設問1小問1
会社法362条1項3号によると、代表取締役の解職は取締役会の権限の範囲に含まれる。
339条1項が株主総会決議によって取締役の解任をすることを認めているが、同条2項が解任に「正当な理由」がない場合は、取締役は損害の賠償を請求できるとしていることや、一度適法な取締役会決議により選定された代表取締役でいることの既得の地位の保護などから、取締役会決議により代表取締役を解職するときには、正当な理由が必要であると考える。正当な理由の有無は、代表取締役が会社の業務を適正に執行できるか否かをもって判断する。
Aは、事業について保守的であり、現状維持を望んでおり、事業の拡大を目指すBとCとは対立関係にあった。会社の事業に関する意思決定をする機関は取締役会であるから、代表取締役に取締役会の決定に沿うような事業の執行を期待できないときには、代表取締役は会社の業務を適正に執行することを期待できないといえる。甲社の取締役会は、A、B、Cで構成されており、取締役会の意思決定は、その過半数の賛成により決定される(369条1項)から、BとCの意思である甲社の事業の拡大は取締役会の意思ということができ、甲社の事業の方針としての意思決定ということができる。そして、Aは上記のとおりの考えをもっているのであるから、取締役会の意思に沿うような事業の執行を期待できないといえるので、Aに甲社の業務を適正に執行することを期待できないといえる。
したがって、本件では正当な理由が認められる。
よって、Aの解職は有効である。
設問1小問2
1 Aは甲社に対し、債務不履行に基づき(民法415条1項)、40万円を請求する。
2 株式会社において、定まった基準に基づき取締役の報酬が支給されると規定されている場合には、その規定を了知して取締役の地位に就いた者との関係では、会社との任用契約が発生するものであり、会社がその契約の内容に反した報酬の支給をするときには、契約に基づく義務に違反したとして債務不履行となると考える。
(1) 取締役の報酬の決定については、定款で定めるか株主総会において決定する必要がある(361条1項柱書)。もっとも、この定めはお手盛り防止を趣旨とするので、株主総会において取締役の報酬の全額を決定し、その分配は取締役会の決定に一任することを決議しても、お手盛りの危険はないから、そのような決議も有効であると考える。
本件では、甲社株主総会において、取締役全員に対する報酬の総額を400万円とし、その分配は取締役会に一任するという決議が行われている。
したがって、本件総会決議は有効である。
(2) また、本件総会決議を受けた取締役会において、代表取締役の報酬を月額120万円とし、取締役の報酬を月額70万円とすることが決議されている。Aもこの取締役会決議に参加していると考えられるので、Aはこの基準について了知していたと考えられる。そうすると、この基準の内容は、Aと甲社との間の任用契約の内容となり、双方を拘束する。そして、Aは、上記の解職により、取締役に降格している。
しかし、甲社はAに月額50万円しか支払っていないので、甲社は、任用契約の内容に沿わない履行しかしていないから、甲社に債務不履行が認められる。
3 そして、Aには11月分と12月分の差額の合計である40万円の損害が生じている。また、Aの損害は、甲社は適正な報酬を支払わないことに原因があるから、損害と債務不履行の間に因果関係も認められる。くわえて、甲社を免責するような特段の事情は存在しない。
4 よって、Aの請求は40万円の限度で認められる。
設問2
1 Aは甲社に対し、募集新株発行無効の訴えを提起する(828条1項2号、834条2号)。Aは6か月以上前から甲社株式を250株保有する「株主」である(828条2項2号)。また、Aは令和7年9月の時点で上記訴えを提起しようとしており、6か月以内ということができる(828条1項柱書、同項2号)。
どのような場合に募集株式の発行が無効となるかは明文からは明らかではない。しかし、募集株式の発行がされると利害関係人が発生することから、取引の安全や法的安定を重視して、重大な法令違反に限って募集株式の発行は無効となると考える。
2 Aは無効事由として、募集株式の発行を決定した本件株主総会には召集の手続に法令違反の取消事由があることを主張する(831条1項1号)。
株式会社は、株主総会の開催にあたり、株主に対して招集通知を送付する必要がある(299条1項)。
たしかに126条1項は、株主名簿に記載の住所に召集の通知を送ることで足りると規定するが、甲社は本件通知①をAの新住所に送付しているし、代表取締役であるBもAが新住所に移転したことを知っていたのだから、本件株主総会の招集通知をAの新住所に送付する信義則上の義務を追っていたと考えられる(民法1条2項)。
しかし、甲社は、本件株主総会の招集通知をAの旧住所に送っており、この行為は信義則に反するといえる。
したがって、本件株主総会には召集の手続に法令違反があった。
また、Aは甲社発行済株式600株のうち250株を保有していた大株主であるから、Aの議決権の行使によって決議の内容に影響があった可能性があるので、違反する事実が重大ではないということはできないから、裁量棄却もない(831条2項)。
以上より、本件株主総会決議は取り消されるべきものである。
3 では、本件における募集株式の発行は無効となるか。
募集株式の発行を決議した株主総会が取り消されるべきものであったとしても、その瑕疵は会社内部の事情にすぎない。また、募集株式の発行は業務執行行為に類するものだから、取引の安全に配慮する必要がある。したがって、株主総会決議が取り消されるべきときに、株主総会決議のない募集株式の発行は、無効事由とはならないと考える。
本件では、上記のとおり、本件株主総会決議は取り消されるべきものであるが、株主総会決議に取消事由があることは、募集株式発行の無効事由とはならない。
したがって、本件株式の発行は無効とならない。
4 よって、Aの訴えは認められない。
以上
2500文字くらい。