みなさん、新年あけましておめでとうございますあけおめ

今年もよろしくお願いしますsei

 

ということで、年明け早々物語の続きをアップロードしたいと思います爆  笑

 

前回のあらすじ

漢陽に来てから数日がたち、スボクの書房にチョンホが初めて登校した。スボクは優秀な子たちだけ自分の書房に集めていたが、その中でもいつも首席だったスボクの息子ソンは、無条件で転入してきたチョンホをよく思わなかった。チョンホはソンよりずっとよくできた。そんなチョンホにソンは嫉妬し、ソンの態度にチョンホも嫌悪感を覚える。授業後、上級生たちの弓の競い合いを見に行った際にも2人は口論になり、掴み合いのけんかになったところをスボクに見つかる。2人は罰として水桶を持って立たされるが、競い合いが終わってスボクが見に行くと、そこでもけんかになった2人はずぶ濡れで睨みあっていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

腕の傷跡

 

それからというもの、チョンホとソンは毎日いがみ合っていた。スボクは彼らの仲について関与するのはやめることにした。ただ、騒ぎは起こさないようにと2人に念を押した。

一方イクスはと言うと、相変わらす妓生を家に招き昼間から酒を飲んでいた。時々いいところにチョンホが現れると、わざと邪魔をしたなどと言ってチョンホを鞭で叩くことすらあった。チョンホはただでさえそういうところに踏み込んでしまって不快な気分になっているのに、それに加えてあざだらけのふくらはぎを何度も叩かれなければいけない理由が皆目わからなかった。さらに、妓生の目の前でそのような辱めを受け、チョンホは妓生への憎しみが隠せないほど大きくなっていった。

そんなある日、チョンホがチヒョンとともに帰宅するとイクスが妓生たちと縁側にいた。チヒョンがとっさにチョンホの目を覆ったので、何が起きているのかわからなかった。ただ、妓生の叫び声と急いで部屋に逃げていく音が聞こえた。

チヒョンは手を下ろした。チョンホが顔を上げると、服を乱したままのイクスが目の前に立っていた。彼は無言でチョンホの額を思い切り突き飛ばした。チョンホはのけ反りかえって倒れた。

「子供のくせに、空気も読めないのか!書房で何を教わっているというのだ。全く、何て情けない奴だ、どのような悪運で、このような子をもったのだ!」

イクスはぶつぶつ言った。この日は相当酔っているようで、顔は耳まで真っ赤であった。

チョンホはこのようなことは聞きなれていたので、いつものように聞き逃そうとした。すると、イクスが追い打ちをかけてこう言った。

「やはりこいつに漢陽の書房に行かせたのは間違いだった。こうして私の邪魔をする姑息な手段を覚えやがったんだからな。もう明日からは書房に行くのは禁止だ」

「ち、父上!」

チョンホは驚き、地面に倒れたままイクスの足元に這って行く。

「お願いです、もう二度と邪魔はしません、何でもしますから、書房にだけは行かせてください!」

チョンホは地面に頭を擦りつけながら言った。書房に行けず、一日中この家に縛り付けられるなどチョンホには考えられなかった。

しかし、この言葉にイクスはかえって逆上した。

「書房に行きたいだと?私の息子が?国中の者が聞いて笑うよ。本当に私の息子なら、そんなことを思うはずがない!お前の父親は、実は別の男だったんじゃないのか?」

「お願いします、どうか、父上、直します、直しますから、どうか・・・」

チョンホはイクスの足にしがみついた。

「汚いから触るでない!」

イクスは怒鳴って蹴り飛ばす。チョンホはそれでもイクスの足に再びしがみついた。

「・・・何でもすると言ったな?では、腕を鞭で100回叩いた後今から明日の朝まで屋敷に帰ってきてはならないと言ってもか?」

この時、さすがのイクスとて本気でそう言ったわけではなかった。

しかし、チョンホは顔を上げてイクスの目をじっと見た。

「はい!ぜひそうしてください!お願いします!!!」

イクスはひねくれていた。本気でなかったはずだが、チョンホがやると言ったので彼もやらざるを得なかった。彼はチョンホの左手をめくりあげ、鞭を持ってこさせた。チョンホは文字こそ右手で書かされるものの、普段は左利きだった。

腕などにむち打ちとは、とチヒョンはイクスに訴えたが、チョンホがあまりにも必死なので結局黙らざるを得なかった。

最初の20回ほどはチョンホも黙って目をぎゅっと閉じ、声も挙げず耐えていた。しかし、30回、40回と叩かれるうち、痛みで声を上げだした。そのうち目には涙が滲み、50回を超す頃には声を上げて泣いていた。

イクスは叩きながら、自分の良心も同じように叩いていることに気が付いていた。それに、この一発一発が、彼らの関係を再起不能にする決定的な一打であることは分かっていた。叩くたび、頭の中でソリの悲鳴が木霊した。しかし、彼の手は止まらなかった。もはや、彼は暴走する自分を思い通りにすることが出来なくなっていたのだ。一度放たれた狂犬は死ぬまで暴れ続ける。そう思いながらイクスはチョンホを叩き続けた。

チョンホの腕から血が滲み、鞭にも血が付いて飛び散り始めた。そのうち、気が付けば100回が終わっていた。イクスはチョンホを放した。チョンホはその場で泣きじゃくりながら、イクスに1つお願いをした。

「屋敷を出る前に・・・着替えだけ・・・持たせてください・・・明日は・・・武術の授業なので・・・・・着替えがないと・・・出られないんです・・・・」

イクスはチヒョンを睨むように見た。チヒョンは慌てて、チョンホの荷物を取りに行った。

イクスと二人きりになっても、チョンホは何も言わず静かに泣いていた。

イクスは真に冷酷な気持ちでチョンホを見ていたのではない。イクスの心の中で、自分の一部が叫んだ。『お前は大事なはずの息子を徹底的に傷つけ冷酷に振舞う怪物だ!』

イクスはチョンホをじっと見た。一瞬、イクスの手が動いたが、その手はすぐに収められた。

チヒョンが戻ってきた。チョンホは荷物を受け取り、屋敷を出た。追いかけようとするチヒョンを、イクスが制した。

 

チョンホは池のほとりに腰かけた。腕からは血が出ている。チョンホは下着のチョゴリを破り、包帯代わりに腕に巻き付けた。

彼は何もしていなかった。チョンホもそれを分かっていた。イクスがどこで何をしているかあらかじめ予想するのは不可能に近く、イクスの機嫌を損ねないように行動するのもこれまた出来ないことであった。

チョンホは知っていた。イクスが自分を叩いたり辛く当たるのは、チョンホのその時々の言動のせいではなく、彼がチョンホを嫌っているからなのだと。イクスにとって、自分はかわいい息子ではないのだと。自分は、誰かに愛される価値がないのだと。

チョンホは再び泣き出した。どうしても分からなかった。どうやったら父は自分を愛してくれるのか。どうやったら父を失望させずに済むのか。どうやったら、自分は人に愛される価値のある人間になれるのか。

父親に愛されていないという事実は、自我を持ち始めたチョンホの心を深く傷つけた。彼は自尊心が大きく傷つき、他者との関係においても期待できなくなっていた。

日は暮れ始め、空は赤紫に照らされた。このまま一日外で過ごすのだろうか。幼い心に恐怖と絶望が重くのしかかった。まだ無力な彼は、ただその場で涙を流すのみであった。

 

ソンは友人たちと祭りを見に行き、その帰途についていた。

父親に黙って出て来たので叱られるのを恐れていた彼は、ぶらぶらと遠回りしながら歩いた。

夕暮れ時以降に池や川に近づくなと常日頃から言い聞かされていたソンだったが、チョンホが入学してから父親に反抗していた彼は単なる反抗心から池の近くに行ってみた。小石を拾って投げ入れようとしたとき、対岸に誰かいるのに気が付いた。ソンは気づかれないようにそっと後ろから回り込んだ。よく見るとそれは少年だった。しかも、数刻前隣に座っていたあの少年のようである。

夕暮れ時にこんなところで何をしているのか不思議に思い、彼はさらに近づいた。そこで、驚いてふと足を止めた。チョンホは泣いていた。しかも、左手首は血だらけで傷口に巻いた布の上まで染み出ている。

ソンは胸がざわざわした。声をかけようかとも思ったが、日頃険悪な関係なので何だか気まずい気持ちもあった。それに、まだ幼いソンはチョンホの傷がどれぐらい深いものか分からなかった。傷を負って、死んでしまいそうだから泣いているのだろうか?それとも、痛くて泣いているのかな?そんなことを考えながら、ソンは困惑して立ち尽くしていた。

すると、遠くからスボクらしき人の声が聞こえた。

「チョンホ!ミン・ジョンホ!どこにいるんだ?チョンホ!」

ソンは慌てて木陰に隠れた。父親が探しに来ると言うことは、やっぱり大変なことがあったに違いない。

チョンホは声に気づき、辺りを見回した。ちょうどその時対岸にスボクの姿が見え、チョンホを見つけたスボクは駆け寄ってきた。

「チョンホ!大丈夫か?・・・・・ああ、よかった、どこに行ったかと!腕は・・・・・・ああ、こんなになるまで叩かれて・・・」

スボクが顔を覗き込むので、チョンホは慌てて涙を拭い、泣いていなかったかのように見せかけた。それでもまだ声は出なかった。見兼ねたスボクはチョンホを抱きしめた。

「なんてことだ・・・。痛かったろう?こんなになるまで叩いておいて、丸一日外にいろだなんて大監はどうかなさっている!」

憤慨したようにスボクは言った。しかし、チョンホは父の悪口を言われるのが嫌なようだった。

「父上は悪くありません。私が悪いのです。私が言うことを聞かず何度も同じ間違いをしたので、父上が怒ったのです」

「だが・・・例えそうだとしても、そなたの父上にされたことを他の子たちにも言えるのか?」

チョンホは黙った。

「言えないということは、お父上がなさっていることがやましいのだ、チョンホ」

「いいえ。私が可愛げのない息子なので父上がそうなさるのです。先生、このことは誰にも言わないでください。この傷をみんなに見せてしまったら、私だけ親に可愛がられていないことがみんなに知られてしまいます」

「それがそんなに嫌なのかね?」

チョンホは再び黙った。そして、とうとう泣き出してしまった。

「大丈夫だよ。お前が嫌というなら決して言わないと約束する。家族にも言わないよ。だけど、知られるのは時間の問題だ。私もみんなに知られないように努力するが、お前には知られた時に堂々とできる人間になってほしいんだ。それが、お前がお前を救うための一番の方法なんだよ。わかったね?」

「先生、それはどうやったらできるんですか」

「それは自分で考えなさい。お前ほど思慮深ければきっとできるはずだ。さあ、行こう。日がそろそろ暮れてしまう」

「・・・どこに行くのですか?」

「私の家だよ。今夜は家に泊りなさい。チヒョンから話を聞いてお父上のところに行ってきたんだ。ちゃんと許可は取ったよ。お父上も、多少やり過ぎたと反省なさっていた。悪く思わないでくれ。お父上はお前が嫌いでやってるんじゃないんだ。あの方はもともと不器用で、なおかつお前のお母さんが亡くなったことからいまだに立ち直れていないんだよ」

チョンホは俯く。

「私は母上のお顔も覚えていないのに、その方のせいで私はこのような目に会うんですか?」

「お母上のことをそのように言うんじゃないよ。さあ、早く帰ろう。今日は冷えるから晩御飯に暖かい物を作ってくれてるみたいだよ」

スボクはチョンホの手を引いたが、チョンホは立ち止まったままだった。

「先生、私は行けません」

「えっ?」

「先生のご子息と私は仲があまりよくないので、お宅に伺ってもご迷惑になると思います。ソンもそうですし、先生や奥方様も気まずい思いをなさると思います」

「ソンに気を遣っているのか」

「先生が父上にお話しして下さったので、今家に帰っても父上は怒らないと思います。今日は静かに家に帰って大人しくしますので、先生はもうお帰り下さい」

「しかし・・・。はあ、そなたがそういうなら仕方ない。だけど、もう危ないから家まで送ろう」

「ありがとうございます」

去っていく2人の後姿を見ながら、ソンは何だか居心地が悪くなった。

チョンホがそんな事情を抱えているとは知らなかった。彼は両親の愛を一心に受け、今まで温かい家庭で何不自由なく育ってきた。何をやっても一番で、友達もたくさんいた。ところが、最近になって現れた愛想のない何でもできる男の子が自分の一番を全てかっさらっていき、お坊ちゃん育ちのソンは不快な気分になっていた。しかし、そんな何でもできるチョンホは、羨ましいとは程遠い家庭で育っているのだ。母親は既に他界し、父親にあんなひどい目に会わされているのだから。

ソンは今までの自分の態度を少し反省した。チョンホを少々誤解していたのではないかと思った。高慢で嫌な子だと思っていたが、毎日毎日あんなに嫌な家に帰っているのかと思うと、彼の嫉妬心は後悔に変わった。ただでさえしんどいだろうに、書房でさえ辛くあたられて、どんなに大変だろう、と。

ソンはとてもやさしい子供であった。やんちゃでわんぱくゆえ見逃されがちであったが、スボクはそれをよく知っていた。それゆえ心が軟弱で、少々の刺激に耐えられない子だと思っていた。確かにそうかもしれなかったが、それはあくまでこのときまでである。

ソンは明日、チョンホに謝ろうと思って自分も家路についた。父親に黙って外出していたこともすっかり忘れて。

 

 

家に帰ったチョンホは、チヒョンの手によって寝かされた。

チヒョンがチョンホの部屋を出ると、気まずそうな表情でイクスが立っていた。珍しく素面のようだ。それに、妓生たちももういなかった。

「どうかなさいましたか、ナウリ」

チヒョンはぶっきらぼうに言った。弟のように可愛がり、かつ崇拝しているチョンホに辛く当たるイクスを彼は嫌っていた。

「その・・・・これを」

イクスはそう言って袋を手渡した。

チヒョンが開けてみると、血止めの薬が入っていた。

チヒョンはイクスを睨む。

「後からこのようなことをなさるのなら、なぜ最初からあんなことをなさるのですか」

イクスは答えなかった。

「チョンホは寝たか」

「はい」

イクスはチョンホの部屋に入ろうとする。

「ナウリが入られては道令様がお休みになれませんのでおやめください」

チヒョンはきっぱりとした口調で言う。

イクスは立ち止まった。

「何より、道令様が望んでおられません」

イクスは何も言わなかった。しばらくその場に立ちすくんでいたが、やがて自室に帰っていった。

 

その夜イクスは夢を見た。夢の中で、ソリが枕元に現れ、小刀をイクスの首元に当てながら泣き叫んでいた。『また書房様への復讐が増えてしまった』と言いながら。

 

 

 

とうとう初めての弓の授業が始まった。

生徒たちはいつもと違う外での学習にわくわくしていた。みんな期待に満ちた表情で集まっていた。ただ一人、チョンホを除いては。

ソンはチョンホと話をしようと思って彼の近くに行こうとしたが、チョンホはなぜか自分を避けているようだった。そうこうしているうちに授業が始まってしまい、ソンは何も言えないまま午前が終わろうとしていた。

「・・・さて、次はチョンホ、お前が持ってみなさい」

武術の先生の言葉で、チョンホは前に出た。みんながざわつく。

いまや既にソンを追い抜かし教室で主席となっていたチョンホは、武術もできるのかみんなが興味津々だった。

その日のチョンホは顔色が悪かった。昨晩手首の痛みのために寝つきが悪く、何度も起きていたからだ。だが誰もそれを指摘することなく、授業は刻一刻と進んでいった。

チョンホは弓を構えた。形はとてもいいと先生に褒められていた。

「・・・だが少し袖口がひっかかっているな。最初だから、少しまくってみなさい」

先生は言った。確かに、チョンホの袖口だけ他の子供たちより異常に長くしてあった。

途端にチョンホの顔が青くなった。

「先生、それは・・・」

チョンホはもごもごと言い、なかなか腕をまくらなかった。

「やっぱり女の子なんだよ。だから肌を見せたがらないんだ」

チョンジンはソンに囁く。

ソンははっとした。昨日の光景が頭によみがえった。そうだ、チョンホは左手首を怪我しているのだ。しかも、それを彼は頑なに隠したがっている。

深く考える間もなく、ソンはとっさに前に出た。そして、チョンホの袖を無理矢理めくろうとする先生の手を振り払うようにチョンホの手首を掴んで引っ張った。

「ああっ!!」

チョンホが苦悶の表情で手を引き抜いた。やってしまってから、ソンはチョンホの傷口を握ってしまっていたことに気が付いた。

「・・・どうした?チョンホ?大丈夫か?」

妙に痛がるチョンホを見て不思議そうに先生が言った。みんなもチョンホの手首に注目した。

彼の手首に血が滲んでいた。とっさに手を引き抜いたので、下に巻いていた包帯が豪快にずれたようだった。みんな驚いた。

「おい、血が出ているぞ!」

誰かが叫ぶ。生徒たちはざわつく。先生は確かめようと覗き込んだ。

ソンはしまったと思った。自分の行動が、全く逆効果になってしまったのだ。視線を感じてチョンホを見ると、チョンホがこちらをじっと見ていた。衝撃と、絶望が入り混じった責めるような目で。

「ご、誤解だ・・・!」

ソンはかすれ声で言ったがチョンホには届かなかった。チョンホの顔は赤くなり、先生の手を振り払うとそのまま何も言わずに生徒の波をかき分けて弓場の外に走り去って行った。

 

授業後、ソンは真っ先に書房を出た。

結局チョンホは帰ってこなかった、事態を知ったスボクが武術の先生を呼び、何か言い含めたようだった。戻ってきた先生は、チョンホは用事があって帰った、などとあまりにも嘘くさい子供だましの文句でみんなを納得させようとした。だがそれで誰も納得しなかった。

ソンはチョンホがどこにいるか見当がついていた。彼は急いで昨日の池のもとに走っていく。想像通り、そこにはチョンホが座っていた。だが、予想に反し彼は泣いていなかった。

ソンは恐る恐るチョンホに近づいた。

「おい、なあ、ちょっと・・・」

チョンホは驚いて飛び上がり、立ち上がって振り返った。

「その、さっきのことだけどさ、おれ・・・」

「なあ、こんな時まで人を馬鹿にして楽しいか?」

ソンの言葉を遮り、チョンホが言った。その目は怒りで燃えていた。

ソンはチョンホの勢いに圧倒され黙った。

「よくこんなことが出来るな。何だ?そんなに自分だけが一番でいたいのか?何においても、一番じゃないと気が済まないのか?一番になれないのなら、他人を蹴落としてまで一番になるのか?」

ソンは驚いた表情のまま一言も声が出なかった。チョンホは続ける。

「お前にはなんでもあるじゃないか。優しい両親もいて、姉弟もいて、毎日友達と楽しく遊んで、何不自由なく暮らしているのに、おれみたいなやつを馬鹿にして楽しいのか?何にも持っていないおれをそんなに見下したいのか?」

「ちがう、おれ、そんなつもりじゃ・・・」

「お前は何をしても許されるんだろうな。先生はお前のすることならなんでも許すじゃないか。お前には、味方になってくれる人がいるのに、おれみたいなやつに構う必要なんかないのに、どうしておれから何もかも奪おうとするんだ?おれは何にも持っていないんだ。お前みたいに、両親の愛情なんて知らないんだ。それがそんなに面白いのか?!」

ソンは衝撃で言葉が出ない。

「ごめん、ほんとにそんなつもりじゃ・・・」

「もう聞いてもむだだな。勝手にすればいいよ。お前はおれみたいな惨めな人間をばかにしながら出世して、みんなに可愛がられる人生を送れよ。おれはもうお前みたいなやつは相手にしない。だからもうついてくるな」

チョンホは言い終わると荷物をまとめ、早足で去って行った。

取り残されたソンは、しばらくその場に立ったまま放心状態だった。自分の言われたことの意味がよく分かり切っていなかったのだ。だが、やがて泣き出してしまった。

再びチョンホを探しに来たスボクは、池のほとりでチョンホではなく泣いている自分の息子を見つけた。

「ソン!・・・おい、どうしたんだ?何があった?なんで泣いているんだい?」

「僕のせいなんです・・・全部、僕のせいで・・・・」

「もしかして、今日のチョンホのことかい?」

「はい・・・」

「何があったか落ち着いて話しなさい。ほら、そんなに泣きじゃくったら何を言っているかお父さんも分からないよ」

「・・・昨日、ここで、お父さんとあいつが話しているのを全部聞いたんです・・・・お父さんに黙って、友達と祭りを見に行った帰りに・・・・」

スボクは黙ってソンの話を聞く。

「・・・それで、今日、先生がチョンホに袖をまくれって言ったんですけど・・・チョンホは傷があるから・・・先生を止めないとと思って・・・チョンホの手首を握ってしまって・・・そしたら、チョンホが痛がって、血が出て・・・・」

最後はソンが泣きじゃくって結局何を言っているのか分からなかった。

「・・・じゃあ、お前は、チョンホをいじめようとしたんじゃなくて、助けようとして手を握ったんだね?」

ソンは泣きながら頷く。

「じゃあ、それをチョンホに言いなさい。お前の気持ちを正直に話すんだ。チョンホもきっと、お前に嫌がらせされたと思って、落ち込んでいるはずだ」

「さっきここにチョンホがいて・・・」

「チョンホがいたのかい?じゃあ、話したんだね?」

「いいえ・・・チョンホが怒って、僕にひどいやつだって・・・・・でも僕、昨日話を聞いて、今日謝ろうと思ってて・・・・・」

「・・・いいかい、ソン。泣き止んでお父さんの話をよく聞きなさい。人は、心にどんなにいい志を持っていても、言葉や行動に示さないと決して相手に伝わらないんだ。お前がいくら申し訳ないと思っていても、直接行動に示して言葉にしないと、チョンホは一生お前の気持ちに気が付かないままだよ。だから、今日お前がやったことは本質的には間違っていなかったんだ。ただちょっとやり方がまずかったからかえって事態を悪くしてしまったけど、チョンホにちゃんと話せばきっと理解してくれるよ」

「・・・本当に?・・・・」

スボクは微笑んで頷く。

「ああ。だからそんな風に泣くのはもうやめなさい。そんな顔でチョンホと話せるか?ははは。全く、お母さんとも言っていたんだが、お前は女の子よりずっと泣き虫で困ったよ。あまり泣いてばかりいても、将来大事なものを守れないよ。もっと強くならないとね」

スボクは優しく言い、ソンの涙を拭ってやった。

「お父さん・・・?」

「なんだい?」

「・・・お父さんに黙ってお祭りに行った事、怒らないんですか・・・?」

スボクは微笑む。

「お前はもう反省しているだろう。それに、思ったんだが、もう10歳だし日暮れまでに帰ってこれるならこれからは好きに外出してもいいよ」

ソンは泣き止んだ。

「本当ですか?」

「まったく、お前は。ああ、本当だよ。だが絶対に日暮れまでに帰ってきなさい。いいね?」

ソンは頷く。

イクスは笑ってソンを抱き上げ、肩に乗せて家路についた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回はここまで照れ

 

みなさん、また次回ちゅー