設問1
1 甲が本件山林の所有権移転登記を乙に移した行為に、横領罪(刑法252条1項)が成立しないか。
「他人の物」とは、他人が所有する他人の財物のことをいう。本件山林は、Aが甲から売買(民法555条)により取得したものであるから、他人であるAの所有する財物であり、「他人の物」といえる。
「占有」とは、濫用のおそれのある支配力をいい、他人の物を処分することができる地位をいう。その支配力は事実上のものでも法律上のものでもよい。甲は、本件山林の登記名義人であり、Aの物である本件山林について処分することができる地位にあるから、甲に法律上の支配力が認められるといえ、甲は本件山林を「占有」していたといえる。
横領罪の二次的な保護法益が委託信任関係にあることや、委託物横領罪と占有離脱物横領罪との区別のために、書かれざる構成要件として、所有者との間に委託信任関係があることも必要である。甲は、Aに対し、Aに本件山林の所有権移転登記を備えさせるという任務を負っていたので、所有者であるAとの間で委託信任関係があったといえる。
「横領」とは、不法領得の意思の発現の一切の行為をいい、不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の趣旨に背いて、その物に関して所有者でなければできないような処分をする意思をいう。甲は、Aに対する登記移転義務に反して、乙に本件山林を売却しているので、その占有するAの物である本件山林について、Aとの委託の趣旨に背いて、本件山林の所有権を他人に移転するという所有者であるAしかできないような処分をする意思をもっていたといえるので、甲に不法領得の意思が認められる。そして、甲は上記行為により、Aの本件山林に対する所有権を侵害する危険を発生させたといえるから、不法領得の意思を発現したといえる。したがって、甲は「横領」したといえる。
また、甲が本件山林の所有権移転登記を乙に移した時点で横領行為が完了している。
甲は上記構成要件に該当する行為の認識と認容があったといえるから、甲に故意(38条1項本文)も認められる。
よって、甲の上記行為に横領罪が成立する。
2 甲が、乙から300万円を受け取った行為に、詐欺罪(246条1項)が成立しないか。
欺罔行為とは、交付の基礎となる重要な事実を偽ることをいう。乙は、本件山林の所有権を取得することができているのだから、乙に財産損害の危険はなかったといえ、甲が乙に本件山林は甲の所有物であると告げた行為は欺罔行為とはいえないのではないか。
詐欺罪は全体財産に関する財産犯だから、取引の目的を達成できなかったときには、財産損害の危険があったといえ、交付の基礎となる重要な事項を偽ったといえると考える。
たしかに、乙は本件山林の所有権を取得することはできているが、乙は、甲との交渉の過程において、Aはやっかいな人物であるから、本件山林がAの所有物であるときには、甲との売買はしないと甲に告げている。そうすると、乙は、本件山林が真実はAの所有物であったことにより、そのような場合には甲と取引をしないという取引の目的を達成できていない。
したがって、乙に財産的損害の危険があったといえ、甲は交付の基礎となる重要な事項を偽ったといえるから、甲による欺罔行為が認められる。
また、乙は、本件山林が甲の所有物であるという錯誤に陥っている。乙から甲への300万円の交付行為が認められるし、300万円という財産の移転も認められる。
そして、甲に故意と不法領得の意思も認められる。
よって、甲の上記行為に1項詐欺罪が成立する。
設問2
1 乙の罪責
(1) Bについて
乙がBをダンプカーで轢き、死亡させた行為に、殺人罪(199条)が成立しないか。
乙は、「人」であるBをダンプカーで轢過することによって、脳挫傷により殺している。しかし、乙はBをAであると勘違いしており、乙に具体的事実の錯誤が認められるから、乙の故意が認められないのではないか。
認識した事実と発生した事実に食い違いがあったとしても、両事実が構成要件内で符合しているときには、その食い違いは重要なものではないとして、故意を阻却しないと考える。
乙は、「人」であるAを殺す故意で、「人」であるBを殺している。
したがって、乙に殺人の故意が認められる。
よって、乙の上記行為に殺人罪が成立する。
(2) Cについて
乙がCをダンプカーで轢き、死亡させた行為に殺人罪(199条)が成立しないか。
乙は、「人」であるCをダンプカーで轢過することによって、脳挫傷により殺している。また、乙に具体的事実の錯誤が認められるが、本件では具体的事実の錯誤は故意を阻却しないのは上記のとおりである。また、故意の個数は規範内で抽象化される。
しかし、乙は、Cがいたことに気付いていなかったので、殺人の故意で、客観的には過失致死(210条)にあたる行為をしているから、乙に抽象的事実の錯誤が認められる。
過失致死罪と殺人罪の保護法益は共に人の生命である点で共通している。また、過失致死罪は、過失により人を死なせる行為であるところ、殺人罪は故意により人を殺す行為である点では相違するが、共に人を死亡させるという行為態様について共通しているといえる。
したがって、乙には軽い罪の限度である過失致死罪の故意が認められる。
よって、乙の上記行為には過失致死罪が成立する。
2 丙の罪責
(1) Bについて
乙のBに対する殺人罪について、丙に殺人罪の共謀共同正犯(60条、199条)が成立しないか。
共同正犯の処罰根拠は結果に対し因果性を与えたことにあり、実行行為を担当しない者であっても結果に因果性を与えることは可能である。また、60条の文言は、「二人以上共同して」そのうちの誰かが「犯罪を実行した」とも読めるので、共謀共同正犯を認めることは罪刑法定主義に反しない。したがって、共謀共同正犯も共同正犯となると考える。
本件では、丙と乙は、互いにAに対する殺人罪の故意を有していたといえる。また、丙は、積極的に乙に犯行の実行を働きかけているし、Aを殺害することによって、トラブルを回避できるのであるから、利益も得るといえるので、丙に正犯性が認められる。そして、丙と乙は、相互に意思連絡をすることにより、Aに対する殺人の共同実行の合意を形成している。したがって、丙と乙との間で、Aに対する殺人の共謀があった。また、丙は計画の発案者であり、丙と乙の人間関係を考慮すると、丙は結果に対し重大な寄与をしたといえる。
では、乙の実行行為は、共謀に基づくものといえるか。
共犯の処罰根拠は結果に対し因果性を与えたことにあるから、共謀と実行行為に食い違いがあったとしても、その食い違いが重要でないと認められるときには、実行行為は共謀に基づくものといえる。
本件では、被侵害法益は、Aの生命とCの生命と異なっている。しかし、両者は、人を殺すという行為態様で共通しており、生命という点では共通している。そして、何より、両者は人を殺すという動機・目的で一致している。
したがって、食い違いは重大とはいえないから、乙の実行行為に共謀の射程が及び、乙の実行行為は共謀に基づくものといえる。
そして、丙は、Aを殺そうと考えていたので、丙には共犯の錯誤が認められるが、具体的事実の錯誤は本件では故意を阻却しないのは上記のとおりである。
よって、乙にBに対する殺人罪の共同正犯が成立する。
(2) Cについて
共同の注意義務に共同して違反することは可能なので、過失犯の共同正犯も成立すると考える。
丙と乙は互いにCがいたことに気付いておらず、共同の注意義務に共同して違反したといえる。
したがって、丙に過失致死罪の共同正犯(60条、210条)が成立する。
3 罪数
乙と丙には、殺人罪の共同正犯と過失致死罪の共同正犯が成立し、これらは、1個の行為により複数の罪名に触れる場合にあたるから、観念的競合となり(54条1項前段)、その最も重い刑により処断される。
以上
3300文字くらい。
文字をものすごく小さく書きました。
でも、最後の方はさすがに紙面が足りなくなりました。