「同じようなもんだろ。いちいち細かい奴だなー」



 細かい事を気にもする、なんせ以下略。

 それからウイングと一緒に町を出て、馬車が停めてある街道の路肩へと戻った。



 馬車の傍ではウェンディとゼラとパティが、遅めの朝食を摂っていた。

 ウェンディは俺の仮面姿を見て眉をひそめ、剣の鞘でウイングの頭をぶっ叩いた。



「⋯⋯団長、悪ふざけはやめなさいよ」

「痛ってえな! ふざけてねーよ! こいつの御尊顔が目立つから、オレなりの配慮をだな⋯⋯」

「ならゴーグルとかで良かったでしょう! ずっと仮面付けてるとか、ただの痛い子じゃない!」



 あ、やっぱり変だったのか⋯⋯この世界では常識なのかと。

 二人がぎゃあぎゃあと言い争っているのを眺めていると、ゼラが近寄って来る。相変わらず無表情だが、その頬は笑いを堪えるように膨らんでいた。



「ぷくすー」

「チッ⋯⋯」

「ナチュラルに舌打ちしましたね。なかなか滑稽で良いと思います。パティ子もそう思うと思いますよ」



 そう言われ、ゼラの背中に隠れているパティを見る。



「ん、う⋯⋯?」



 少し怯えは残るものの、今までのような恐怖は見られなかった。まさか、本当に効果があるとは。

 パティは何故かゼラに懐いているから、ゼラが側にいる事も要因かもしれないが。



「パティ⋯⋯」

「ひっ」



 しかし声をかけると、ゼラの背中に引っ込んでしまった。



「パティ子をいじめないで下さい変質者」

「⋯⋯⋯⋯」

「おーい、遊んでねーでこっち来いガキどもー」



 俺が肩を落としていると、ウイングから号令がかかった。丸めた依頼書を渡され、中を見るように促される。



「⋯⋯拝見します」



 依頼書を開く。そこには、



『スープを作りたいので、ヴァロー峡谷からロックドラゴンの卵を持ち帰ってください。報酬・金貨500枚』



 とだけ書いてあった。

 しかし、何かがおかしい。

 まず、ドラゴンの卵でスープを作るって。魔物って死んだらマナ結晶になるんじゃないのか。

 それと、ギルドの依頼書には『天秤と羊』の魔法印が押されている筈だが、それが見当たらない。裏返して見ても白紙だ。

 しかもこの法外な報酬――これはまさか……。



「ちょっと、これ無認可依頼じゃない!」



 ウェンディが俺の手から依頼書をひったくり、信じられないと言った表情になる。



「しかもどう見てもイタズラ! 団長、何考えてるのよ!?」

「うるっせーなー、もしギルドの依頼失敗したら違約金発生すんだからよー、最初はこんなもんでいだろ」

「じゃあ認可されてる内の、簡単な依頼で良かったでしょう!? バカなの!?」

「それじゃテストにならねーだろ? もし失敗しても、ドラゴンの卵なら買い手はあるしな」



 再び喧嘩を始めてしまった二人を眺めながら、俺は腕を組み、考えた。

 つまりウイングは、俺が失敗した時に負うリスクを考えて、この無認可依頼を選択したのだろう。

 依頼はイタズラで間違いないだろうが、失敗しても団の懐は痛まず、成功すれば少なくとも卵を売った分の金は入る、と。



「⋯⋯合理的だと思います。俺、やります」

「ちょっと、シャーフ!?」

「ほらこいつもこう言ってるじゃねーか。二対一でオレの勝ちー」

「ドラゴン卵のスープですか。私も食べてみたいです。パティ子もそう思っていると思います」

「はい四対一な! 決定!」

「……頭が痛いわ」



 心配してくれているウェンディには申し訳ないが、成功する算段はある。

 ロックドラゴンがどんな奴かは知らないが、俺には不死の肉体がある。最悪ゾンビアタックを仕掛ければ、時間はかかれど達成はできるだろう。

 死ぬ事に慣れたわけではなく、慣れたくもないが、これもパティの為だ。

 ……卵を持ち帰るだけなら、戦う必要は無いかもしれないが。



「ヴァロー峡谷までは送ってやるよ。そこからは頑張れ」

「おいしい卵を持ち帰ってきて下さい。今日は卵パーティです」



 額に手を当てて呆れているウェンディをよそに、ウイングとゼラが俺の肩を叩く。



「あ? なに言ってんだ。お前も行くんだよ、ゼラ公」



 しかし、ウイングのもう片方の手が、ゼラの頭に置かれた。



「……は」

「は、じゃねーよ。団の先輩として、後輩の面倒を見てやれ」

「わ、私はパティ子の面倒を見なくてはいけないので」

「ウェンディに任せときゃいいだろ」

「何を言っているのですか。パティ子も私と離れたくないと思っていると思いますよ」



 ゼラはパティの方を振り返る。

 しかし、そこでは――。



「じゃあパティちゃん、お姉さんと一緒に町にお出かけしよっか」

「んー、ん!」



 ――優しく接するウェンディに、一瞬で懐いたパティの姿があった。

 ウェンディは美人だし、優しそうだしなあ。俺もクソガキとお姉さんだったら、後者を選ぶ。誰だってそうする。



「裏切られました。気分が悪いので休みます」

「アホか。観念しろ。それにほら、先輩だぞ先輩」

「先輩……なるほど。なかなか甘美な響きです」



 そして俺はクソガキを宛がわれた事に気づく。

 いやまあ、以前ゼラは剣を使えると言っていたっけ。

 ついてきてくれるのは助かる……のか?



「シャーフ……いえシャーフ後輩。これからは私の事を先輩と呼びなさい」

「団長、ロックドラゴンとはどんな魔物なんですか?」

「無視しないで下さい」

「あー、大したことねーよ。ちょっとデカめのトカゲだ」



 トカゲか……まあ卵を持ち帰るだけなら、無理に交戦する必要もないだろう。

 ゼラという手助けも貰えた事だし、なんとしても成功させなくては。

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★332異世界ファンタジー連載中 150話 2019年8月25日



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