第1 Xが本件判決に基づく強制執行によって満足を受ける前
1 Yは、①控訴の追完と②再審の請求をするべきである。
2 ①控訴の追完について
(1) 民事訴訟法97条1項本文によると、「当事者が責めに帰することのできない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には」、「訴訟行為の追完をすることができる」。よって、Yにも控訴しなかったことについて、「責めに帰することのできない事由」が認められれば、控訴の追完ができる。
(2) 97条1項本文の趣旨は、不可抗力により控訴等をできなかった場合には、その責任を当該当事者が負担するのは妥当ではないということにある。そこで、「責めに帰することのできない事由」とは、相手方に騙されたときのように、不可抗力により控訴等ができなかった場合を意味すると考える。
(3) 本件では、YはXが合意に基づき訴えを取り下げないのは、Xの「手違い」によるものという説明をXから受けている。そして、「心配無用」というXの申し向けからは、Xが訴えを直ちに取り下げる意思があるように思える。また、XとYは本件債務について和解した当事者であり、YがXを信頼することも合理的であるといえる。しかし、Xは実際には訴えを取り下げておらず、本件判決は確定している。よって、YはXに騙されて控訴をしなかったのであり、不可抗力により控訴をしなかったといえる。
(3) よって、Yに「責めに帰することのできない事由」が認められ、Yは控訴の追完をすることができる。
3 ②再審請求について
(1) 338条1項3号によると、「代理人」が「必要な授権を欠いた」ときには、再審の請求ができる。338条1項3号の趣旨は、本来ならば必要な手続保障がなされていない場合に非常の訴訟手段を可能とすることにある。そこで、同様に当事者に必要な手続保障がなされておらず判決が確定した場合には、同号を類推適用して、再審の請求ができると考える。
(2) 本件では、上記のとおり、YはXに騙されて控訴を提起しなかったという事情がある。また、第一審においても、Xが期日に出頭し、請求の認容を求め、他方、Xを信頼したYは何らの準備書面も提出せず期日を欠席しているので、Xの請求は認容されている。確かに、Yは第一審でXの和解内容に反する行為につきXに疑念を持つべきであり、裁判所に和解の存在を提出することが適切な対応だったようにも思える。しかし、XはYからの問い合わせに対して、「手違いゆえに心配無用」という内容の回答をしている。本訴えは弁護士に委任を依頼することもなく、当事者間でやり取りされているため、訴訟行為に不慣れなXに手違いがあったと考えることも、和解という重要な法的合意をした当事者間の合理的信頼関係を考慮すると、あながち不合理ではない。しかし、Xは実際にはYを騙していたのであり、本件訴えの取下げをしていない。このXの嘘により、Yには本来ならば期日に出頭し、自己の主張を展開するという訴訟法上の手続保障がされていないといえ、その後判決は確定している。
(3) よって、Yは再審の請求をすることができる。
4 再審の補充性について
(1) 控訴の追完が可能な場合は、再審の請求の補充性が失われるのではないか。
(2) 控訴の追完は、判決後の事情が問題になるのに対し、再審請求は判決に至るまでの過程に重大な瑕疵があることを原因とするものであるから、問題とする事由が異なる。また、再審の請求の方が原告に審級の利益の点からも有利である。よって、控訴の追完ができるときに、再審の補充性は失われないと考える。
(3) 本件でも再審の補充性は失われない。
第2 Xが本件判決に基づく強制執行によって満足を受けた後
1 Yは上記①②に加え、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償請求をする。
2 確定判決には既判力(114条1項)が生じるのであり、法的安定性により、原則として、判決が取り消されないかぎり、不法行為による損害賠償請求は認められない。
もっとも、一方当事者の行為が著しく正義に反し、既判力による法的安定性を犠牲にしても、なお許容しがたい特段の事情がある場合には、例外的に、直接不法行為に基づく損害賠償請求も可能と考える。
3 本件では、上記のとおり、YはXの詐欺ともいうべき行為により判決を受け、その判決は確定している。そうすると、本件判決は犯罪行為にも準じるような著しく正義に反する行為により取得されたといえる。よって、本件では特段の事情があるといえる。
4 以上より、Yは直接不法行為に基づく損害賠償請求をすることが可能である。
以上
どんなものでしょうか。。
最後の既判力の法的安定性を犠牲にできるかについては、時間がなく端折った。
民事系は20秒くらいしか余らなかったと思う。