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設問1

1 C市福祉事務所長の不応答が「行政庁の不作為」(行政不服審査法3条)と認められるためには、行政庁が、「法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないこと」が認められることが必要である。そして、行政手続法2条3号も「申請」について規定しているところ、この「申請」も法令に基づくものであることが要求されているので、行政不服審査法3条の「申請」と行手法2条3号の「申請」は同義であると考える。

2 「法令に基づく申請」といえるためには、申請権が法令によって保障されている場合はもちろんのこと、法令を解釈することにより当該法令が申請権を付与していると解されるときにも、当該申請は、「法令に基づく申請」といえると考える。

 Aは、本件要綱に基づいて、C市福祉事務所長に対して、一時保護の申請をしている(本件要綱8条1号)。本件要綱は、C市の内部基準であり、行政規則にあたるものであるから、法令にはあたらない。しかし、老人福祉法(以下「福祉法」)11条1項2号が一時保護について定めた趣旨は、高齢者の福祉に看過できない事態が生じたときに、市町村が当該高齢者を特別養護老人ホームで一時保護をすることができるとして、高齢者の福祉に配慮をしたものである。そして、本件要綱の目的は、高齢者に対する虐待が疑われる場合に、この高齢者を一時的に保護することによって、高齢者の福祉を確保しようとしたものであるから、福祉法11条1項2号とその趣旨を同じにするものであるとして、本件要綱は、福祉法11条1項2号を具体化したものといえる。

 福祉法11条1項2号の規定の仕組みからすると、福祉法11条1項2号は、「身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要」とするAのような高齢者が虐待を受け、「居宅においてこれを受けることが困難なもの」と認められることにより、「やむを得ない事情により」福祉施設に入所させることが「著しく困難と認めるとき」には、市町村に保護の義務を付与していると考えられる。そして、市町村は要件を満たすときには保護をしなければらないとされていることから、福祉法11条1項2号はこの義務の裏返しとして、虐待を受けた高齢者に保護を要請する権利を付与したものと解される。そして、上記のとおり、この権利を具体化して、申請について定めたのが、本件要綱8条1号である。

 したがって、Aの申請は、「法令に基づく申請」にあたる。

3 以上より、C市福祉事務所長の不応答は、「行政庁の不作為」にあたる。

設問2

1 原告適格が認められるためには、「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法9条1項)と認められる必要がある。「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は、必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、そのような利益を不特定多数人の利益として一般公益に吸収解消させるにとどまらず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護する趣旨のときは、そのような利益も「法律上の利益」にあたると解する。また、Bは本件入所措置の名宛人ではないので、Bの「法律上の利益」の検討には、9条2項の考慮要素を勘案して判断する。

2 Bは、自らの養護上の利益が「法律上の利益」にあたると主張することが考えられる。

 本件入所措置の根拠規定である福祉法11条1項2号は、市町村の保護義務を定めるだけであり、養護者の権利については特に規定していない。

 しかし、福祉法1条は、その目的として、高齢者の心身の健康の保持及び生活の安定を図ることを目的としており、これは、養護者による適切な養護によって、その目的の実現に寄与する面もあることから、養護者の養護の利益にも配慮した規定とも読める。

 また、福祉法とその趣旨目的を同じにする関係法令である高齢者虐待防止法14条は、養護者の負担の軽減のために、相談や指導、助言などを行うことを市町村に義務付けている。そして、14条とは別に、6条は、市町村に、養護者に対する高齢者の保護のための助言等をすることを義務付けている。

 このような法律の仕組みに鑑みると、法は、養護者の養護の利益に一定の配慮をした趣旨であるといえるから、法は、養護者の養護の利益を一般公益として保護する趣旨である。

3 しかし、法は、養護者の養護の利益を個々人の個別的利益としは保護していない。

 児童福祉法26条1項1号の報告を受けた都道府県知事が、27条1項3号の保護をしようとしたときには、同条4項の親権者の同意が必要である。そして、例外的に、28条1項1号の家庭裁判所の承認を得ることにより、上記の同意が不要となる。他方、福祉法11条1項2号は、その要件を満たすときには、市町村に一時保護の義務を負わせており、養護者の同意が必要となるとは規定していない。

 このような法の仕組みを比べてみると、児童福祉法においては、原則として親権者の同意が必要なことにより、親権者に同意見が付与されていると評価することができ、親権者の保護に関する同意による法的利益を保障したものといえる。他方、福祉法11条1項2号においては、そのような同意が必要とされていないことから、監護者に一時保護の実施の可否に関して法的利益を付与したものではない。したがって、養護者には児童福祉法に見られるような法的地位が保護されたものではないと考える。

 また、違法な保護が行われたときに損害を主に被るのは、高齢者であり、養護者ではないので、養護者には高齢者と同居できないといった事実上の不利益が発生するにすぎない。

 以上のような事情を考慮すると、法は、養護者の養護の利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨ではない。

4 よって、Bに原告適格は認められない。

設問3

1 【時点②】における入所措置の要件充足性について

(1)Bは、【時点②】での本件入所措置の時点において、Aは福祉法11条1項2号の要件を満たした状態ではなかったと主張する。これに対し、C市は、【時点②】の時点において、Aは、福祉法11条1項2号の要件を満たしていたと反論する。

(2)福祉法11条1項2号が、「居宅においてこれを受けることが困難なもの」や「やむを得ない事情により」福祉施設に入所させることが「著しく困難と認めるとき」という行政庁の判断に幅を持たせる文言になっているのは、地域の高齢者事情や福祉の状況に精通し、その専門技術的判断に優れた行政庁に裁量を付与する趣旨である。したがって、C市福祉事務所長には、福祉法11条1項2号の要件の解釈について、要件裁量が認められる。しかし、その裁量も絶対のものではなく、裁量権の逸脱濫用があれば、処分は違法となる(行訴法30条)。

(3)「居宅においてこれを受けることが困難なもの」という要件については、Aが虐待を受けていた場合若しくは、受けていた恐れがある場合には、この要件を満たす。また、「やむを得ない事情により」福祉施設に入所させることが「著しく困難と認めるとき」という要件についても、自ら介護老人福祉施設等と契約することが困難であると考えられ場、この要件を満たすと考えられており、当該高齢者への虐待がなされていたり、その疑いがあるときには、この要件も満たす。

(4)Aは子であるBと同居しており、令和7年11月20日に、病院に搬送され、低ナトリウム血症と診断された。Aの疾患の原因は、Aの養護者であるBがAに適切な食事を摂らせていなかったことによるものであると考えられた。そして、時点①においても、Aによると、食事は相変わらず塩分が少ない状況で、時々めまいがするということなので、Aの養護状態は改善していなかったと考えられる。その後、Aは往診医による血液検査を受け、Bは、状態はそこまでひどいものではないものの、その状態が続けば、再度の意識障害が起きる可能性があることが伝えられていた。そして、令和8年1月7日、C市に対して、BによるAに対するネグレクトが行われているという通報があった。これを受けて、担当職員は、このままの状態が続けば、Aの生命に重大な危険が発生するおそれがあるとC市福祉事務所長に報告している。

(5)このような事情からすると、BによりAに対する適切な食事を摂らせないというネグレクトという虐待が常態的に行われていたと考えることが自然である。したがって、C市福祉事務所長の判断には、事実の認識の誤りや誤認がなく、その判断も合理性を欠くものではなかったと評価できる。

(6)したがって、C市福祉事務所長の裁量権の行使には逸脱濫用が認められない。よって、【時点②】の時点において、Aは、福祉法11条1項2号の要件を満たしていた。Bの主張は認められない。C市の反論が認められる。

2 【時点③】における入所措置の解除の要件充足性について

(1)Bは、【時点③】の時点において、Aは入所措置の解除の要件を充足していたと主張する。これに対し、C市は、【時点③】の時点において、Aは入所措置の解除の要件を充足していなかったと反論する。

(2)福祉法12条は、措置の解除の手続について規定したものであるが、手続に際しては、措置に付された者の意見を聴取するものとしているので、解除に際しては、被措置者の意思が重視されるべきである。また、福祉法11条1項2号は、虐待が疑われるときに一時保護をすることを定めた規定であるから、再度の虐待のおそれがないことも要件となる。したがって、措置の解除の要件としては、①被措置者の意思を確認すること、②再度の虐待のおそれがないことが要件となると考える。

(3)たしかに、令和8年6月16日に、E園の職員がAに対し、退所の意向の有無を確認したところ、Aは、帰宅してもよいと考えていると回答した。しかし、その際のAの受け答えはしっかりとしたものではなく、発現は一貫性に欠けるものであった。そして、C市は、Aが低ナトリウム症に長い間り患したことにより、認知能力の低下が見られると判断している。①このような事情からすると、Aの上記回答はAの真意に則したものとみることはできない。

 また、たしかに、Bは、Aの養護に関する誓約書を提出している。しかし、上記のとおり、Bは再三に渡る指導にもかかわらず、Aに適切な食事を摂らせることを懈怠している。そして、BがAの介護を10年もの間続けてきたことを考慮すると、このようなネグレクトによる虐待は常態化していたとみるのが自然であり、今後これが必ずしも改善できる保証があるとまではいえない。そして、Aを介護する者はB以外には存在しないので、第三者がAに適切な食事を与えることも困難である。以上のような事情を総合的に考慮すると、②再度の虐待のおそれがないとはいえない。

(4)したがって、【時点③】の時点において、Aは入所措置の解除の要件を充足していなかったといえる。Bの主張は認められない。C市の反論が認められる。