設問1
1 XはYに対し、YのBの販売は、本件特許権を侵害するとして(特許法68条本文、70条1項、2条3項1号)、Bの販売の差止請求をする(100条1項)。
これに対し、Yは、①本件特許権は機能的クレームにあたるところ、機能的クレーム特許の権利の範囲は、その実施形式に限られるので、Bは本件特許権の技術的範囲に属しない、②本件特許権を「実施」しているのはBのユーザーなので、Yの販売行為は「実施」にあたらない、③Bの販売行為の差止めについては、その侵害の停止又は予防に実効的で必要な範囲を超えていると反論する。
2 Yの反論①について
特許権者の利益の保護の観点から、機能的クレームの権利の範囲は、その実施形式に限られるものではなく、それを具現化した技術的思想に及ぶ。したがって、機能的クレーム特許の権利の範囲は、特許請求願書に現れた技術的思想と同一のものについて及ぶと考える。
たしかに、αは、ゲームが特定の進行状況になった時に、ゲーム機本体から臭気が発生するというものであり、Bが特定の進行状況になった時にAのコントローラーから臭気が発生するというY製品とは実施形式において異なる。
しかし、αは、ゲームが特定の進行状況になった時に、臭気を発生させることにより、ユーザーに高度な臨場感を体験させるという従来の課題を解決するものであり、ここにαの技術的思想が認められる。そして、Bは、Bが一定の状態になった時に、ユーザーの臨場感を高揚させる臭気を発生させるという点において、αの技術的思想を実現するものであり、αの技術的範囲に属する(70条1項)といえる。
したがって、Bは本件特許権の技術的範囲に属する。Yのこの反論は認められない。
3 Yの反論②について
実際の実施行為がユーザーにて行われることのみをもって「実施」にあたらないとするのは、特許権者の利益を害する。したがって、被疑侵害者にユーザーの実施について、利益増大性と管理支配性を検討し、ユーザーの実施行為が被疑侵害者の手足による実施といえるときには、実質的には、侵害行為をしているのは被疑侵害者であるとして、被疑侵害者による「実施」を認めるべきである。
本件では、たしかに、Y製品は、BのユーザーがBをプレイした時に臭気が発生する仕様となっており、実際の実施行為をしているのはユーザーである。
しかし、Yは、Bをユーザーに販売し、プレイさせることにより、従来の課題を解決するという効果を上げることにより、その売り上げを向上させ、Yの大きな利益を生んでいると考えられるから、利益を増大しているといえる。また、ユーザーは、希望する臭気の発生という効果を得るためには、AとBを購入する必要があり、AとBはYが決定した仕様により動作するものだから、Yはユーザーの使用による臭気の発生を支配管理していたといえる。
このような事実を考慮すると、Yは、ユーザーがBをプレイすることにより利益を増大し、その支配管理性も認められるので、ユーザーによる実施は、実質的にみて、Yの手足による実施といえる。
したがって、Yは本件特許権を「実施」したといえる。Yのこの反論も認められない。
4 Yの反論③について
Yの主張は、臭気を発生させるのはAのコントローラーであり、Bはきっかけを与えているにすぎないから、Bの販売を差し止めることは、差止めに実効的で必要な範囲を超えるというものである。
たしかに、実際に臭気を発生させるのはAのコントローラーである。しかし、AはBと相まってその臭気を発生させるのであり、臭気の発生にはBは不可欠の要素といえるから、侵害の実効的な差止めにはBの販売を差し止めることが必要である。
したがって、Bの販売の差止めは、差止めに実効的で必要な範囲といえる。Yのこの反論も認められない。
5 よって、Xの請求は認められる。
設問2
1 Yは、まず、αは「刊行物に記載された発明」(29条1項3号)にあたるとして、新規性がなかったことを主張し、特許無効の抗弁を提出する(123条1項2号、104条の3第1項)。
「刊行物に記載された発明」とは、当該発明と同様の技術が、頒布された刊行物に記載されたことをいう。「刊行物」とは、文章や写真の複製物で、公開を目的とした情報媒体をいう。「頒布」とは、不特定多数人が閲覧をすることが可能だった状態に置くことをいう。「記載された」とは、当該刊行物に記載された事項若しくは記載されたに等しい事項をいう。
特許出願公開広報は、文章の複製物であり、外部に対する公開を目的とした情報媒体なので、「刊行物」にあたる。また、特許出願公開広報は、特許庁から発行され、一般に入手可能なものであるから、不特定多数人が閲覧をすることが可能といえ、「頒布」されたといえる。そして、βの特許出願公開広報には、αの発明特定事項が記載されているので、αと同様の技術が、特許出願公開広報に記載されたに等しいといえるから、「記載された」といえる。
したがって、αは、Pの特許出願が公開になった時点で「刊行物に記載された発明」といえるから、新規性が認められない。
よって、Yの反論は認められる。
2 また、Yは、仮に上記の新規性喪失の特許無効の抗弁が認められないとしても、αはβの拡大先願(29条の2)により新規性が認められない反論して、特許無効の抗弁を提出する(123条1項2号、104条の3第1項)。
本件では、「特許出願に係る発明」であるαが、αの出願日である令和4年2月1日の「前」である「他の特許出願」のβの出願日である令和3年9月30日にβの「願書に最初に添付した書類」に「記載」されており、その後、「特許公報」に「掲載」されている。また、αとβは「同一」である。
したがって、αは、拡大先願により新規性が認められない。
よって、Yのこの反論も認められる。
以上
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