皆さんこんにちは
前回のあらすじ
好色のハ・デヒョンに口説かれているユンナを助けようとしたが彼女に逆上されてからというものの、ソンは落ち着きがなくなった。そんな中、テヒョンがソンのもとを訪れ、名家の令嬢であるユンナと結婚して婿入りし、不自由のない暮らしをしたいという野望を明かす。そんなテヒョンを諭すソンだが、テヒョンの言葉で自分のユンナへの好意に初めて気が付く。2人の会話をこっそり聞いていたユンナは、ソンを誤解していたことに気づく。
数日後、ソンは突然の雨に一人雨宿りをするユンナを見かける。彼は姉のホヨンに傘を借り、ユンナのもとに戻って傘を貸す。2人はそこで、初めて和解する。
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心境の変化
翌日の放課後、ソンがいつも以上にそわそわしているのに気が付いたチョンホはみんなが離れた隙に彼に話しかけた。
「なあソン、ちょっと聞きたいんだけど」
「うん?」
ソンは相変わらず上の空だった。
「お前、ユンナさんのこと好きだろ?」
チョンホの直球の言葉にソンは思わず咳き込んだ。
「・・・・えっ?・・・・」
「認めろよ。ユンナさんが好きなんだろう」
チョンホはソンの顔をじっと見つめた。ソンは自分の顔が赤くなるのが分かったので慌てて顔を背ける。
「・・・だから何」
出来るだけ平静を保って言おうとしたが、彼の声は震え目も泳いでいた。
チョンホはため息をついた。
「・・・勉強しろよ」
「えっ?」
「お前の話だよ。最近お前ずっと上の空じゃないか、パク・ミョンホン令監のお話を忘れたのか?今のお前に、恋にうつつを抜かしている余裕はないんだぞ。せめて成績ぐらいは維持しろよ」
「・・・わかったよ」
「ほんとに勉強しろよ。いつ科挙があるか分からないんだから」
「わかったって」
ソンは口を尖らせて言い、その場を立ち去ろうとする。
「どこ行くんだよ?」
チョンホはソンを呼び止めた。その日何の予定もなかったチョンホは、自分を置いて行こうとするソンに驚いたのだ。
「・・・ちょっと今日は用事なんだ。また明日な」
ソンはぶっきらぼうにそういって彼のもとを去った。チョンホは大きなため息をつき、イドやリョウォンのもとに向かった。
ソンが書堂の外でうろうろしていると、ユンナが角から首を出してこちらを探しているのに気が付いた。裁縫の教室の帰りのようだった。
ソンは急いで駆け寄った。ソンに気が付いたユンナは角から出て来た。裁縫用具を入れた風呂敷を持つ以外は手ぶらだった。
驚いた表情のソンにユンナは話しかける。
「ごめんなさい、その・・・・、今日はあまりに晴れていて、傘を持って出かけるのが恥ずかしくて・・・」
ソンは思わず吹き出す。
「考えてみれば、確かにそうだよな」
「それで・・・申し訳ないんですけど・・・、うちまで取りに来ていただけません・・・?」
「今から?」
「都合が悪いなら今度でも・・・」
「・・いや、特に用事もないし、もちろん行くよ。なんだ、壊したか失くしたんだと思った」
ソンはユンナの家の方向に歩き出しながら言った。
「そんな、ホヨン姉さんの傘をそんなことしません」
「・・・やっぱり、姉上のだってばれてた?」
「もちろんです。だって、女物の傘なんかを道令様が持ってらっしゃるわけがないじゃないですか」
ユンナは苦笑いして言った。
「た、確かに・・・。あれ?じゃあ、今日、姉上に傘のこと言った?」
「ええ、一応、お礼を言いましたわ」
ソンは戸惑う。
「ああ、姉上に何も言わずに借りたんだけどなあ・・・」
ソンは呟いた。
「えっ?こっそりとってきたんですか?」
「え?あ、いや、そうじゃなくて・・まあ・・・そんなもんだけど・・・」
ソンは誤魔化した。
ユンナは笑った。
「ところで、ミン・ジョンホ道令様は?」
「チョンホ?何で?」
「だって、お二人はいつも一緒にいらっしゃるじゃないですか」
「そ、そうかな?まあ、そうかもな・・・」
「御親友だって聞きました」
「うん。10歳の頃からのね。みんな意外だって言うんだけど、でも気はほんとによく合うんだ」
「私はミン・ジョンホ道令様をよく存じ上げないから、何とも・・・。でも、あの方は生真面目な方だと聞いてましたので、確かに最初は意外でした」
「うん・・・・えっ?おれが生真面目じゃないってこと?」
ソンの言葉にユンナは声をあげて笑った。
「真面目かどうかはさておき、生真面目ではないでしょう?」
ソンもつられて笑った。
「何だよ、言ってくれるよな」
「道令様のおっしゃった『ちび』よりましですわ」
「それは、その・・・・。悪い意味で言ったんじゃなく・・・。ほら、女の人って小柄な方がいいって言うじゃないか。だから、褒め言葉というか・・・」
「私をそういう目でご覧になっていたということですか?」
ユンナはからかうようにソンを見る。ユンナの思惑通り、ソンは慌てふためいた。
「あ?い、いや、何言ってんだ、その、そうじゃなく・・・いや、じゃなくて、そうじゃないわけじゃ・・・と、とにかく!わ、悪口じゃないってことだよ!」
ソンはそう言って頭を掻く。
ユンナはふふふ、と笑う。
「本当ですか?」
「な、なんだよ、おれが嘘ついてるって?」
「いいえ。冗談です。分かりましたよ」
「・・・ほんとに?」
「ふふふ、ええ。」
ソンは依然怪訝そうだったが、ユンナは楽しそうに笑っていた。
「・・・あのさ」
「はい?」
「その・・・・・・・・・なんでもない」
ソンは再び頭を掻いた。
「・・ええ?」
「なんでもないよ」
「何ですか、言って下さい」
「なんでもないって」
「気になるじゃないですか。言いかけたのなら言って下さいよ」
「その・・・、こないだ、おれとあのナウリとの会話、どこから聞いていたんだ・・・?」
ユンナは笑って答えなかった。ソンは焦った。
「なんだよ、答えろって・・・せっかく聞いたのに・・・」
「私に関心があるって道令様がおっしゃったところも聞いたかどうか気になるんでしょ?」
ソンは赤面した。
「い、いや・・・・・その、関心っていうのは・・・・」
「好奇心って言う意味でしょう?ええ、分かってますよ。心配しないでください、誤解してませんから」
ユンナはソンの好意に本当は気づいていたが、あえてそう言った。
「・・・ほんと?」
ソンはユンナをちらりと見た。少し戸惑った表情である。
「ええ」
ユンナはソンの目をじっと見て頷く。ソンは安心したようだったが、どこか浮かない表情だった。
それからというもの、2人は時々会話するようになった。
2人がどのようにして和解したかをみんなが知る由もなかったが、誰とでも親しくなるソンがユンナといつまでも揉めているはずがない、というのが全員の見解であった。女の子たちとソンが集まって話している時も、ユンナが自然に入ってくるようになった。一度に全員に気を遣うのが上手いソンは、ユンナとの和解後はよりいっそう女の子たちと親しくなった。そして毎日その様子を見ていたチョンホは、いつまでもこのままでいてほしいとそっと願っていた。
時々、ソンのもとにチョンホ目当ての女の子たちが訪れたが、シミンの友人であるユンナは彼らをソンの前で一蹴し追い出した。このことはソンのユンナへの信頼をよりいっそう高める結果となった。
チョンホは相変わらずシミンを避けていた。シミンは周りの意見に流されやすく優柔不断だったが、そういう点が彼には余計に気に入らなかった。シミンは段々、自分がチョンホに好かれていないことを知り始めていた。
梅雨が過ぎ、夏真っ盛りのこの日もユンナはソンの前に来て他の女の子と一緒に喋っていた。そんな中、イドやチョンジンもやってきた。
「あら、みなさんお久しぶりね」
ユンナと同い年の女の子であるチェリョンは言った。
「チェリョンじゃないか。そんなに顔を隠しているから誰かと思ったよ」
イドはにやにや笑いながら近づく。裁縫を習いに来ている少女たちの中ではチェリョンが一番美人と言われていた。ソンとチェリョンは既に親しかったが、それはハンビやユジンとの関係と全く変わらなかった。
「あら、チェリョンの折角の可愛い顔がですか?」
ユンナはにやっと笑ってイドに言う。
「相変わらずユンナは口が悪いなあ。一体誰に嫁ぐんだか」
イドはそう言って呆れて見せる。
「おいイド、前も言っただろ。お前ももてたいんなら、そういう時は『みなさん可愛いのに?』とか言うんだよ」
ソンはにやにや笑いながらイドを小突いた。
「ちぇっ、何だよ、ほんとにもててるのはチョンホだろ」
「あいつは女嫌いだから物の数に入らないんだよ」
「やっぱりあの方、女性嫌いなんですね」
チェリョンは不思議そうに言った。
「そうだよ。演技とかじゃなくて、ほんとなんだ」
ソンは言った。
「じゃあ、親友のソン道令様もそうなんですか?」
ソンはそれを聞いてチェリョンに対しにやっと笑いかける。
「そう見える?」
「いいえ。でも皆さんが言うように軽い方だとは思いませんわ」
「どうして?」
ソンは笑いながら聞く。その横でチョンジンは会話に入ろうとするが何度試しても上手くいかない。
「だって、みんなあなた様のことを褒めるんですもの。『軽いけどいい方だ』って。きっと、心根は優しくて一途な方に違いないです」
「おれが?」
「ええ。私、ずっと道令様がそういう方だって信じてましたの」
「はは、そうか、ならこれからも見ててくれ、お前の期待を裏切らないからさ」
「まあ」
2人が笑いながら話し合っている間、ユンナは真顔で彼らの会話を聞いていた。いつもならソンの軽口を面白可笑しく聞いて一緒に冗談を言っているのだが、この日はなぜかそういう気になれなかった。
「ごめんなさい、私、用事があるので帰りますわ」
ユンナはいきなりそう言うと、誰とも目を合わさず輪を抜けた。
ソンは驚いてユンナを目で追う。
「あら、さようなら。・・・でね、道令様って文武両道で、特に矢なんてとても上手でいらっしゃるじゃないですか。だから・・・・道令様?聞いています?」
ソンはユンナの後姿を見ていたが、チェリョンに呼ばれてはっとした。
「えっ?ああ・・・何でもない、ごめん」
ソンは適当に返事をし、再び去っていくユンナに視線を戻した。
それ以来、ユンナはソンたちの会話の輪に入ってこなかった。
彼らが話している時も、ユンナは彼らを避けて通った。そんなユンナの姿をソンは何度も見たが、彼女は目があっても気が付かないふりをして去っていった。
姉がいて女心の多少わかるソンは、チェリョンとの会話がまずかったのではないかと気が付いた。だが、もしそれが原因なのであれば、ユンナもソンを意識しているということに他ならない。ソンは心なしか胸が躍るのを感じた。
ソンはある日、チェリョンらを避けてユンナを裁縫の教室の裏道で待ち伏せした。ユンナは案の定裏道を通ってやって来た。
「やあ、ユンナ」
ユンナは驚いて立ち止まる。
「一緒に帰らない?」
ユンナは目を逸らす。
「・・・急いでいるので」
そう言ってユンナはソンの横を通り過ぎようとしたが、ソンはユンナの手を掴んだ。
「待って」
ユンナはソンを見上げる。
「おれら話そう。最近君はおれを避けてるじゃないか」
ユンナは俯く。
「そんなこと・・・」
「仲良くなりたいんだ」
ソンはユンナの顔をじっと見つめて言った。
「・・・みんなに言ってるくせに」
ユンナはぼそっと言った。
「うん。でも、誰にも口説いて言ってるんじゃない。おれは今まで口説いたことは一度もないんだ。チェリョンはあんなこと言ってたけど、裏を返せばおれがまだ誰にも声を掛けてないって事だろ?」
ユンナは答えない。
「だから、頼むからおれを避けないでくれ。おれたち、友達になろう」
ソンの言葉にユンナは顔を上げた。
「・・・友達?」
「ああ。君と友達になるのは他の子ほど簡単じゃないけど、でも友達になったらきっと仲良くやっていけると思うんだ。だから、友達になろう」
ユンナは目をぱちくりさせた。ソンはユンナに優しく微笑み、彼女の腕を取って歩き出した。
ユンナはソンを見上げながら考えた。
ソンは本当に自分に好意を持っているのだろうか?先日のチェリョンへの態度を見た時、心なしか失望のような感情を抱いた彼女であるが、ソンの先程の言葉はそれを裏付けるものではないか。しかし、彼の誠実な態度は彼女の心を動かし始めていた。この人は、初めから駆け引きなんてするつもりはないのかもしれない。好意の有無に関わらず、真心を込めた態度で接してくれているのかもしれない。
ユンナはソンの端正な横顔をただじっと見つめ続けた。
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今回はここまで。
皆さんまた次回