンの親友でいたらいいじゃないか。そんなことで惨めに感じる理由なんかない。それに、ソンの目はきっと曇りはしないよ」

チョンホはリョウォンの言葉に頷き、再び俯いた。

「・・・お前の言うとおりだな」

チョンホは呟いた。リョウォンは何も言わずチョンホの顔を見つめた。

「おれが勝手にこんなことをしていても、本当に何の意味もないよな。お前の言葉が正しいよ」

「うん。みんなお前たちのことを心配してるんだ。余計なお世話だろうけどね」

「お前が来てくれなかったら、おれは自分の間違いを認められなかったかもしれない。お前はずっと医員の方が向いていると思っていたけど、そうじゃなかったのかもしれないな」

「・・・おれが?」

「ああ。実は、さっきまで、二度と人に心を動かされまいと決心していたんだ。だけど、言葉だけで人の心を動かせるなんて。お前はきっと立派な官員になるよ」

「・・ば、馬鹿言うなよ。そんなことよりお前たちの方が心配だ」

リョウォンはそう言って苦笑いした。

「おれはもう大丈夫だよ。お前もソンも、いつも正直に間違いを指摘してくれる友達だったのに、ここ数日おれはお前たちを邪険に扱ってきたな」

チョンホはそう言って自嘲した。

「じゃあ、分かってくれたのか?」

リョウォンはチョンホの顔を伺うように見た。

「誰がお前の言葉に気が変わらないって言うんだ」

チョンホはリョウォンを見て言った。

リョウォンはほっとして笑う。

「・・・やっぱりお前は物分かりがいいな。実はおれソンとも話したんだけど、『意味わかんない』って言われただけだったよ」

「ソンが?・・・多分照れ隠しだと思うよ」

チョンホはそう言って笑った。

「そうかな・・・まあいいや。とにかく放課後でもいいからソンと話してこい。ところでもう授業は始まったみたいだけど、途中から入ったら怒られるだろうから2人でどこか出かけないか?」

「いいね。どこに行く?」

チョンホは自分のせいで申し訳ないと思いながらもリョウォンの厚意を受け取った。

2人はそうして市場への道のほうへ曲がって行った。

 

 

授業が終わって、ソンはそのままユンナのもとに行こうと立ち上がった。

ソンの友人たちは、きっとチョンホが戻ってくると信じていたので彼を足止めしようとした。だが、それより前にソンの家から従者が迎えに来た。

ソンは不貞腐れた顔で家に帰った。呼び出したのは彼の父スボクだった。ソンが部屋に入ると、スボクだけでなく、チョン氏はホヨンもその場にいた。

ソンはスボクと目を合わせないまま礼をし、彼の前に座った。

「・・・なぜ呼んだか、分かっているだろう」

スボクは重々しい口調で問いかけた。

「さあ。つまらない話でもなさるつもりですか?」

ソンは皮肉たっぷりに言った。

「ソン!やめなさい」

ホヨンははらはらしながら彼に言った。

「・・・・オム家は、代々高級官僚を輩出している士林派の名家の1つだ。彼らと上手くやらなければ、士林に残ることは難しい」

「チョンホの家だってそうではないですか」

「ミン家は確かに名家だが、こんなことを言っては悪いが没落したようなものだ。大監はもう大昔に引退なさったからな。それに、男同士の交友関係なら何の問題もないし、そもそも我々パク家と繋がりの深い家だ」

ソンは眉をひそめたまま黙っていた。

「お前には許嫁がいる。私が苦労して見つけて来たのだ。家柄も、性分も相応しい娘だ。アン家は我らと同じで儒学者の家柄だ。それに官員を輩出したこともある。昨年や数年前の士禍の影響を直接受けなかった、士林の中でも珍しい一族だ。他にそのような家はない。彼らと縁談をまとめるのに、私がどれだけ苦労したか知っているであろう。それを、お前は何だ。名家の令嬢に手を出すとは。オム・ヒウォン令監やアン・ソクジン殿の面目を潰すつもりか?」

「なぜそうなるのですか?チョンホの言葉だから、それほどお信じになるのですか?」

「だがそなたも既に認めたではないか」

「ええ、彼女と懇意であることは認めました。ですが、口説いたなんて」

「どちらも同じことだ」

スボクはきっぱりと言った。

「アン家との縁談がそれほど大事ですか?同じような家柄なら、猶更重視する必要はないではないですか。金銭的に依存するわけでもなければ、出世がかかっているわけでもないですし」

「出世はかかっている。そなたが官員になって成功したければ、アン家と縁組を行うしかないのだ」

「なぜですか」

ソンは鋭い目つきでスボクを見て言った。

「それはそなたの知るところではない」

「では、私は応じかねます。理由も知らないまま、勝手に押し付けられた結婚に従う気はありません」

「そなたにはそのような選択肢はない。そなたの結婚相手を決める権利は全て家長である私にあり、逆らう権利など誰にもないのだ」

スボクは語気を強めて言った。

「では、私は家を出ます。成人した暁には自立し、私自身が家長となって自ら結婚相手を選びます」

「そのようなことをしたらどうなるかそなたはわかっていないのだ!ミン・イクス大監の二の舞になりたいか?」

「どういうことですか?二の舞とは、一体何の話ですか?」

スボクはソンに聞かれて、自分が口を滑らしてしまったことに気が付いた。

「大した意味はない。とにかく、私はそなたが何といおうと許さない」

ソンはスボクを睨む。

「父上は私のしたことで令監やアン先生が侮辱されたことになるとお考えのようですが、本当にそうでしょうか?私が、意志に反してアン先生の御令嬢を娶り、ユンナを捨てる方がよっぽど義に反しているのでは?」

「パク・ソン、お前は何も分かっていない。結婚とは、男女の情愛によって行われるものではないのだ。生涯連れ添う相手故、冷静に、慎重に選ばねばならない。一時の熱情で行ってはならないのだ」

ソンはしばらく口をつぐんだが、やがて低い声で話し始めた。

「・・・・・一時の熱情とは、父上のことではありませんか?」

「・・一体何の話だ?」

スボクは平静を装ったが、背中に冷や汗が流れるのが分かった。

「先日、リョウォンの家に行きました。彼のお父上の知り合いの医官であるホン主簿という方が訪ねて来ていたのでしばらく話していましたが、『お母上は元気か』と聞かれました。その方のご友人が、姉上の出産の時に立ち会ったそうです」

スボクの顔が青くなった。それはチョン氏も同様だった。何も知らないホヨンは、両親の顔色の変化に驚く。

「ホン主簿曰く、母上を診た医官が言うには母上は姉上を生んだ時点でもう子供を産めない体になっていたそうです」

ソンはスボクをじっと見て言った。スボクはソンから目を逸らさなかった。

「ですが、数年後その医官は姿を消し、子供を産めるはずのない母上が私を産んだと人から聞いたそうです」

チョン氏は俯いた。ホヨンは目を見張ってソンの腕を掴む。

「ねえ、何言ってるの・・・?そんなわけ・・・・現にあなたは生まれてるじゃない・・」

ホヨンは声を震わせながら言った。ソンは何も言わず、ホヨンの手を自分の腕から離した。そして、さらに声を低くして言う。

「・・・うちにマという下女がいたそうですね」

スボクはとうとうソンから目を逸らした。彼は額に手を当てた。

「ソン・・・・・・」

「なぜですか?・・・なぜ、今まで黙っていたんですか?・・・・」

ソンの目に涙が浮かんだ。彼は目を赤くしながらもじっとスボクを見つめた。

ホヨンは顔面蒼白になった。

「そ・・・そんな・・・まさか・・・・・ソンが・・・・・・」

ホヨンはかすれる声で囁いた。

「どうして私を・・・・嫡子でない私を・・・世間にも、私にも偽って・・・・!!!しかも、父上は私の生みの母を追い出した張本人ではございませんか・・・・・・!!!!」

「追い出したのでは・・・ソン・・」

「私が庶子であることが知られたら、罰を受けるのは父上と母上だけではなく、私と姉上もなんですよ!!!それほどまでに家柄が大事だったんですか・・・?他人の子を奪って嫡子と偽るほど・・・?しかも、下女に手を出して孕ませた子なんて・・・!!」

スボクは目をつぶった。もう全て終わりだと言う表情だった。

「・・・だから結婚相手にそれほどこだわるんですか?アン先生なら私の出自を深追いしないだろうと?・・・私が科挙を受けたがっているからそうしているのだといつも仰っていますが、私が言葉を話す前から身分を偽っていたのに、それが本当に私のためと言えますか?!私は、生みの母の顔も知らないんですよ!父上のその『一時の熱情』のせいで!!!」

スボクは何も言わなかった。ホヨンは彼らを交互に見ながら涙を流していた。

「・・・よくも私に対して、期待しているなどとおっしゃることが出来ましたね。私は、父上の慢心に踊らされる駒に過ぎないではありませんか!それでもまだ、私のためだと言ってユンナとの仲を裂こうとなさいますか?そんな偽善を、私が信じるとでもお思いですか?」

ソンはそう言いながら立ち上がった。

「ソン・・・座りなさい」

チョン氏は初めて言葉を発した。ソンは実の母ではないその人に目を向ける。

「母上、これで全て辻褄が合いました。なぜ昔から、私が姉上を怪我させたら叱るのに逆の場合では姉上を咎めもなさらないかずっと気になっていたんです。なぜ私だけ乳母に面倒を見させるのか、ずっと不思議だったんです。全て姉上が女の子だからという理由で片付けておいででしたが、本当は私が実の子ではないからなんですね!姉上とは違って、お腹を痛めて産んだ子ではなかったからなんですね!それでも姉上の兄妹だから普段は同じように接していただけで、母上の私へのお気持ちはそれ以上でもなければ、それ以下でもないんですね」

チョン氏は涙を流し、答えなかった。

「・・・もういいです。もうお2人の駒になって、一生罪を背負うのはうんざりです。育てて頂いたことは感謝しています。でも、これ以上私を意のままになさろうと思わないでください」

ソンはそう言って両親を一瞥すると、そのまま部屋を出て行った。

「ソン!!・・ソン!!」

ホヨンは必死に呼びかけるが、ソンは振り返らなかった。

「・・・まさか、嘘だと言って下さい!ね?・・ね・・!!」

ホヨンは泣きながら両親に訴えたが、2人は目を逸らしたまま黙っていた。

「父上・・・!!!そんな・・・どうしてですか?どうしてあの子にそんなことを・・・?あの子は一生、罪を背負って生きなければならないんですよ・・・?」

ホヨンはスボクを非難するように言ったが、スボクは目をつぶったまま何も言わなかった。

ホヨンはしばらく両親を見ていたが、やがて思いついたように立ち上がって急いで部屋を出て行った。

残されたスボクとチョン氏の間に沈黙が流れる。外ではあわただしい声が聞こえる。

「とうとう、この日が来てしまったんだな」

スボクはそう言って自嘲するように笑った。

「書房様が過ちを犯さなければ起きなかったことです」

チョン氏は冷たく吐き捨て、立ち上がってそのまま部屋を出て行った。