夫婦別姓にについて歴史的背景を含めて、英国、フランス、ドイツ、ベルギー、米国、中国、韓国について紹介している良書。

 著者は、順に、冨久岡ナヲ、プラド夏樹、田口理穂、栗田路子、片瀬ケイ、斎藤淳子、伊東順子の各氏。

 フローベール『ボヴァリー夫人』の主人公は、シャルル・ボヴァリーの妻であるエマである。フランスを舞台とした19世紀を現代とする小説である。何の疑問も覚えずにいたが、女性であるエマはエマとは呼ばれず、ボヴァリー夫人と呼ばれる。
 このことを詳細に教えてくれるのが本書の英国やフランスの章である。ヨーロッパの既婚女性は夫の持ちものという思想が支配した長い時代を教えてくれた。

 中国社会の夫婦別姓は両性を尊重したものとして理解していたが、これも認識不足であった。著者の斎藤氏自身の経験に驚かされる。数年前とのことであるので21世紀のことである。中国人の夫の実家で最近作られた家系図に見た実態である。「嫁」の名前は記載されていないというのだ。著者は中国社会ではこのような家系図が多いとしている。
 中国社会の儒教思想、つまり、男系重視は、外から入ってきた「嫁」は「家」の内部の者ではないという取扱いとして表れているわけだ。したがって、女性の姓は結婚後も元の姓を変更することはできなかった。
 ちなみに夫婦別姓が制度的になるのは1950年の法によるのだそうだ。
 私はとんだ認識、中国社会は遠い昔から夫婦別姓で男性の女性も尊重すると理解してきたわけである。

 以上紹介したのはほんの一部である。

 歴史的紹介が本書の趣旨ではなく、現代に続く課題も含めて多くのことを教えてくれる。日本社会を相対的に捉え、夫婦別姓を考える際の参考となる良書だ。はやく、日本も選択的夫婦別姓を採用しよう。