●トリチウムは世界中で垂れ流し

電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、原子炉ごとに異なるが、加圧水型軽水炉内には約200兆Bq、沸騰水型軽水炉では約20兆Bqのトリチウムを放出しています。 日本の年間の放出管理基準値は22兆Bqですが、これは国内で初めに稼働した福島の沸騰水型の原子炉では、年間約20兆Bqのトリチウムを排出したので、そのまま海洋放出できるように年間22兆BqまでOKと、国が勝手に規制値を決めたのです。 何の科学的、医学的根拠もありません。 この年間の総量規制を日本では6万Bq/ℓに薄めて海洋放出していたのです。この6万Bq/ℓの排出基準では、その1%が有機結合型トリチウムとして取り入れられたら600Bq/Kgです。 同じβ線を出すセシウム137に被曝して、多臓器不全で亡くなった人たちの臓器のセシウム濃度(200〜500Bq)より高いことになります。 世界的にはWHOが1万Bq/ℓ、カナダは7千Bq/ℓ、アメリカは740Bq/ℓ、EUは100Bq/ℓで、規制機関によって幅があります。 カナダはトリチウムを大量に出す重水炉の原発周辺で小児白血病やダウン症候群、新生児死亡の増加など実証されているので、飲料水は20Bq/ℓ以下となっています。 しかし、日本のトリチウムの排出規制基準値は、水の形態の場合は60Bq/cm3であり、水以外の化合物の場合は40Bq/cm3、有機物の形態では30Bq/cm3です。 水中放出の濃度規制値は1cm3当たり60Bqを1リツトルに直すと6万Bq/ℓですが、それ以下に薄めれば海洋放出できるわけです。 この原子力施設からの排水中のトリチウムの規制値も全く根拠はありません。 1m3に換算すると6千万Bq/m3となります。 こんなインチキな印象操作も使って、トリチウムの問題を隠蔽しているのです。 トリチウムはろ過や脱塩、蒸留を行なっても普通の水素と分離することがとても難しく、1トンのトリチウム水の分離に約二千万円かかると言われています。 そのため最終的には海洋投棄しようとしているのです。

●おわりに

原発は事故を起こさなくてもトリチウムのような放射性物質を環境中に放出することから、健康問題の視点から稼働すべきではないのです。 発電技術は代替え手段があります。また日本は地震・火山大国であり、大量の使用済み核燃料の処理もできない状態です。 原発は国民の選択で止められます。 原発政策を推進する政権を変えることが最も有効な安全保障なのかも知れません。 また六ヶ所村の再処理が始まれば原発稼働どころではない大量のトリチウムを海洋流出することとなり、全世界的に悪影響を及ぼすことになります。 このように原発事故が起こらなくて、稼働により放出しているトリチウムが健康被害に繋がっているのです。 トリチウムは原発から近いほど濃度が高く、それに食物連鎖で次々、生物濃縮します。 処理コストが安いからと言ってトリチウムを海洋放出することは、人類に対する緩慢な殺人行為なのです。


西尾 正道(にしお まさみち)

独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 名誉院長 (放射線治療科)、 「市民のためのがん治療の会」顧問、認定NPO法人いわき放射能市民測定室「たらちね」顧問。 「関東子ども健康調査支援基金」顧問
1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。 国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科に勤務し39年間、がんの放射線治療に従事。 がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点 を指摘し、改善するための医療を推進。



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