設問1
1 L2の相殺の抗弁(民法505条)は、時期に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)として却下されるべきではないか。
2 157条1項は、当事者が「故意又は重大な過失」により、「時期に後れて」提出した攻撃又は防御方法は、「訴訟の完結を遅延させる」ことになる場合には、「却下」されると規定する。
(1) 「時期に後れ」たとは、より早期に提出することを期待できる客観的事情があったか否かから判断する。
審理は結審が予定されていたその後の口頭弁論期日まで進行しており、L2が相殺を主張する自働債権は、本件訴訟の開始前から相殺適状になっており、仮定的抗弁を主張することも可能であった。
そうすると、客観的にみて、L2は現在主張している時期よりも早期に相殺の抗弁を提出できることが可能であったというべきであり、L2の相殺の抗弁は「時期に後れ」たものということができる。
(2) 「故意又は重大な過失」の有無の判断は、訴訟の経過、抗弁の種類・性質、当事者の法的知識の有無から判断する。
確かに、相殺の抗弁は自己の債権を犠牲にして請求棄却を勝ち取るものであり、基準時後の後訴における相殺の抗弁の行使も既判力(114条1項)によって遮断されない。しかし、審理は結審が予定されていたその後の口頭弁論期日まで進行しているので、かなり終盤の段階にあるといえる。また、L2は弁護士であり、法律を専門の職業とする者であるので、法律の知識は多分にあると考えられる。
したがって、L2に「重大な過失」が認められる。
(3) 「訴訟の完結を遅延させる」とは、却下した場合と却下しなかった場合で、却下しなかった場合に追加の審理や期日が必要となるかより判断する。
相殺の抗弁は、自働債権として、本訴とは別個の債権の存在を主張するものである。そうすると、L2が相殺の抗弁を主張することにより、裁判所はその自働債権が存在するか審理判断する必要が生じる。そして、その債権の存否の判断のため、当事者間では新たに攻撃防御方法が提出されることとなり、裁判所は新たな期日を開いてこれを審理判断する必要が発生すると考える。
したがって、裁判所がL2の相殺の抗弁を却下しなかった場合、追加の期日が必要になると考える。よって、L2の相殺の抗弁の主張は、「訴訟の完結を遅延させる」といえる。
3 以上より、L2の相殺の抗弁は、時期に後れた攻撃防御方法にあたる。よって、裁判所はL2の相殺の抗弁を却下すべきである。
設問2
1 後訴における、AのYから代理権を授与されていた旨の主張は参加的効力(46条)により排斥されないか。
(1) 参加的効力は訴訟告知により発生する。そして、訴訟告知が有効であるためには、被告知者に補助参加の利益が認められることが必要である。本件では、Aに補助参加の利益が認められるので、XによるAへの訴訟告知は有効である。
(2) 参加的効力とは、46条各号で規定されているような効力を持つ、確定判決に生じる効力である。46条各号によると、参加的効力は既判力とは異なる効力を持つものであると考えられるので、既判力とは別の効力を有すると考える。そして、参加的効力は判決主文を導き出すのに必要な主要事実の判断についても生じると考える。なぜなら、敗訴当事者間では、後訴において、判決理由中の判断が争点になることが多いため、敗訴当事者の公平な損害分担という参加的効力の趣旨からは、敗訴当事者間で判決理由中の判断について確定しておく必要があるからである。
(3) 本件では、本件訴訟において、XはYに対し、任意代理(民法99条1項)の成立と表見代理の成立を主張している。このうち、任意代理の主張の要件事実は、①XA間での法律行為の存在、②顕名、③①に先立ち、YがAに代理権を付与したことである。そして、本件で争点となっているYからのAへの代理権の授与は、上記の要件事実の③にあたる。そうすると、YからのAへの代理権の授与の有無の事実は、判決主文を導くのに必要な主要事実についての判断にあたる。そして、裁判所は当該事実について、YからAへの代理権の授与はなかったという判断をしている。
(4) そうすると、Aには参加的効力が及び、AのYから代理権を授与されていた旨の主張は参加的効力により排斥されることが原則である。
2 もっとも、XとAは互いに協力して訴訟を追行する関係にないとして、例外的に参加的効力が発生しないのではないか。
(1) 参加的効力の趣旨が敗訴当事者間における損害の公平な分担にあることからすれば、参加的効力が発生するためには、敗訴当事者間で互いに協力し訴訟を追行する関係が認められることが必要であると考える。
(2) 本件では、XはYからAへの代理権の授与を争っているのであり、当該代理権の授与はAにとっても有利な効果があるといえる。したがって、XとAは共通した利益を有するといえ、互いに協力し訴訟を追行する関係にあるといえる。
(3) よって、原則どおり、本件訴訟の参加的効力はAに及ぶ。
3 以上より、後訴における、AのYから代理権を授与されていた旨の主張は参加的効力により排斥される。
以上
民訴法は憲法と同じくらいまともに内容を覚えていたので、再現性は高いと思う。