***
「……ここかぁ」
狼の頭部を模した兜を被った男が、砂漠を進む。
視線の先には、兵士たちが駐屯する遺跡があった。
「臭う、臭うなあ。あのガキの臭いだ」
右手には刀身から柄まで真っ黒な大剣を持ち、左手には――人の頭部を提げていた。断面から血がしたたり落ち、赤土の地面を濡らす。
「えーっと、旦那からの指令はなんだったか……ああそうだ、確か――」
その異様な姿に、兵士の一人が武器を構えながら近づく。
「待て、止まれ! ここはデゼルト王の名のもとに封鎖されてい――は?」
男は兵士に向かって、左手に持っていた人の頭部を放った。
それを受け取った兵士は、それが何かを悟り驚愕する。
「マ、マウロ様……?」
「おう。そこでたまたま会ってな、己おれの邪魔をしようとして来たから、つい殺っちまった……持っててもしゃーねえし、やるよ」
その頭部はマウロのものだった。
驚き、応援を呼ぼうとした兵士の胴体が、黒い剣で両断される。
血飛沫を上げながら地に伏した兵士を見て、狼面の男は手を叩いた。
「ああ、そうだそうだ――『生き残りのガキもろとも、全員殺せ』だったな。違ちげぇような気もするが、まあ大体合ってんだろ」
そして狼面の男――マルコは、遺跡に向かって歩き出した。
騒ぎを聞きつけた兵士が集まってくるが、マルコは剣のひと薙ぎでそれを蹴散らしていく。
「――出でよ」
血で泥濘になった地面に変化が起きる。
血泥の中から這い出る様に、ローブを纏い、剣を握ったモノたちが現れた。
その者たちが面食らっている兵士に剣を振り降ろすと、傷口が炎上し、瞬く間に燃やし尽くす。
「旦那から貰ったモンだが、へへっ、やっぱ便利だな」
それは他でもない、ウォート村を焼き尽くした集団だった。
あっという間に全滅した兵士の亡骸がごうごうと燃え盛り、その場を地獄に変える。
「さあ行くか。この場にいる誰も、生きて帰さねえぞっと」
そして、地獄の集団は歩き出した――ウォート村の生き残り、シャーフ・ケイスケイへと向けて。
***
サンドランド城下町。
宿の外に、二人の少女が乗ったマナカーゴが停まっていた。
「いいですかパティ子、このマナカーゴは私でも動かせるのです」
「んー……?」
「ウイングが言っていました。『貯蓄された燃料があるから、ゼラ公でもちょっとは動かせるぜ』と。昔、一度運転したら何故かそれからは運転させてくれませんでしたが――」
ゼラはマナカーゴの運転席に立ち、操縦桿を握り、俯いた。
「――仕方がないのです。幻狼族は本当に危険な連中なのです。ここで逃げなくては、みんな死んでしまうのです」
「え、えあ……んんー、ん!」
そんなゼラを元気づける様に、パティが肩を叩く。
「はい……パティ子は私が守ります。そうすれば、天国のシャーフ後輩も喜んでくれることでしょう」
それに励まされ、意を決したゼラは、操縦桿を強く握った。
「行きますよパティ子、目指すは東で――――」
「んんーーーっ!?」
その瞬間、マナカーゴは爆発的な加速を以って急発進する。
町行く人々はその暴走車を避け、マナカーゴは門を突破し、砂漠の地を爆走した。
「あばばば……なんという速さでしょう。パティ子、東はこっちで合ってますか」
「ん、んん!? んー、んんー!?」
「多分そうでしょう。このまま突き進みますよでゅっ……舌を噛まないように気を付けて下さごでゅっ」
舌を噛みながら、ゼラは懸命に操縦桿を握る。
サボテンをなぎ倒し、岩を踏み越え、暴走車は砂漠を突き進む。
――かつてウイングがゼラに運転を任せた際、全く同様の事が起きていた。暴走のまま進路を違えたマナカーゴは、人類未踏の地に踏み入りかけ、それ以来ゼラに運転が任されることは無かった。
そして、今回も――東に向かっているはずのマナカーゴは、様々な障害を跳ね飛ばしている中で、やがてその進路を変えて行った。
――――南へ。
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