2022年1月13日毎日新聞に記事「住宅ローン減税の「不公平」 低所得者は蚊帳の外」が掲載された。
 以前に私は、「公的家賃補助と、良質な公的賃貸住宅の充実を望む」(2021年10月21日)と題して記事を投稿した。さらに強く主張したい。毎日新聞記事を参考にしつつ、私の主張を裏付けるいくつかの数字を掲げる。
引用元:https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei15/03.htm
 毎日新聞の記事は、住宅ローン減税が2022年度税制改正大綱でも減税規模は実質維持されたことについて、財務省の主張「住宅政策として、新築住宅に着目して持ち家取得の推進をすることが適当なのか。こうした点を含め検討する必要がある」を紹介し、持ち家推進政策に疑問を投げかける内容だ。

 2022年度税制改正大綱では、これまでのローン残高の1%を所得税、住民税から10年間控除する仕組みを、控除率を0.7%に引き下げ、新築住宅の控除期間を13年間に延長することとしている。財務省は年平均20億円の財政負担が増えるとしている。

 そして、記事は、法政大経済学部の小黒一正教授の話しとして、イギリス、ドイツ、フランスでは住宅ローン減税をやめ、その財源を一定の所得水準以下の世帯に対する住宅補助にまわしていることを紹介している。

 記事はいくつかの数字を紹介している。

1)夫婦と子どもからなる世帯の割合
 記事では、夫婦と子どもからなる世帯の割合は1985年に40%、2020年には約25%まで減少しているとある。
 国勢調査の結果から私が作図したのが以下のグラフだ。1970年代の43%程度をピークに、2005年には30%を割り、2020年には25%である。つまり、4世帯に1世帯しか子供がいないのが現状だ。

<表1>


2)国内の住宅数
 記事では、総務省の「住宅・土地統計調査」によると、住宅数は1968年に総世帯数を逆転。2018年には総世帯数が約5,400万世帯なのに対し、住宅数は約6,240万戸に達しているとしている。
 「住宅・土地統計調査」から私が作図したのが以下のグラフだ。1988年ころから住宅数が総世帯数を大きく上回るようになる。換言すれば、このころから持ち家奨励策からの転換が必要であったのだ。


<表2>


3)年収別の持ち家世帯率
 記事では、総務省の「住宅・土地統計調査」によると、持ち家の比率を世帯年収別にみると、年収1,500万円以上では9割近くに達しているのに対し、年収100万円未満では4割程度にとどまる(注1)。また、新たにマイホームを持つ余力のある中・高所得層の恩恵は大きい一方で、低所得者の多くは蚊帳の外に置かれているのが実態だとしている。
 「住宅・土地統計調査」の2018年、2013年、1998年から私が作図したのが以下のグラフだ。1998年と2018年を比べると、300万円未満の層の持ち家世帯率は確かに上昇している。しかし、300万円未満の世帯は、1998年には1,541万世帯で全世帯の32.7%、2018年には1,839万世帯で全世帯の34.2%というように、その割合が上昇している。
 年収が500万円から700万円未満の世帯以上になると7割を超える持ち家率になっている。
 ここで疑問が涌く。300万円未満の世帯で比較的持ち家世帯率が高いのはなぜなのかという疑問である。これは、年金暮らしで収入は減ったが過去に入手した持ち家をそのまま保持している層、あるいは、相続によって入手した住宅を保持している層が一定程度存在するためと推測ができる。この層を除けば、およそ持ち家には縁遠い世帯が多く存在していることがわかる。

  注1: 記事では年収100万円未満の層に言及している。2018年の「住宅・土地統計調査」では100万円未満、100万円から200万円未満と200万円未満の層を2つに分けている。しかし、2003年以前は200万円未満と一括されており、今回1998年と比較するために200万円未満にまとめた。「住宅・土地統計調査」については「総務省「住宅・土地統計調査」の年間収入のレンジの違いは良い分析をはばむ」で苦言を呈する。


<表3>


4)年収別の民間借家世帯率
 持ち家ではなく借家についてみておこう。持ち家以外の世帯は、民間借家、公営住宅、社宅などに居住している。その中でも民間借家世帯の割合が多い。「住宅・土地統計調査」の1998年、2018年から私が作図したのが以下のグラフだ。民間借家世帯率とは、総世帯数に対して民間借家世帯数の割合である。
 
 300万円未満の世帯では民間借家世帯率が減少し、300万円以上の世帯ではおしなべて民間借家世帯率が上昇している。400万円以上700万円未満の世帯では3から5ポイント上昇している。

 300万円未満の世帯で減少しているのは、上記で推測したように、相続などによって持ち家世帯率が上昇したことによるのではないだろうか。

 400万円以上の世帯で借家世帯率が上昇しているのは、持ち家を入手しようとしてもそれがおぼつかないことが大きな理由だろう。
 2022年4月18日付け毎日新聞に「首都圏新築マンション価格がバブル超え 21年度平均6360万円」と題する記事が掲載された。1月25日付け日本経済新聞の記事「近畿マンション発売、21年24.7%増 価格高騰で陰りも」では2府4県の新築マンションの「21年の平均価格は381万円高い4562万円と、4年連続の上昇となった」としている。
 このような状況のなかで持ち家を入手するのは容易ではない。

<表4>


 2022年4月18日付け毎日新聞の記事「単身女性、重い住居費 「公的支援少なく、将来に不安」 横浜市男女共同参画推進協会が調査」には「単身女性の住居費は平均6・1万円、収入に占める住居費の割合は約4割」、「居室の面積は平均33平方メートル。賃貸の11人の平均は24・1平方メートルで、国土交通省が「健康で文化的な住生活を営む住居面積の水準」とする最低面積(単身は25平方メートル)を下回っていた。」、「家賃・ローンに共益費や管理費を加えた住居費は平均6・1万円だった。収入に対する住居費の割合は平均37%で、3人は50%以上だった。国交省の調査では、民間賃貸住宅に住む人の平均世帯年収は486万円。月額住居費は約8万円で、負担は年収の2割となる。今回調査対象となった単身女性の負担はかなり重いことが分かる。」としている。

 以上、いくつかの数字を掲げた。