みなさんこんばんは爆笑

 

前回のあらすじ

ソンの姉ホヨンは、ソンとユンナが両思いであることに気が付きながら陰で応援していた。一方2人の関係を良く思わないチョンホだったが、ある日ユンナと親しい自分の婚約者シミンが家に訪れる。イクスが留守であったため泣いているシミンへの嫌悪感を正直に露わにしたチョンホだったが、イクスが帰宅するなりシミンの態度は豹変し、イクスに怒鳴られるチョンホをあざ笑った。チョンホはシミンがイクスに取り入ろうとしていると悟り、彼女との結婚生活を悲観する。

 

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関係の変遷

 

 翌日、チョンホとソンはいつも通り待ち合わせて書堂に向かう。といっても短い距離だが、今の彼らには2人きりで話す唯一の機会だった。

ソンは相変わらず上機嫌だったが、チョンホは落ち込んでいた。

「なあ、チョンホ、なんだか顔色が悪そうだけど何かあった?」

ソンはチョンホの顔を見て不思議そうに言う。

チョンホは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

「・・・いや」

「ほんとか?」

「昨日も父上と口論になっただけさ」

チョンホはそう言ってソンから目を逸らす。

ソンは黙った。

しばらくの沈黙が流れ、やがてソンは大きく深呼吸してから話し出す。

「あのさ、お前も知ってると思うけど・・・」

「ユンナさんのことか?」

「うん。その、お前の意見を聞いておきたくて」

チョンホは立ち止まる。

「おれの意見?」

「ああ。その・・・親友としてどう思うか聞いておきたいんだ」

「どうって、何をだよ」

「だからさ、その・・・・」

ソンは言いづらそうに眼を泳がせた。

「何だよ、はっきり言えよ」

「ユンナのこと好きなんだ」

「知ってる」

「本気なんだ」

「知ってる」

ソンはチョンホのそっけない返事に戸惑う。

「・・・そ、それで?」

「それでって?」

「いや、何か言いたいことないのか?・・・」

「ないよ」

チョンホはぶっきらぼうに言った。

ソンは思わずむっとする。

「おい、文句があるなら言えよ」

「何もないって言ってるのに、何で文句があるってことになるんだ」

「だって機嫌悪いじゃないか」

「それはそっちだろ」

「お前、どうかしてるぞ」

ソンは眉をひそめて言った。

「は?」

「普通そういう時は、おれに何か言うもんだろ」

「パク・ソン!」

チョンホはいきなり怒鳴る。ソンは驚いて固まる。

「ユンナさんが好きだとかおれは知らないし、全然関係ない。だから、おれに伺いを立てるようなふりをするな。どうせお前は自分でもう決めてるじゃないか。自分の気が済まないから表向きおれに判断をさせようとしてるのか知らないが、言っとくけどおれは例外なく女は嫌いだ。あの人をどう思うかと聞かれても、お前にお世辞を言ってやる気はないよ!」

「おい、お前、なんでそんなに怒るんだよ」

「怒るだって?お前が馬鹿みたいに女に夢中になって、何をやるにも上の空だし、ユンナさんを見たらすぐに飛んでいくし、成績だって落ちて・・昔のお前はどこに行ったんだよ!お前だけは他の奴とは違うと思っていたが違うんだな」

「お前、言っていいことと悪いことがあるだろ!」

ソンもチョンホに怒鳴った。

チョンホは鼻で笑う。

「それとも何だ?女一人に惑わされて、官職なんてもうどうでも良くなったか?偉そうに言ってきた志は結局その程度のものだったんだな」

「お前・・・」

ソンはチョンホの胸倉を掴んだ。

「これ以上何か言ってみろ、ただじゃ済まないからな」

ソンはチョンホを掴む拳に力をみなぎらせて言った。

彼らは書堂のすぐそばで揉めていたため、通りかかった子や騒ぎを聞きつけた子が何人も駆け付けた。

「おい、2人ともやめろって」

チョンジンがやってきて2人を引き離した。

「おれにやめろだって?このくそやろうがおれに嫉妬して勝手に・・・」

ソンは言いかけたが、堪忍袋の緒が切れたチョンホは彼に殴りかかった。

駆け付けたリョウォンはチョンジンとともにチョンホを押さえつけた。すぐ後にやってきたイドとサンミンはソンを押さえつける。

「馬鹿はやめろって。一体何が原因でこんなに揉めたんだ」

リョウォンはチョンホに言った。

だがチョンホは何も言わず、彼の手を振り払って書堂の中に消えた。

リョウォンはしばらく戸惑ったが、やがてすぐにチョンホを追った。残ったチョンジン、イド、サンミンはソンの顔を見る。

「何があったか落ち着いて話せよ」

イドが言った。

ソンはイドの顔を睨む。

「あいつはユンナのことが気に入らないんだ。ただそれだけだ」

ソンは言った。

「ええ?チョンホ道令がユンナの悪口を言ったのか?」

チョンジンは驚く。

「ユンナをどう思うか聞いたら、あいつ怒りだしたんだ」

ソンはみんなに睨まれ、不貞腐れて言った。

「なんで怒りだすんだよ」

「だから知らないって!おれに聞くなよ!」

ソンはそう言って書堂の方に向かったが、イドが制した。

「待てソン。これ知ってるか?ユンナが明日から裁縫の教室に来なくなること」

「えっ?!」

ソンは驚いて立ち止まった。

「あのハ・デヒョンナウリがユンナに手を出そうとしたみたいで、それがオム・ヒウォン令監のお耳に入って大層お怒りになったらしい。ハ・デヒョンナウリを出入りさせているパク・スボク先生も大分叱られたらしいけど、昔からの縁で許してもらったらしい。でも、ユンナはここから遠い別の家で裁縫を習わせるんだそうだよ」

チョンジンは言った。

ソンは青くなる。

「ハ・デヒョンナウリはまだユンナを口説いてたのか?」

「まだって、お前知ってたんだな。よくわからないけど、多分女の子の中の誰かが令監の従者に密告したんだって噂だよ」

「女の子って誰だよ?!」

「さあ。いずれにせよ、もうユンナとは会えないな。あんなに面白い会話ももう聞けないのか」

チョンジンは少し残念そうに言った。

 

授業が始まってもチョンホとソンは険悪だった。彼らが親友になって以来そんなことは初めてだったので、先生たちや他の生徒まで緊張して気を張っていた。授業が終わるとチョンホは一目散に出て行き、ソンはチョンホのことなど構わなかった。

 チョンホは池のほとりに1人座ってじっと考えを巡らしていた。

 彼がソンに対して怒鳴ったのは日頃の不満が重なってだった。チョンホは親友の自分より、新参者のユンナを優先するソンにずっと不満を感じていた。長い間親しくして築いた絆を、ユンナに一瞬にして崩されたように感じていたのだった。

 チョンホはこれほど孤独を感じたことは無かった。小さな頃も、父に邪険にされてもそれが当たり前だったから取り立てて孤独を感じることはそれほどなかったのだ。だが今は違う。一度できた無二の親友が自分のもとを離れ、後は自分の事を嫌う父と、父の言いなりになった自分の婚約者がこれから自分の周りの人間となるのだ。

(そんなことなら誰とも親しくならなければよかった。)

一度得たものを失う方が、最初からないよりはるかに辛い。チョンホは元々内向的で交友関係も少なかったゆえ、ソンに精神的に依存しきっていたのだ。それゆえ、自分を捨てるソンが余計に憎く、冷静に彼の幸せを考えることが出来なくなっていた。

 チョンホは深呼吸して怒りを鎮めようとした。彼は親友だ。今までずっといろいろなことを話し合ってきたのだから、今回も自分の気持ちを分かってくれるに違いない。もしかしたら、今も自分を探しているかもしれない。チョンホは変な期待を得、立ち上がった。そして親友を取り戻すべく歩き始めた。

 

 

 ソンは書堂を出て、針の教室から出てくる女の子たちを眺めていた。

多くの子たちがユンナとの別れを惜しみ、時に涙まで流している。ソンは一通りユンナがあいさつし終えるのを待ってから、声を掛けようと一歩踏み出した。

 だが、彼はすぐに引き返し角に戻った。ソンは考えた。声を掛けるって、一体何をだ。これからはもう会えないのに、何て言ったらいいんだ。さようなら?お元気で?ソンは考えると胸が張り裂けそうだった。ああ、恋とはこのように終わっていくのか。

 ソンは動揺を抑えきれなくなり、書堂に戻った。最後にユンナと話したいのに、何といえばいいか分からなかったのだ。彼は誰もいない教室に入り、自分の席に座り込んだ。

「なんて馬鹿なんだ。本当に、なんて馬鹿なんだ」

ソンは自分の頭を殴った。それでも感情を抑えることが出来ず、彼は悔しさで涙を流した。

(ああ、あれだけ大事に想っていたのに、本心も言えず、二度と会えないのか!)

ソンは声が漏れないよう口を押さえて泣いた。

 

ユンナは惨めな気分で友人たちに別れを告げた。親しかったホヨンやハンビ、チェリョンは泣いて別れを惜しんだ。ユンナはまたいつか会えると彼らを慰めた。だが、そうやって裁縫の教室の前でいくら時間を稼いでも、彼女が本当に待っている人物は来なかった。時々周りを見回すがどうしても見つからなかった。

もしかして、自分が去ることを知らないのでは。そう思ったユンナは、だめもとで童生たちが帰った後の書堂の中を覗いた。人っ子一人いなかった。

ユンナはオッコルム(チョゴリの結び紐)につけていたノリゲを外した。これをソンの机の中に入れて帰ろう。それならば、きっと自分の別れの挨拶だと気づいてくれるだろう。ユンナは辺りを見回して誰も見ていないのを確認すると、そっと書堂の中に足を踏み入れた。

彼女は当然書堂に入るのが初めてだったので、どこがソンたちの教室か分からなかった。だが、ふと縁側に靴が1組だけ置いてあるのに気が付いた。彼女はそっと近寄った。間違いなく、見慣れたソンのあの靴である。

ユンナは縁側に上がり、自分の靴を軒下に隠してそっと教室の中を覗いた。

僅かに開いた扉の隙間から、1人の青年の背中が見える。よく見ると時々肩を震わせているようである。ユンナはしばらくじっとその姿を見つめた。

「道令様」

ユンナは胸の高鳴りを押さえて言った。ユンナの声にソンは驚いて振り返る。だがすぐに顔を袖で隠し、急いで涙を拭った。

ユンナは扉を開けて中に入った。ソンは立ち上がる。

「お別れがしたくて」

ソンは涙を拭き終えると、まじまじとユンナの顔を見た。

「テヒョンナウリの件で父上がお怒りになって、書堂にはもう近づけないことになったんです。ですから、道令様にお会いするのも今日が最後だと思います」

ソンは何も言わず呆然とユンナを見つめた。

ユンナは額の前で手を重ね、そのままソンに向かって礼を上げた。ソンは黙ってそれを見つめる。

「今までありがとうございました」

ユンナはそう言って深々と頭を下げ、目を伏せたまま踵を返し扉に向かった。

「ユンナ」

ソンが呼び止めた、ユンナは足を止める。

ソンは深呼吸した。

「・・・別の裁縫の教室に行ってからも、会えないか」

ユンナは振り返る。

「・・・えっ?」

「会いたいんだ。ユンナ、気づいていると思うけど、おれは君のことが好きだ。だから、もし君さえ良かったら、おれの気持ちを受け入れてほしい」

ユンナは目を丸くしてソンを見つめた。口はぽかんと空いている。

ソンは少し頬を紅潮させたまま、真剣な目でユンナを見つめていた。

「・・・道令様・・・」

ユンナの目に涙が浮かんだ。ソンは驚いて戸惑う。

「・・ご、ごめん、泣かせるつもりは・・・」

「・・・遅い!」

ユンナは鋭い目でソンを見た。

「・・えっ?」

ソンはうろたえた。

「なんでもっと早く言ってくれないんですか!・・・ずっと待ってたんですよ!」

「じ、じゃあ・・・受け入れてくれるってこと?」

ソンは目を輝かせる。

ユンナは泣いたまま、顔を赤くして頷く。

ソンの顔がほころんだ。

「ああ、ユンナ・・・ありがとう」

ソンはユンナの手を取った。ユンナはソンの目を見て微笑み、再び頷いた。そんなユンナの目を見つめながら、ソンは彼女の涙をそっと拭ってやった。

 

 

「そろそろ帰らないといけない時間ですわ」

ソンとユンナは中庭で2人きりの時間を過ごしていたが、日が傾くのを見てユンナは言った。

「そうだね。近くまで送るよ」

ソンはそう言ってユンナの手を握った。

ユンナは微笑む。

「いいえ、従者がきっと迎えに来てますから、道令様は見つからないようにここにいて下さい」

「そうか・・・わかった」

ソンは頷いた。2人は微笑みを交わし合う。

「じゃあ・・・私、行きますね」

ユンナはソンの手を放した。

「待って」

ソンはそう言ってユンナの手を再び取った。ユンナは思わず笑みがこぼれる。

「道令様・・」

「ユン家の前にいたら、来てくれるんだよね?」

「ええ、必ず」

「わかった・・・じゃあ・・・」

ソンはそう言ったものの、名残惜しそうにして手を放さなかった。

「明日になったらまた会えますから」

ユンナはそう言ってソンを促したが、彼女もソンの態度に嬉しそうな表情を浮かべた。

ソンはしばらく迷っていたが、やがてユンナに微笑みかけて彼女の手を引き寄せ、胸に抱き留めた。

 

親友との和解を期待して書堂に戻ってきたチョンホが目にしたのは、彼にとっては受け入れがたい光景だった。チョンホは思わず持っていた本を取り落としかけた。

彼は急いで書堂を出た。早足で家に向かいながら、今しがた見てしまった光景を思い出した。チョンホはイクスと妓生の情事を幼い頃から心に傷を負う程何度も目にしていたため、男女の情愛を未だ受け入れられていなかった。ただでさえソンのユンナへの気持ちに気づいてから不快な思いをしていたのに、親友がそのような行為をしているのを目にして不愉快極まりなかった。もっとも、ソンがユンナを抱きしめていただけであるが。

チョンホはソンと仲直りをするために書堂に来たはずだった。些細な言い争いはあっても、あれほど大きな口論をしたことは今まで1度もなかった。だが、二人の友情が危機に陥った中、親友は自分との仲直りなんてすっかり忘れて最近現れたばかりの女とあのような行為に耽っているのだ。チョンホは絶望に似た暗い感情が心にどっと押し寄せるのが分かった。彼は立ち止まった。屈辱と悲しみに背中を押され、チョンホは踵を返した。そして、パク家のスボクのもとへ急いだ。

 

第四章 完

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今回はここまで。

みなさんまた次回爆  笑