私はよく夢をみる
夜毎色んな夢をみる
亡くなった父の夢もたくさんみる






生前
晩年の父は穏やかで
とても優しい人だった


けれど
昔の父はそうでは無かった
短気でいつもイライラして
よく大声で怒っていた

子供の私は
些細なことでよく怒鳴られ
そして殴られた

たんこぶで腫れた日も多い
髪の長さで
友達には気付かれなかったけれど


父が上機嫌な日は
みな必死で父の機嫌をとった
無事に 
泣かずに眠りたいのだ






不思議なのだが
外食と旅行が好きな父は
ひとりで度々出掛けたが
家族を連れて出掛けることも多かった

寿司にステーキ 
中華にフグと
銀座に上野に浅草に

人前での父は
それは行儀の良い善人で
常にニコニコしていた










短気な父に歯向かうように
大晦日にカバンひとつで
家出同然に嫁いでしまった私が
再び父に会ったのは

生まれたばかりの乳飲み子を連れて
産後の里帰りの時だった

部屋の壁際で私は
どんな顔をしたら良いのか分からずに
困惑していた

そこへ入ってきた父は
寝かされた2700gの赤ん坊を見て
【ちいさいなぁ〜】
とひとこと満面の笑みで言った



その日から

父は
ただの優しいおじいちゃんに
なったのだった


孫を連れ
幸せそうに外食に旅行に
私のふたりの子供達には
一度も怒らなかった父










私はよく夢をみる
夜毎色んな夢をみる
亡くなった父の夢もたくさんみる




旅先の宿で
父と家族で楽しく過ごす夢

ご馳走を囲み
父と共に笑いながら食事をする夢

家に親戚が集まって
父がとびきり嬉しそうな夢




夢にはいつも父が居て
そして
夢の中の父は決まって上機嫌だ





あまりにも
頻繁に夢に出てくる父

そのせいで私は
父が今でも実家にいる錯覚を起こす




目覚めて大分経ってから
【ああ!お父さん死んだんだった】
びっくりしながら思い出す









私は
父を亡くしたことをたびたび忘れる













ami