令和7年予備試験論文式試験(民訴法)再現答案 | Takaの司法試験やるよやるよブログ

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設問1

1 Xの主張

(1) 民事訴訟法220条4号は、柱書において一般的な文書開示命令について定めるとともに、イ、ロ、ハ等で例外的に文書の開示義務がない場合を規定している。

 220条4号二は、自己利用文書について文書開示義務がないことを定めている。「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当するためには、①内部で利用することを目的に作成され、外部に開示することを予定していない文書であり、②開示によって、個人のプライバシーを侵害したり、団体の自由な意思決定を阻害するなど、重大で看過しがたい不利益を生じさせ、③特段の事情も認められないことが必要である。

(2) 本件予測表は、融資を事業目的とするYにおいて、稟議書に添付する書類の一つとして存在したものである。Yにおいては、稟議書及びその添付資料についてYの役員限りのものとして扱うこととしていたのだから、①内部で利用することを目的に作成され、外部に開示することを予定していない文書であるといえる。

 また、本件予測表は、Yの融資事業における本件アパートの賃貸事業の損益の予測が記載されたものであり、Y独自の企業秘密ともいうべき計算式が用いられているものと考えられるので、本件予測票が公開されることによりYの企業秘密が一般に知られることとなり、②Yの団体としての自由な意思決定を阻害するといえるから、Yに重大で看過し難い不利益を生じさせるといえる。

 しかし、本件では、特段の事情が認められる。

 すなわち、Xは、本件貸付の債務者として、Yに対し本件予測表の開示を請求することができる地位を有するところ、XはYに対し、自己に本件予測表を開示することを請求することができるのだから、Yは本件文書の開示義務を負う。

(3) したがって、本件では特段の事情が認められるので、Yは、本件予測表の開示義務を負う。

2 Yの反論

 たしかに、Xは本件貸付の債務者の地位に基づいて、Yに対し本件予測表を自己に開示することを請求することができる。しかし、Xのそのような利益は、Yに生じる著しく回復困難な損害と比較すると、特段の事情とは認められない。したがって、Yは本件予測表の開示義務を負わない。

3 私見

 特段の事情が認められるか否かは、開示によって挙証者の受ける利益と開示によって開示義務者に生じる不利益を較量して判断する。

 開示によってYに生じる不利益は、企業秘密の公開であり、Yが融資事業を業としていることを踏まえると、Yの融資における投資用不動産の収支の計算式が一般に開示されてしまうことは、Yの市場における競争力を減退させ、事業の継続に困難が生じる可能性もあるというべきであり、開示によってYが受ける不利益は甚大であり、回復が困難なものである。

 他方、たしかに、Xは債務者の地位に基づきYに本件予測表を自己に開示することを請求することができるものの、X個人に対する開示と世間一般に開示されてしまうことは同価値ではない。また、XがYの説明義務違反を証明するためには、不動産の専門家による本件アパートの損益の評価を得て、その資料を証拠として提出したり、Xが保有する他の資料などからでも、Yの説明義務違反を証明することはできると考えられる。

 したがって、本件では、開示によってYの受ける不利益は著しく大きく回復困難であるのに対し、開示によってXの受ける利益は、代替可能な方法によっても達成できる利益であるから、限定的といえる。

 以上より、本件では特段の事情は認められない。

 よって、Yは本件予測表の開示義務を負わない。

設問2

1 本訴で請求されている部分について

 本件相殺の抗弁は適法か。

 金銭消費貸借契約に基づく債務とその契約の付随義務違反から生じた不法行為に基づく損害賠償請求権について、同一の原因から生じた債務であると考えられるときには、実際に双方を履行させる必要のない債務である。また、相殺を認めても、同時履行の抗弁権を不当に奪う結果とならない。そして、そのような債務については、相殺による清算的調整を図ることが、当事者の合理的意思にも合致し、訴訟経済にも資する。したがって、金銭消費貸借契約に基づく債務とその契約の付随義務違反から生じた不法行為に基づく損害賠償請求権が同一の原因から生じたときには、相殺を認めるべきである。また、このような場合には、紛争の矛盾ない解決のために、弁論の分離は禁止されると考えられ、このように解すれば、矛盾判断や応訴の煩も生じないので、142条にも反しない。

 本件では、XY間で金銭消費貸借契約が締結されている。また、Yの説明義務違反は、本件アパートが赤字になることをYが知っていながらXに告げなかったことを内容とするものである。そして、Yは、この説明義務違反により、XY間の金銭消費貸借契約の付随義務に違反した不法行為に基づく損害賠償債務を負っているといえるから、金銭消費貸借契約に基づく債務とその契約の付随義務違反から生じた不法行為に基づく損害賠償請求権は、同一の原因から生じた債務であるといえる。

 したがって、Xは、本訴で請求されている部分について、相殺の抗弁を主張することができる。

 よって、本訴で請求されている部分について、Xの相殺の抗弁は適法である。

2 本訴で請求されていない部分について

 Xは本訴で請求している部分について、一部であることを明示しており、本訴の訴訟物は、当該明示した一部に限られる。もっとも、一部請求の場合で、相手方から相殺の抗弁などが提出されたときには、残部から控除し、請求している一部について、請求が認められる部分があれば、それを認めてほしいというのが原告の合理的意思である。したがって、一部請求の際に相殺の抗弁が提出されたときには、裁判所は債権全体について審理して、外側である残部から相殺の抗弁に供された金額を控除して、まだ一部に残りがあるときに、その一部の請求を認容するものと考える。

 そして、残部を相殺に供することは、訴訟物ではない債権を相殺に供することであるから、矛盾判断のおそれや訴訟不経済につながり、残部を相殺の抗弁に供することはできないようにも思える。しかし、残部の相殺については、相殺の簡易決済機能を重視すべきであるし、上記のようなおそれは想定上のものにすぎない。したがって、残部を相殺の抗弁に供することは可能と考える。

 本件では、Xは明示的一部請求をした上で、X債権全額を相殺の抗弁に供している。Xが残部を相殺に供することも可能であり、上記の考え方により、Yの請求している4億円に対抗する限度で、残部である2億円から相殺に供されることになる。

 したがって、本訴で請求されていない部分について、Xの相殺の抗弁は適法である。

3 X債権の帰結

 Yは反訴において、Xに対し、4億円の請求をしている。これに対し、上記のとおり、X債権全額が相殺の抗弁に供されている。まず、残部である2億円が相殺に供されて、次に、訴訟物である1億円が相殺に供される。これで、X債権の全額が相殺の抗弁に供されることになるから、X債権は消滅する。

                                         以上

 

2900文字くらい。

途中から文字を小さく書きました。