設問1小問1
1 Cは、本件訴えにおいて、本件合意は無効であり、そのような合意に基づく本件取得も無効であると主張する。
2 従業員持ち株制度は、株式譲渡自由の原則(会社法127条)に反するという見解がある。しかし、株式を取得する者が自由な意思により譲渡制限に同意していれば、当該制度が不当に投下資本回収の機会を閉ざしたり、合意が公序良俗(民法90条)に反するなどの特段の事情がないかぎりは、特定の者に退社時にその株式を譲渡するという合意をしても、127条の趣旨に反しないと考えられるから、当該合意は有効であると考える。
3 本件合意は、Bの甲社退社時にAにAから譲渡を受けた甲社株式を譲渡するということを内容とする合意である。この合意に際し、Bは、甲社内の周知に基づき、自由な意思で本件合意をしている。また、AがBの株式を買い取る価格はBの取得価格と同じ100円であり、この価格は甲社株式の適正な価格といえる。そして、甲社はBに対し、毎年1株あたり10円の配当をしている。したがって、本件合意がBの投下資本回収の機会を不当に害するとはいえない。くわえて、本件合意に際し、Aはその地位を利用して、不当な条件をBに受け入れることを強いたなどという事情もないので、本件合意は公序良俗にも反しない。
4 したがって、本件合意は有効である。そして、このような適法かつ有効な合意に基づき行われた本件取得も有効ということができる。よって、Cの主張は認められない。
設問1小問2
1 Cは、本件訴えにおいて、自らがBが保有していた甲社1000株の株主であると主張する。Cの主張の根拠は、甲社がBの譲渡承認請求に対し、自ら買い取ること若しくは指定買取人を指定することを怠ったので、BC間の甲社株式の譲渡について甲社が承認したとみなされることにより、Cが有効にBの株式を取得したというものである。
2 株主から136条の請求があった場合において、会社は、請求から2週間以内に139条2項の通知をし(145条1項1号)、この通知の日から40日以内に140条1項1号若しくは2号の決定をしたことを通知しなければならない(141条1項)。会社がこのどちらかの通知を怠ったときには、会社は譲渡承認請求を承認したものとみなされる(145条柱書本文)。
Bは、令和2年8月3日に、甲社に対し、136条に基づき、BC間の甲社株式の譲渡を承認するように請求している。これに対し、甲社取締役会は、同月10日に当該請求を承認しないことを決定し、同日、Bにその旨を通知している。したがって、本件では、請求から2週間以内に139条2項の通知はあった。しかし、甲社は、その後、Bに対し、140条1項1号若しくは2号の決定をしたことを通知していない。したがって、139条の通知から40日以内に、Bに対し、140条1項1号若しくは2号の決定をしたことの通知がされていない。
よって、本件では、甲社は、Bの譲渡承認請求を承認したとみなされる。CはBからBの保有していた株式を有効に取得する。
3 そうすると、Cは有効にBから甲社1000株を取得しており、Aもまた本件合意に基づきBから有効にBの株式を取得している。どちらが甲社の株主といえるか。
株式は、細分化された会社の所有権であるから、特定の株式を巡って当事者が対抗関係にある場合には、民法178条によりその優劣を判断すると考える。そして、株式の場合の「引渡し」にあたる対抗要件は、株主名簿の名義の書き換えであると考える。
上記のとおり、CとAの両方がBから有効にBが保有していた甲社株式1000株を取得しているので、CとAは当該株式について対抗関係にあるといえる。そして、Aは、当該株式について甲社による株主名簿の名義書換を完了している。
したがって、AがCに優先し、Aは確定的にBの保有していた株式を取得する。
4 よって、Cの主張は認められない。
設問2小問1
1 Eは甲社に対し、本件募集株式発行無効の訴え(828条1項2号)を提起する。Eは、甲社の株式を保有する「株主」にあたる(828条2項2号)。また、甲社は非公開会社であるところ、本件募集株式発行から「一年」以内にEは訴えを提起していると考えられる(828条1項2号かっこ書)。したがって、Eに原告適格が認められる。
2 Eの請求の根拠は、本件募集株式の発行は、預け合いという仮装払込によって違法な払込みがされており、これが募集株式発行の無効事由にあたるというものである。
(1)仮装払込においては、会社に実際には財産が確保されていないから、そのような払込みは違法な払込みとなると解する。そして、払込みが預け合いにあたるか否かは、①通謀の存在と②不返還の合意があるか否かを実質的に検討し、会社に財産が確保されているか否かより判断すると考える。
(2)たしかに、本件融資①によって、甲社から丁社に5000万円が移動し、本件融資②によって、丁社から丙社に5000万円が移動している。そして、丙社は、この5000万円を本件募集株式発行における払込みに充てている。しかし、甲社、丁社、丙社の間では、丁社が本件融資②による貸付金の返済を受けないかぎり、甲社は丁社に対して、本件融資①に関する貸付金の返済を請求しないことが合意されている。このような融資の仕組みを検討すると、甲社が丁社に貸した5000万円は、丁社が丙社から返済を受けないかぎり、返済の予定がないものであり、資金繰りに困っている丙社としては、丁社に返済をすることが不可能であったことは3者間の共通の認識となっていたといえる。したがって、①通謀が存在した。また、このような合意は、丙社が返済をすることが不可能と分かった上でなされているので、②不返還の合意ということができる。したがって、当該合意を実質的に検討したときに、甲社に財産が確保されたとはいえない。
(3)よって、預け合いが行われたということができ、丙社の払込みは仮装払込みにあたり、払込みは違法である。
3 では、本件募集株式発行は無効となるか。
(1)株式が発行されたときには多数の利害関係人が発生することから、取引の安全に配慮する必要がある。そこで、重大な瑕疵があるときにかぎって、募集株式の発行は無効となると考える。
(2)本件では、預け合いによる仮装払込みがされている。仮装払込みがされたときには、本来ならば確保されるはずの会社財産が確保されていない。そして、このような瑕疵は、会社の存続を危うくさせるものとして、重大な瑕疵にあたるというべきである。
(3)したがって、本件募集株式発行は無効となる。
4 よって、Eの請求は認められる。
設問2小問2
1 Eは甲社に対し、本件定時総会決議取消しの訴え(831条1項1号)を提起する。Eは、甲社の「株主」にあたるので、Eに原告適格が認められる。
2 Eの請求の根拠は、甲社が丙社に発行した株式は未成立であり、これを取得した丁社は悪意又は重大な過失があるので、丁社は有効に甲社株式を取得しない。そして、本件定時総会における丁社による議決権の行使は無効となるので、本件定時総会決議は過半数の賛成議決権の要件を満たさないこととなり、本件定時総会決議には、「決議の方法」に「法令」の「違反」があることになるので、取消事由があるというものである。
3 仮装払込みによっては、その対価となる払込みが行われていないのであるから、発行された株式は未成立となると考える。
本件でも、丙社による払込みは仮装払込みによるものなので、発行された甲社株式は未成立となる。
もっとも、209条3項は、仮装払込みによる株式を譲り受けた者は、悪意又は重大な過失がないかぎり、未成立であった当該株式が成立し、有効に当該株式を取得すると規定する。
丁社は丙社から未成立であった甲社株式を譲り受けている。しかし、丁社は、本件の預け合いの当事者であり、その代表者であるDは、会社の経営者として、本件の一連の融資が預け合いにあたることについて悪意であったか、少なくとも重大な過失があったということができる。
したがって、未成立であった甲社株式は成立とならず、丁社は丙社から有効に甲社株式を取得しない。したがって、丁社は甲社の株主にあたらない。
4 そして、株主総会における取締役の選任には、議決権を有する株主の過半数の賛成が必要である(309条1項、329条1項)。
本件定時総会では、甲社取締役の再任の議案について、本件定時総会に出席した15万議決権のうち、60%にあたる9万議決権の賛成により、この議案が可決されている。しかし、上記のとおり、丁社は甲社株主にあたらない。そして、本件定時総会において、丁社が議決権を行使したとされたのは5万株についてである。そうすると、現実には、4万株の議決権の賛成しかなかったことになり、15万議決権の過半数に満たない。
したがって、本件定時総会決議には、309条1項違反がある。
5 よって、本件定時総会決議には、「決議の方法」に「法令」の「違反」がある。
6 また、決議要件を満たしていないのに決議があったとすることは、決議の正当性を失わせるものなので、違反する事実が重大ではないとはいえないから、裁量棄却もない(831条2項)。
7 以上より、Eの請求は認められる。
設問3
1 Fは甲社に対し、委任契約に基づき、500万円の報酬の支払いを請求する(民法643条、648条1項)。Fの請求の根拠は、本件臨時株主総会決議①は不存在であり、本件臨時株主総会決議②の決議をもってしても、不存在である決議を追認することはできないので、甲社とFとの間の委任契約は終了していないというものである。
2 どのような場合に総会決議が不存在になるかは明文の定めがない。しかし、総会決議がされた後は、これに基づき法律関係が発生することから、法的安定に配慮すべきである。そこで、物理的に総会決議が不存在な場合や、手続的瑕疵が著しく、実質的にみて総会決議が不存在といえる場合にかぎり、株主総会決議は不存在になるものと考える。
本件では、GらとAに対するものの他は、株主に対して本件臨時株主総会①の招集通知が送られていない。そうすると、大部分の株主について、総会に出席する機会が与えられていなかったといえる。このような瑕疵は、株主にとって重要な権利である議決権の行使について、大部分の株主に不可能とするものであり、手続的瑕疵が著しく、実質的にみて総会決議が不存在といえる場合にあたると考える。
したがって、本件臨時株主総会決議①は不存在となる。
3 また、存在していない決議を後の総会決議により追認することはできないと考える。なぜならば、決議は不存在であるときに、追認の対象となる決議がないからである。
本件では、本件臨時株主総会決議②の決議をもって本件臨時株主総会決議①を追認するとしているが、本件臨時株主総会決議①が不存在である以上、本件臨時株主総会決議②の決議をもって追認はできない。
よって、本件臨時株主総会決議②の決議をもってしても、不存在である決議を追認することはできない。
4 以上より、Fと甲社の間の委任契約は終了していない。よって、Fの請求は認められる。