令和7年予備試験論文式試験(刑訴法)再現答案 | Takaの司法試験やるよやるよブログ

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設問1

1 検察官は、予備的訴因の追加をしようとしているため、訴因を変更しようとしていると考えられる。裁判所はこのような訴因変更(刑事訴訟法312条1項)を許可するべきか。

2 訴因変更は、「公訴事実の同一性」が認められる範囲について許される。「公訴事実の同一性」とは、訴因変更の限界を画する機能的概念であり、その一次的機能は、裁判所に審判対象の範囲を画定する働きがあり、二次的機能は、被告人に防御の範囲を明確にする働きがある。このような訴因の機能から、「公訴事実の同一性」が認められる範囲とは、変更前の訴因と変更後の訴因の基本的部分が社会通念上同一といえる場合を意味すると考える。また、両訴因の基本的部分の社会通念上の同一が一見して明らかではないときには、両訴因の非両立性を考慮する。

3 元の訴因は、保護責任者遺棄罪(刑法218条)に関するものであり、予備的に追加される訴因は、死体遺棄罪(刑法190条)に関するものである。両訴因は、事件の発生時間帯を令和6年8月5日午後6時ごろから午後7時ごろという点で共通している。また、両訴因は、事件の発生場所において、H県I市L町456番地山林という点で共通している。しかし、保護責任者遺棄罪と死体遺棄罪は、構成要件を全く別にする犯罪であるとともに、包含関係にもない。実際に両訴因において、甲が行ったと疑われる事実の内容も相違している。したがって、両訴因は、基本的部分が社会通念上同一であるとはいえない。

 しかし、事件当時、Vは生きているか死んでいるかのどちらかしかあり得ないのであり、甲が生きているVを遺棄しつつ、死んでいるVの死体を遺棄するということは不可能であるから、両訴因は非両立の関係にあるといえる。

 したがって、本件では、「公訴事実の同一性」が認められる。

4 よって、裁判所は、検察官の予備的訴因の追加を許可するべきである。

設問2

1 裁判所は、甲に死体遺棄罪が成立するとして、有罪判決をすることができるか。

2 有罪判決をするためには、「罪となる事実」の証明があったことが必要である(335条1項)。

 軽い罪と重い罪のどちらかが成立することはたしかであるが、そのどちらかが明らかでない場合に、利益原則を重い罪に適用し、軽い罪の事実が存在したものと扱って、軽い罪で有罪判決ができるという見解がある。しかし、重い罪の事実が存在しない場合に、必ずしも軽い罪の事実が存在するとは証明されないので、この見解によることはできない。

構成要件が異なる罪が問題となる場合で、両罪が包摂関係にもないときには、軽い罪の「罪となる事実」(335条1項)の「犯罪の証明」(335条1項)もあったとはいえないので、被告人を無罪とするべきである。

3 本件で問題となっているのは、保護責任者遺棄罪(刑法218条)と死体遺棄罪(190条)である。

まず、両罪はその構成要件が異なる。また、保護責任者遺棄罪の保護法益は、人の身体・生命であるのに対し、死体遺棄罪の保護法益は、死者に対する深い敬意の表明であるので、両罪は、保護法益が異なる。また、保護責任者遺棄罪は、保護責任のある者が病者などを遺棄することで成立するのに対し、死体遺棄罪は、死体を不法に遺棄することで成立する罪なので、行為態様に共通性も認められない。したがって、両罪は、包摂関係にあるといえない。

 以上より、裁判所は、甲がVを遺棄した時点において、Vが死んでいたか生きていたか明らかでないという心証を得ているので、本件では、死体遺棄罪の「罪となる事実」の「犯罪の証明」があったとはいえない。

4 よって、裁判所は、甲に死体遺棄罪が成立するとして、有罪判決をすることは許されない。

                                         以上

 

1550文字くらい。