皆さんこんばんはパンダ

 

前回のあらすじ

チョンホたちが採紅使から中人の夫婦を助けた一件以来、ソンは10日もの間外出禁止となり書房に来なかった。堪り兼ねたチョンホはスボクを問い詰めるが、スボクはチョンホの軽率な行動と今までそのことを黙っていたことを叱る。だがチョンホは、申し訳ないと思いつつ、夫婦を助けたこと自体は間違いではないとスボクにきっぱり宣言した。チョンホは彼たっての希望からみんなの前で罰を受け、ソンは翌日から書房に来られるようになった。その日の授業後、2人はチェ・パンスル商会に訪れる。自身の内戚であるチェ一族の少女クミョンに親切に接するチョンホだが、クミョンがもうすぐ女官になるため宮中に入ることを知って驚く。一方のクミョンは、元から身分も違い、さらに女官として王の女になる自分と王の臣下になるチョンホは決して親しくなってはいけない仲だと感じたが、それでも密かにチョンホを慕う気持ちを捨てることは出来なかった。

 

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発熱

 

夏が過ぎ、漢陽に再び秋が訪れた。

チョンホの同級生のうち何人かは、夏の間に許嫁を決められていた。幼少期より決まっている子も何人かいたが、多くの子はこれから決まるようだった。そのため、時期を考慮してか、先生が放課後にみんなを集め、結婚とは何かをみんなに話した。

上に兄のいる子は既にませていて、時々自慢げにいろいろな話をみんなに披露することもあった。だが、大人の男性が堂々と語るその話は、友人同士でのおしゃべりよりはるかに刺激的で生々しかった。何人かは赤面し、何人かは友達と腕を掴み合い、時に鼻水を垂らしたりしながら身を乗り出して聞いていた。チョンホのように、見えない手で耳を塞いで聞いていないかのような顔をしている子は他にいなかった。

それ以来、子供だった彼らは『大人』になり始めた。上の学年で出回っているいかがわしい本をこっそり持って来て授業中に回す子もいれば、突然隣の子に何かを耳打ちして赤面させる子もいた。中にはもっと破廉恥なことをする子もいたが、ここでは省略する。

ソンも他の少年たちと等しく、興奮してその話を聞いていた一人であった。いや、それが正常なのである。彼は次第に、他の子たちに混ざっていかがわしい物を見る時間がどんどん長くなってきた。チョンホが全く関心を示さないので、2人が一緒にいる時間も以前より少しばかり減った。

だがある日、誰かが『場違い』な物を持って来た。その本のいかがわしさは変わらないが、その本にはたった一人の『女』も載っていなかったのである。

「うええっ!気持ち悪い、誰だよこんなの持って来たのは!」

イドが大声で叫んだ。

「しーっ!」

持ち主のリョウォンは慌ててイドの口を塞いだ。

「何だよ、男しか載ってないじゃないか!」

イドは小声で言った。

「聞けよ。これを春画の代わりに授業中に回したら、面白いと思わないか?みんな知らないで開けたらきっと飛び上がると思うんだ」

リョウォンはにやにや笑いながら囁いた。

「ああ、なるほど!それはいいね、面白そう」

イドはにやついて賛同した。

「何してるの?」

ちょうど登校してきたチョンホがすれ違いざまに声を掛けてきた。

リョウォンは笑いながら、チョンホに耳打ちする。

「・・・おい、やめとけって」

チョンホは顔をしかめた。

「何でだよ、絶対面白いって!」

「だけど・・・」

「あっ!先生が来た!お前、このこと絶対ソンに言うなよ」

イドはチョンホの肩を叩いた。2人は走って去って行った。

チョンホはやれやれとため息をつき、教室に向かった。その後はリョウォンやイドとの会話はすっかり忘れていた。

授業中、案の定その『本』はこっそり回された。何人かは飛び上がって本を閉じ、他の子にすぐさま手渡した。チョンジンは本を開くなりその大きな体を大きくうねらせた。幸い先生は気が付かなかったが、生徒たちの多くはそれに気が付き、教科書の下でくすくす笑った。

「おい、これ、男色じゃないか!」

チョンジンは怒った表情でイドに囁く。

「おれじゃないって!こいつだよ」

イドは親指でリョウォンを指さす。リョウォンはチョンジンに向かってにやりと笑った。

「チョンジン、早くソンに回せって」

チョンジンの後ろの子が言った。

チョンジンは先生が見ていない隙に、一番前のソンの膝の上にそっと本を置いた。

ソンは授業に集中していたが、膝に何かを置かれて本から目を離した。

『春恋乱記』

本の表紙には、リョウォンが適当に書いたそれらしい四文字が並んでいた。

ソンは首を傾げ、本を開いた。

チョンホも授業を聞いていたが、ソンが横で何やらごそごそしているので彼に目を向けた。

ソンはその怪しい本を真顔で開き、全く驚きもせず至って真剣な顔でじっと見つめていた。

チョンホはイドやリョウォンとの会話を思い出した。これが彼らの言っていたその本だとしたら、なぜソンは、書経でも読んでいるかのように真面目腐った表情で見つめているのだろう?

後ろからソンを見ていた他の生徒たちも、ソンの様子がおかしいのでそわそわし始めた。

「えっ?何あいつ、あれ見てるのか?」

リョウォンはイドに囁く。

ソンは黙って慎重に頁をめくった。

横から覗いていたチョンホはあっと言って目を逸らす。しかし、ソンはそれでもその本をまじまじと見つめていたのである。

我慢ならなくなったイドは、後ろからソンを小突く。ソンは飛び上がって本を閉じた。

「おい、コ・イド!ソンに構ってないで集中しなさい!」

先生の怒号が飛んだ。

みんなはくすくす笑う。

イドはふくれっ面で周りを見回し、教科書を手に持った。

ソンは我に返ったようで、その本をチョンホに渡さずそっとチョンジンに返した。

 

授業が終わると、生徒たちはソンに詰め寄った。

「さっきお前全然驚かなかったじゃないか!まさか、おれのいたずらだってわかってたのか?」

リョウォンは言った。

「え?あ、う、うん、当たり前だろ!」

ソンは取り繕うように言った。

「なあんだ、つまんないな。それでチョンホ道令に回さなかったんだ。だから言ったんだよ、表紙に変なこと書くのやめろって」

チョンジンは不満そうに言った。

「チョンホ?ああ・・・」

ソンは上の空で言った。

「おいチョンホ、お前、ソンがこれ持ってるとき横から覗いてただろ」

イドがチョンホの肩を叩きながら言う。

「いや、そうじゃなくて、ソンがあんまり真剣に見てたから・・・」

チョンホはもごもご言った。

「てかなんでお前そんなに顔赤いんだ?照れてんのか?」

イドはチョンホの顔を下から覗き込む。

「えっ?照れてなんかないけど・・・」

「耳を見せろ耳を」

リョウォンはニヤニヤしながらチョンホの耳を見たが、彼の耳たぶは蒼白だった。

「あれ?死にそうなくらい真っ青だけど?どうした?鼻も赤いし」

「そんなに?」

「うん。お前、熱でもあるんじゃないか?」

すると、ソンがチョンホの額に手を伸ばした。

「熱っ!ほんとに熱じゃないか!自分で気付かなかったのか?」

チョンホは思い返してみた。そう言えば、今日はなんとなくぼーっとしていてあまり集中できなかったような気がした。

「うーん、そう言われてみればそうかな・・・?」

チョンホは首を傾げる。

「お前今日は早く帰ったほうがいいよ」

リョウォンが言う。

「そうだよ、家で休め。送ってやるから」

ソンはチョンホの肩に手を回し、半強制的に外に連れ出した。

 

チョンホたちがみんなと別れてから少し経って、チョンホは突然立ち止まった。

「・・どうした?」

ソンはチョンホの顔を覗き込む。

「今帰ったら、父上が迷惑がるかも」

チョンホは不安そうな表情で言った。

「えっ?どうして?」

「いつもより帰るのが早いから。きっと、まだ妓生が家にいると思う」

「最近はあまり来てないんじゃなかった?」

「うん、でも全く来てないわけじゃないんだ。そういう日も、おれが帰るまでにいなくなってるだけだと思う」

「でも、お前熱があるじゃないか。さすがに大監も熱のあるお前を叩いたりしないって!」

そう言ってソンはぽん、とチョンホの肩を叩いた。チョンホは黙って俯く、

 

家の前で2人分かれたが、チョンホはやはりどうしても中に入る気にはなれなかった。困った挙句、チョンホは入り口の脇の壁にもたれて座り込んだ。だんだんと頭ががんがんしてきた。腕に鳥肌が立ち、だるくなって再び立ち上がるのも億劫になった。そうしているうちに、チョンホは眠ってしまった。

まだ日が暮れるには早い時間なのに辺りはだんだん暗くなり、太陽は灰色の雲に隠されてしまった。そのうち空気が湿っぽくなり、ぽつり、ぽつりと雨が降り出した。それでもチョンホは起きなかった。

 

申の刻から半刻が過ぎた頃(午後7時頃)、チョンホを心配したチヒョンが屋敷から出て来た。彼は初め、あまりの雨の多さに入り口のそばで眠っている少年に気が付かなかった。だが、何かにつまずいてふと脇を見ると、チョンホが大雨の中座り込んで寝ているのを見つけた。

 チヒョンは驚いて大声を上げ、急いで自分の上着を脱ぎチョンホに掛けた。

「道令様、道令様!」

チヒョンがチョンホをゆするが返事はなかった。息はあったので一安心したチヒョンは、チョンホを屋敷に連れて入った。

 

とりあえず服を着替えさせ髪を丁寧に拭いて寝かせたが、事情を知ったイクスは激怒していた。あまりの大騒ぎに、ここではチョンホをゆっくり休ませてやれないと感じたチヒョンは、スボクのもとに行って事情を話した。スボクはその足でチョンホを迎えに行き、自分の屋敷に連れて帰った。もちろん、イクスには無断で。

ぐったりしたチョンホが連れて来られるのを見たソンは激しく動揺し、事情をよく知らないにも関わらす自分を責めた。ソンが頼りないと感じたスボクは、姉のホヨンにチョンホの看病をしてやるよう言った。もともとチョンホをいい子だと思っていたホヨンは喜んで引き受けた。

スボクはすぐに医員を呼ばせ、診脈させた。医員は傷寒症と診断し、葛根湯を無理矢理にでも飲ませるようスボクらに言った。

既に深夜であった。スボクは家族を寝かせ、家の者に葛根湯を用意させた。うなされたまま意識がないチョンホの体を起こし、銀匙で無理矢理口の中に湯薬を押し込んだ。そうしてチョンホを寝かせると、従者たちに世話を任せて自身も眠りに就こうとした。だが、自室に向かう途中、廊下から誰か顔を出しているのが見えた。

「・・・ソンか?」

ソンは奥から寝間着姿のままそっと出て来た。

「父上、チョンホは大丈夫ですか?」

「・・ああ。傷寒症とのことだが、医員はすぐに目が覚めるだろうと言っていたよ」

「そうですか・・・」

「どうかしたのか?」

「・・・その、チョンホが、屋敷の外にいたと聞きましたが、本当ですか?」

「ああ」

ソンは俯いた。

「どうかしたのか?」

「今日、チョンホが熱があるみたいだったのであいつの屋敷まで送ってやったんですが、チョンホはこんなに早く帰ると大監の機嫌を損ねるって言ってたんです。だけど、僕が、大監もさすがに熱があるんだから怒らないだろうって言って、チョンホの意見を聞かなかったんです。あの時、チョンホをうちに連れてきていたら・・・」

スボクは笑って、ソンのもとに近寄る。

「お前が悪いんじゃないよ。あそこで待つことを選んだのはチョンホだ。あの子も、初めからうちに世話になろうとするほど厚かましいことは考えなかったんだろうよ。これはあの子自身の問題なんだ。だから、お前は心配せずにもう寝なさい」

そう言ってスボクはソンの頭をぽん、ぽんと叩いた。

「・・はい」

ソンは依然不安そうだったが、素直に部屋に帰って行った。

 

 

 

目の前に鞭が待っている。

何本も、何本も・・・。

他の子供たちはするりと抜けていくが、自分だけは何度もぶつかって、足を取られてしまう。

誰かが大声で笑っている。着飾った女たち。辺りには酒の匂いが漂う。

イクスがふかふかの金色の座椅子に座ってこちらを指さす。

『やはりお前は一番の親不孝者だ!』と・・・・

 

 

 

「道令様」

高い声が聞こえる。

「道令様!」

チョンホは目を開けた。

ぼんやりとした視界の中に、見慣れない顔がこちらを覗き込んでいた。

「えっ・・・」

チョンホは呻くように答える。

「道令様、お目覚めですか?」

肌色の長い物が目の前にすっと伸び、額に触れる。滑らかで、暖かい感触だった。

「熱も下がってきていますね」

2、3度瞬きしたチョンホは驚いて飛び上がった。

目の前にホヨンが座っていた。

「ほ、ホヨンお嬢様・・・!」

チョンホは目をぱちくりしながら辺りを見回す。どうやら、自分の部屋ではないようだ。既に日は高く、自分は絹の布団に寝かされていた。服も、いつの間にか着替えさせられている。

チョンホは慌てて布団を引き寄せ体を覆った。

ホヨンは笑う。

「そんなに驚かれなくても。父上が私に、道令様のお世話をお命じになったのです」

感謝しなければならないのは十分わかっていたが、迷惑な話だ、とチョンホは思った。何もホヨンに世話を頼まなくてもいいのに。ではホヨンは、自分の寝ている間ずっとそばで見ていたのだろうか??

ホヨンは15歳だった。両班の女性の中では結婚適齢期である。身を綺麗に整えたホヨンは、仕草も話しぶりもずいぶん大人っぽく見えた。

「さっき、寝言をおっしゃっていましたよ」

ホヨンはふふふ、と笑って言う。

「わ、私が寝言をですか・・・?」

チョンホは戸惑う。

ホヨンは再び笑っただけでそれ以上は何も言わなかった。

「ところで、何も食べていらっしゃらないでしょう?何か用意させてきますね」

ホヨンは優しく言って立ち上がり、部屋を出て行った。服に香を焚いているのか、チマが揺れるたびにいい香りが広がった。

チョンホは呆然と座っていた。が、急に思い立つと布団をめくり、自分の身なりを確認した。

乱れてこそなかったが、こんな姿をホヨンに晒したとは。まさか、自分を着替えさせたのもホヨンなのか?そもそも、どんな寝言を言ったのだろう?!

チョンホは考えるだけで吐き気がし、一人で赤面して布団を頭まで被った。

 

時々従者が庭を歩く音が聞こえる以外、チョンホのいる部屋からは何も聞こえなかった。チョンホは寝そべって天井をぼうっと眺めた。無機質な景色である。体は重く、全身が熱く火照っていたが、彼の頭はいつも通りに回転していた。しばらくの間天井を見つめ考え事に耽っていたが、それにも飽きて体を横に倒し、自分の右の手のひらを見つめた。

子供の手である。指の付け根にところどころ豆が出来ている。が、少し前に比べどこか筋肉質である。以前より分厚く、全体も大きくなっていた。

チョンホは起き上がって足をぴんと伸ばした。前まではそんなことは無かったのに、血管が浮き出始めていた。ふくらはぎも鳥の足みたいだったのに、いつの間にか筋肉が魚の腹のように張り詰めている。

チョンホは戸惑いながら、自分の顎に手を伸ばした。彼の顎は相変わらすで、何の変哲もない。チョンホはもう一度自分の脚に目を移した。

「道令様、ホヨンです。失礼します」

何の足音もなく唐突に扉の向こうからホヨンの声がした。

チョンホは慌てて布団をかぶり寝転がったが、その前にホヨンが入ってきた。

「そんなお隠れにならなくても・・・」

ホヨンは笑う。チョンホは顔を赤くした。

「さあ、何かお召し上がりにならないと」

ホヨンはそう言って、持っていた粥をチョンホの前に置いた。

「あ、ありがとうございます」

チョンホは気まずそうな表情で起き上がった。

「どうですか?この部屋、少し暑すぎますか?」

「い、いいえ、大丈夫です!」

チョンホは慌てて言ったが、実際のところ、体中火照って汗ばんでいた。

「お体の方はどうですか?」

「だいぶ楽になりました。ありがとうございます」

「ソンが朝からずっとうるさかったんです。道令様が無事なのかって何度も聞きに来て・・・。あの子はまだ子供みたいに騒いでばかりで。そう思いません?」

ホヨンはため息をつきながら言った。チョンホは笑う。

「そのような・・・。ここに来る前に最後に話したのがソンだから、きっと驚いたんだと思います」

「まあ、そんなこと。お話しぶりがソンと同い年には思えませんわ」

ホヨンは感心して言う。

「ソンの方が5か月も早く生まれていますよ」

「ええ?じゃあ道令様は11月にお生まれに?」

「はい」

「あら、寒い時に生まれた子は傷寒症にならないって思ってましたけど、私の勘違いでしたね」

ホヨンは笑って言う。

「僕は昔からよく熱を出したんです。だから、いつもあまり深刻に考えなかったんですけど・・・。今回みたいに倒れたのは初めてです」

「よく熱を出されるの?」

「はい」

「なら父上がお怒りになるわね」

「えっ?」

「うちの父が言っていることをご存知ないかしら?官員になるためには学も必要だが、体を整える能力も必要だって昔からおっしゃっています。だって、殿下にお仕えするようになって熱なんか簡単に出せませんでしょ?」

「確かに・・・」

「そういえば、道令様はお痩せになってお体も弱いと聞いたことがあります。前に拝見した時はそう思いましたが、今日は病床に臥せっておられるのに痩せたような感じはなさいませんね」

チョンホはそう言われて無意識に自分の腕を見る。確かに、前のように骨と皮だけの体ではなくなったようだった。

「でももうそろそろ体つきも変わられますからね」

ホヨンは微笑んで言う。特に意味のないはずのその言葉にチョンホは自分の耳が赤くなるのが分かった。

「と、ところで、お嬢様のご婚約相手はお決まりになったのですか?」

「あら、未婚女性に気軽にそのようなことをお聞きになってはだめよ。他の人が聞くと、誘っていると思われるから。結局決まってませんの。というのも、先日うちに私を訪ねて採紅使が来て・・・」

「えっ?」

チョンホは驚く。ホヨンは目立つほどではないが、美しい娘に変わりはなかった。わざわざ訪ねてきたぐらいだから、ホヨンが宮中に向かわずに済んでいるのが不思議だったのだ。

「ですが、偶然庭にいる私を目にされたようで、あまりに大柄すぎると言って帰って行かれましたわ」

「そんな・・・」

チョンホは呆れる。未婚女性に大柄すぎると口にするなんて。確かにホヨンはかなり大柄だった。15歳にして今で言う170cm近くもあったのだ。それはスボクというよりは彼の妻チョン氏に由来していた。

「なぜそんなに残念そうになさるの。私にとってはよかったんです。だって一生宮中で暮らすなんて勘弁よ、私は将来いろいろなところに行ってみたいんですから」

「でも、それでなぜ縁談が進まないのですか?」

「それがね、その話を誰が広めたのか、殿下がお嫌いになるほどの高身長の女と言われて悪評が経ってしまったの。全く、皮肉な話ですわ。殿下だけでなく国中の男性のお心まで背いてしまうなんて」

ホヨンはため息をつく。

「そのようなことはきっとないでしょう。どうかお気を落とさないで。本当に良い方というのはただの噂などには耳を貸さないはずですから」

チョンホはそう言ってホヨンを慰めた。ホヨンは微笑む。

「お優しいのね。戸判大監はお厳しい方だとお聞きしましたけど、道令様は全く真逆の方のようですわ」

そう言ってホヨンはふと視線を下ろし、急に真顔になった。

「そうだ!せっかく温めた粥を持って来たのに、私としたことが・・・おしゃべりが過ぎました。早く召し上がって下さい」

そう言うとホヨンは慌てて立ち上がった。

「あっ、いえ、構いません、お気になさらず」

チョンホは長い間部屋に一人きりで退屈していたので、いつの間にかホヨンがいてくれた方がいいと思っている自分に気が付いた。チョンホはそう言ってから少し耳を赤くした。

それを見たホヨンは笑って再び元の場所に座った。

 

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今回はここまで。皆さんまた次回ネザーランド・ドワーフネザーランド・ドワーフ