皆さんこんばんは照れ

 

前回のあらすじ

イクスにつけられたチョンホの腕の傷をうっかりばらしてしまった件で、ソンはチョンホを呼び出し詫びる。ソンの誠実な態度に、チョンホは次第に心を動かされる。しかし、ちょうどその時イクスがチョンホを殴っていることが書房で噂となり、先日の腕の傷の一件でソンがチョンホに嫌がらせをしたのだと生徒たちは誤解する。ソンをあからさまに仲間外れにしようとする生徒たちの前で、チョンホは真実を話し、ソンを連れ出す。周りの態度に憤慨するチョンホとは対照的に、ソンはこの件をあまり気にしていなかった。2人だけ浮いてしまったことをきっかけに、彼らは一緒に遊ぶようになる。

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親友

 

 それからというもの、チョンホとソンは常に行動を共にした。

彼らは仲良くなってみてから、互いにとても気が合うことに気が付いた。2人とも根は真面目で、正義感が強く、素直で謙虚であり、また学問への情熱も強かったからである。

他の生徒たちも最初は不思議そうに彼らを見ていたが、次第に2人と和解し、いつしか毎日のようにみんなで遊びに行くようになっていた。

スボクはある日、教室に忘れ物を取りに帰った際、中庭でチョンホとソンが2人きりで話し込んでいるのを見かけた。

「・・・でさ、姉上が違うって言ったんだけど、やっぱりそうだったんだよ!」

ソンは言った。

「ほんとに?チョ家の庭で?」

「そうそう!信じられないだろ?だからやっぱり、いい木にはいい虫がいるんだって」

「そうなのかなあ。虫が木の蜜の味を見分けて棲み分けてるのかな」

チョンホはにわかに信じられないという顔で言った。

「ほんとだって!そんなに疑うんなら、見に行こうよ!」

チョンホは顔をしかめた。

「いやだよ、虫は苦手なんだ」

「おい、やっぱり女の子じゃないのか?虫ぐらい触れないで、刀が握れるかよ」

「そうかなあ。お前がそういうなら、一度だけ・・・」

ソンがにやっと笑った。

「そうこなくちゃ。行こう!」

ソンはチョンホの手を引いて門の方に去って行った。スボクは意外な表情で終始見つめていた。スボクの頭に、7年前のイクスとの会話が蘇る。

『なあ、スボク、思うに、あいつはおれよりお前に似ているから、大きくなったらお前が直接勉強を教えてやってくれないか。ソンと一緒に』

イクスが言った。

『しかし・・・』

スボクは躊躇う。2人の気が合うとは到底思えなかったからだ。

『悪いようにはしない。それに、チョンホがソンを悪い方に誘惑するとは思えない。お前に似た子が2人だ。お互いに競争し合っていいと思うんだが』

『・・・お前の頼みなら、わかったよ。2人が上手くいくとは限らないがな』

スボクは仕方なく言った。

『きっとうまくいくさ』

イクスは能天気に言った。

スボクはふっと笑った。やはり、イクスの人を見る目の鋭さにはかなわないようだ。他の先生の話でも、2人がいつもおしゃべりばっかりしていて何回も注意していると聞いた。だが、試験をさせるとあの2人が群を抜く。当然チョンホがいつも一番だが、ソンの成績は前より上がったらしい。チョンホなど、今までできなかったところをソンに教わってから、ソンより出来るようになってしまったらしい。スボクは2人が親しくなったことを心から嬉しく思った。だが同時に、自分とイクスのようにならないかという心配もあった。

 

 

その日の夜。パク家では正妻であるチョン氏がスボクに酒を注ぎながら、家族団らんの時間を過ごしていた。

「それで、他の女の子たちに訊いたらやっぱりチェ商会のものが一番きれいだって言うんです!」

13歳になるホヨンはソンの姉であった。年齢と性別にしたら異様に背が高かった。ホヨンは新しいチマを父にねだっていた。

「ね?父上、もうすぐ私も婚約者を決める時期でしょう?ですから、新しいチマをお買い下さい。ね?」

スボクはもう聞き疲れたという表情で苦笑いし、チョン氏を見る。

「あまりにしつこいから、頼むから買ってやってくれ」

「分かりましたわ」

チョン氏は笑いながら言った。ホヨンは嬉しそうに笑う。

「ははは。ところでソン、今日はチョンホとチョ家の大木の虫を見に行ったんだって?」

ソンははっとした顔で座り直す。

「・・・な、なんでご存知なんですか?」

「聞いてしまったんだよ、お前とチョンホが話しているのを」

ソンは嬉しそうに笑う。

「なんだ、チョ家の人に文句を言われたのかと思いました。ご存知ですか?あの木はびっくりするぐらい虫だらけなんです!みんなあそこの下を通りたがらないそうです!生垣にも芋虫がたくさん落ちてきて干からびているとか!」

そこにホヨンが加勢する。

「私も聞きました!裁縫を習いに来ている女の子の中で、チョ家の家の前を通る子がいるんです。やたら芋虫が落ちてくるので、そこを通る時は夏でも必ずクルレを被るんですって!」

「それはさすがに暑すぎるんじゃないの?」

チョン氏は笑いながら言う。

「聞いたことはあるな。だが、あの木の下に味噌甕を置くと美味しい味噌が出来るそうだ。だから切れないんだそうだ」

スボクは言う。

「やっぱり味噌も蜜の味が分かるのかなあ」

ソンは一人思案し始めた。

「何言ってるの。そんなわけないでしょ」

ホヨンがスボクを小突いて言った。

「でも、チョンホだって言ってたんですよ、虫が蜜を選ぶって」

「チョンホって、あの、ミン・ジョンホ道令?美青年で有名な?」

ホヨンは興奮して言う。

「そんなことで有名になっているのか?」

スボクは笑って訊く。

「はい、みんな言っています!本当に美青年だって!年上じゃないのが残念だけど、年下なら見る機会すらなかっただろうから結局よかったんじゃないかってみんな毎日言っていますよ!ソン、あの方とお知り合いなの?」

ソンはふくれっ面になる。

「姉上までなんだよ・・・。みんなあいつが賢くて優しくて何でもできておまけに美青年だなんて!でも、姉上、チョンホはおれの親友だから、会いたかったらいつでも会えますよ」

話しながらソンはだんだんにやついていた。

「チョンホと親友なのか?」

スボクは驚いて聞く。

「はい!最初はあんまり仲が良くなかったけど、一回大げんかして仲直りしてから僕たちほんっとに仲良くなったんです!毎日一緒に行動してるんですよ」

ホヨンは疑った表情でソンを見る。

「あんたがそう思ってるだけなんじゃないの?」

「ち、違いますよ!ちゃんと昨日話したんです。おれらって親友ってことでいいんだよなって。そしたら、あいつもうなずいてました」

「あんたを傷つけないためにそう言ったんじゃないの?」

「えっ?そうなのかなあ・・・」

スボクは笑う。

「はは、他の先生からも聞いたよ、最近お前たちが仲良くしているって。チョンホは嫌な人と無理矢理付き合うような子じゃない。父さんは意外だけど、でもお前たちがそう言うなら本当に親友なんだろうなあ」

ソンは嬉しそうに微笑む。

「ねえ、じゃあ、時々家にも来てもらったら?ね、いいでしょ、父上、母上?そんなきれいな・・・じゃなくて、そんないい子が来たら、楽しいに決まってます」

ホヨンは身を乗り出して言う。

「そうです!チョンホを家に呼んでもいいでしょ?あいつ、家に居づらそうだし、ここに来たら楽しいと思うんです!」

ソンも一緒に身を乗り出して言う。

「そうだな、今度ぜひ呼ぼう。実は、お父さんもそうしたいと思っていたんだよ。おまえもいいだろう?」

「ええ」

チョン氏も微笑んで頷いた。

「やった!じゃあ、その時はちゃんと言ってよねソン」

「なんで姉上に言わないといけないんですか?」

「私だってほら、いろいろと準備があるからじゃない」

ソンはしらけた表情でホヨンを見た。両親はそれを見、顔を見合わせ笑った。

 

 

チョンホはパク家に歓迎された。そこでチョンホは家族の温もりというものを学んだ。特に、女の子と接点の無かったチョンホにとってホヨンの存在は大きかった。ホヨンは優しく弟思いながら、一方で無邪気でもあった。

それ以来、チョンホは毎朝ソンを迎えに行くようになった。2人はいつでもどこでも一緒で、自分の身に起こったことは何でも話し合った。

チョンホは父との不仲を自分の口からみんなに話すことにした。言葉にすることで、彼自身の心の整理にもつながった。また、父との心の距離も適度に置けるようになった。それに、彼にとって今やスボクは第二の父親のような存在であった。彼は公私ともにチョンホを気に掛け、ソンをどこかに連れて行くときはチョンホも一緒に連れて行ってくれた。

色白でか細かったチョンホはスボクにこう言われた。

「守りたいものがある時に守れるようになりなさい。武術はお前にとってそのような手段となるだろうから」

チョンホは武術にも打ち込んだ。最初、他の子たちより全然できずソンに教えてもらったりしていたが、持って生まれたその吸収力ゆえかそれとも並外れた努力の成果か、気が付いたら武術でも一番になっていた。武術の先生がチョンホに軍官にならないかと勧めたくらいである。が、しかし、チョンホは人を傷つけることが生業である武術を本業にしたいとは思えなかった。むしろ、日がたつにつれ、自分を支えてくれた人の恩返しがしたい、困っている人の役に立ちたいという思いで官職を目指すようになっていった。

親友ができ、パク家で家族の温もりを知ったチョンホの性格は徐々に変わっていった。内向的な面は根本的には変わらなかったが、以前より口数が増え、漢陽になり、持って生まれた温厚さを取り戻した。彼を好かない者はいなかった。彼もみんなに分け隔てなく接したが、親友のソンは特別だった。チョンホはソンを無条件に信頼していた。ソンはと言えば相変わらずおしゃべりでお調子者だったが、その横でチョンホはいつも静かに微笑んでいた。2人でいる時だけはチョンホも少し饒舌になった。

イクスとの関係自体は改善しなかった。イクスは相変わらず酒と女に溺れる日々を過ごし、スボクはもう自身の旧友を救うことを諦めた。代わりに、ソリの忘れ形見であるチョンホに息子と同様の愛情を注ごうと決めた。チョンホは性格がどんどん明るくなっていき、父親に理不尽なことを言われたら言い返せるようになった。それは余計にイクスを激高させ、鞭が何度も振り下ろされたが、チョンホの心に以前のような敗北感は無かった。彼はもう、孤独でも寂しくもなかった。

しかし、チョンホの心が回復していったと誰もが思っていたが、1つだけ重大な見落としがあった。彼には母がおらず、使用人にも女性がいなかったので、ホヨン以外にまともな女性を知らないまま成長していったのだ。彼がそれ以外によく見る女性といえば、書房から帰るたびに父と関係を持っている妓生たちである。彼らはチョンホに当然優しく振舞いはしなかった。というのも、イクスが買った妓生なのでそうできないのは当然である。しかし、チョンホの女性への印象は彼女らのような姿で固定されていってしまった。

ただし、彼が女性に出会う年齢になるまで、当然問題は生じないのである。したがって、あれから2年がたち、背が随分伸びたチョンホとソンにはまだ関係のない話である。

 

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今回はここまで。また次回ちゅー