カクヨム
前のエピソード――村を出よう・2/自由の翼団
冒険者になろう
***
到着した町は『クインの町』と言った。
西大陸の南方に位置する町で、西方のウォート村からはかなり離れており、どうやら夜通しでマナカーゴを走らせていたらしい。
ウイングは言った通り、道すがら冒険者の事について説明してくれた。
「で、資格についてはさっきオバサンが言った通りだ。気をつけなきゃなんねーのは、依頼の種類だな」
「種類ですか?」
「ああ。無認可依頼ってのがあるのは知ってるか?」
頷く。
以前、アリスターとノットと町を訪れた際、ウェンディに聞いていた。
「オーケー、それは基本的に無視だ。依頼人がバックれたり、報酬で揉めたりで、トラブルが耐えねーんだわ」
「ギルド認可依頼はそうではないんですか?」
「おう。冒険者ギルドが認可した依頼は、魔法印によって管理されてんだ。詳しく説明すっとだな――」
ウイング、曰く――。
冒険者ギルド『カルディ』では、市井の依頼を集約し、冒険者に斡旋している。
依頼人からは依頼手数料を、冒険者からは受諾手数料をそれぞれ受け取り、その代わりに"信頼"を提供している。
依頼人から提示された報酬、期限を審査した上で認可、依頼書を作成し、そこに魔法がかけられたインクで印が押される。この製法は極秘らしく、偽造は不可能となっている。
魔法印の効力としては、偽造防止が主だ。それにより、期限が過ぎた場合の誤魔化しも効かなくなる。
また、どの冒険者が、何の依頼を受けているかの管理も出来るとの事。
この機能は全世界のカルディで共有されており、例えば、
『◯◯町のカルディへようこそ。おや? ケイスケイさんは××町で受諾した依頼が未報告の様ですが、いかがしました?』
と、受けた依頼を放ったらかしにしていると、注意が入る。
ギルドが悪質とみなした場合、冒険者資格の剥奪処置も取られるそうである。
「――つーわけだ。しっかり稼ぎたきゃ、ちゃんと規則に従って働けってこった。まあ無認可も、法外な報酬を提示してる事もあるから、一山当てるには良いかもな。だいたいイタズラだが」
「勉強になります」
冒険者と聞いて、荒くれ者の集まりを想像していたが、結構しっかりとした制度が定められているんだな。
「で、冒険者資格だが、これには階級が設けられている」
「階級⋯⋯一級とか三級とか、ですか?」
「いんや。下からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナって具合だ。それぞれの階級の中にもⅠいち〜からⅤごまで区分があってな。一番高い階級がプラチナⅠになる」
「階級が上がると、何か良いことがあるんですか?」
「より高額な報酬の依頼を受けられる様になったり、受諾手数料が割引されたりな。誰もが最初はブロンズⅤからスタートで、依頼の達成状況に応じて、昇格試験を受けられるんだ」
そんな説明を受けつつ、俺は冒険者ギルドに向か――う前に、別の場所に連れて行かれた。
「まず装備を整えねーとな。その外套は上質なモンだが、服がお坊ちゃん丸出しだ。そんなんで冒険なんてできねーぜ」
そこは、冒険者向けに武器や防具を取り揃えている商店だった。
しかし、十年間ろくに運動もしていなかったもやしの俺に、合う装備などあるのだろうか。
「まず剣だな。お前さんの身長からすると、これくらいが良い」
「いや、俺は剣はもう⋯⋯」
⋯⋯って、あの白い剣は一回死なないと出てこないんだった。
「ん?」
「いえ、なんでも」
「うし。後は動きやすく頑丈な服と⋯⋯これだ!」
ウイングはそう言って、薄っぺらい何かを差し出す。
それは、目元を隠す白い仮面だった。装飾も何もない、簡素なハーレクインマスクだ。
「仮面ですか? なんでまた……」
「おう。パティ子はお前さんの顔を怖がってんだろ。これがありゃ、ちったあマシになるんじゃねーか?」
「ええ……そんな簡単に行きますかね⋯⋯」
「あとな、お前さんの顔は良くも悪くも人の目を引く。あんな洞窟に身を隠してたって事は、あんま目立ちたくねーんだろ?」
確かに、一理ある。
というか転生する際、顔面偏差値を上方に弄られた様だが、この容姿が役に立った事なんて無いな。あの胡散臭い女神も余計な事をしてくれたものだ。
俺は頷き、仮面を受け取り、装着した。
「⋯⋯⋯⋯ぶっ」
「⋯⋯いま笑いました?」
「笑ってねーよ。似合ってんぞ。さ、武器防具一式は入団祝いで奢ってやろう」
「良いんですか? ⋯⋯あれ、というかまだテスト段階なんじゃ」
「いんだよ細かい事は!」
細かい事を気にもする。
この団に入れるかどうかが、俺とパティの今後に関わってくるのだから。
「んじゃ、お着替えタイムだ」
ひとまず、買ってもらった武器と防具を身につける。
武器は刃渡り五十センチ程の、片刃の剣だ。ショートソードと言うのだったか。それを鞘に納め、腰から提げる。
防具は丈夫な革製のジャケットにパンツ、膝丈のブーツ。その上から外套を羽織り、仮面を付けて⋯⋯ハロウィーンの仮装でもしているみたいだ。
「うーんうん、仮面の少年剣士。インスピレーションが掻き立てられるな」
「なんのインスピレーションですか⋯⋯」
「その外套、少しだが防護魔法がかかってんな。お前さんの体に鎧は重たいだろうし、今はそれで良いだろ」
この黒い外套は、クリス氏のものを適当に引っ掴んで来たものだった。特に装飾もない、袖が無い、マントタイプのものだ。
一応、形見という事になるのだろうか。大切にしなくては。
「さて、次はいよいよ冒険者デビューだな!」
***
冒険者資格の取得は、特に問題なく終わった。
ギルド内の受付カウンターで、ウイングが書類にペンを走らせ、俺の名前を記名するだけで済んでしまった。もっとこう、身体能力の検査とかを想像していたので、拍子抜けだ。
資格証は手のひらサイズの、銅製のカードだった。
表面には白い文字で俺の名前、年齢、星のマークが五つ。
それと『羊が天秤に掛けられている』シンボル。これはカルディの印章らしく、魔法印もこの形らしい。
五つの星は、ブロンズランク内の"Ⅴご"を表しているそうだ。
「割と誰でもなれんだよ。その後、成りあがれるかどうかは自分次第ってな。さ、テスト用の依頼を見繕うから、その辺ぶらぶらしてろ。迷子になんなよー」
どうやら入団テストの内容は、ウイングが選んだ依頼をこなす事らしい。
ぶらぶらしてろ、と言われても興味を惹かれるものも無いので、混み合うギルド内の隅でじっとしている事にした。
驚いたのが、子供の冒険者が多い事だった。
俺と同年代、もしくはそれより少し上くらいの子供が、ウイングや大人の冒険者と並び、依頼書が綴じられたバインダーと睨めっこしている。
⋯⋯アリスターとノット、サムは無事だろうか。
あんな事が無ければ今も、ウォート村の隣町のギルドで、今の俺と同じように冒険者の姿を眺めていたかもしれない。
「⋯⋯⋯⋯ッ」
ダメだ。今は目の前の事だけに集中しろ。
ここで入団テストに受からなかったら、パティを路頭に迷わせる事になるんだ。
「⋯⋯おーい、仮面付けてても殺気が漏れ出てんぞ。もちっと気楽にやれや」
「あ⋯⋯団長⋯⋯」
軽い感触に頭を叩かれて顔を上げると、呆れ顔のウイングが立っていた。
手には丸めた依頼書を持っている。どうやらこれで叩いた様だ。
「つーわけで、お前さんの初仕事が決定した! さ、一旦馬車に戻っぞ」
「はい⋯⋯初仕事? テストでは?」
「同じようなもんだろ。いちいち細かい奴だなー」
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冒険者になろう
***
到着した町は『クインの町』と言った。
西大陸の南方に位置する町で、西方のウォート村からはかなり離れており、どうやら夜通しでマナカーゴを走らせていたらしい。
ウイングは言った通り、道すがら冒険者の事について説明してくれた。
「で、資格についてはさっきオバサンが言った通りだ。気をつけなきゃなんねーのは、依頼の種類だな」
「種類ですか?」
「ああ。無認可依頼ってのがあるのは知ってるか?」
頷く。
以前、アリスターとノットと町を訪れた際、ウェンディに聞いていた。
「オーケー、それは基本的に無視だ。依頼人がバックれたり、報酬で揉めたりで、トラブルが耐えねーんだわ」
「ギルド認可依頼はそうではないんですか?」
「おう。冒険者ギルドが認可した依頼は、魔法印によって管理されてんだ。詳しく説明すっとだな――」
ウイング、曰く――。
冒険者ギルド『カルディ』では、市井の依頼を集約し、冒険者に斡旋している。
依頼人からは依頼手数料を、冒険者からは受諾手数料をそれぞれ受け取り、その代わりに"信頼"を提供している。
依頼人から提示された報酬、期限を審査した上で認可、依頼書を作成し、そこに魔法がかけられたインクで印が押される。この製法は極秘らしく、偽造は不可能となっている。
魔法印の効力としては、偽造防止が主だ。それにより、期限が過ぎた場合の誤魔化しも効かなくなる。
また、どの冒険者が、何の依頼を受けているかの管理も出来るとの事。
この機能は全世界のカルディで共有されており、例えば、
『◯◯町のカルディへようこそ。おや? ケイスケイさんは××町で受諾した依頼が未報告の様ですが、いかがしました?』
と、受けた依頼を放ったらかしにしていると、注意が入る。
ギルドが悪質とみなした場合、冒険者資格の剥奪処置も取られるそうである。
「――つーわけだ。しっかり稼ぎたきゃ、ちゃんと規則に従って働けってこった。まあ無認可も、法外な報酬を提示してる事もあるから、一山当てるには良いかもな。だいたいイタズラだが」
「勉強になります」
冒険者と聞いて、荒くれ者の集まりを想像していたが、結構しっかりとした制度が定められているんだな。
「で、冒険者資格だが、これには階級が設けられている」
「階級⋯⋯一級とか三級とか、ですか?」
「いんや。下からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナって具合だ。それぞれの階級の中にもⅠいち〜からⅤごまで区分があってな。一番高い階級がプラチナⅠになる」
「階級が上がると、何か良いことがあるんですか?」
「より高額な報酬の依頼を受けられる様になったり、受諾手数料が割引されたりな。誰もが最初はブロンズⅤからスタートで、依頼の達成状況に応じて、昇格試験を受けられるんだ」
そんな説明を受けつつ、俺は冒険者ギルドに向か――う前に、別の場所に連れて行かれた。
「まず装備を整えねーとな。その外套は上質なモンだが、服がお坊ちゃん丸出しだ。そんなんで冒険なんてできねーぜ」
そこは、冒険者向けに武器や防具を取り揃えている商店だった。
しかし、十年間ろくに運動もしていなかったもやしの俺に、合う装備などあるのだろうか。
「まず剣だな。お前さんの身長からすると、これくらいが良い」
「いや、俺は剣はもう⋯⋯」
⋯⋯って、あの白い剣は一回死なないと出てこないんだった。
「ん?」
「いえ、なんでも」
「うし。後は動きやすく頑丈な服と⋯⋯これだ!」
ウイングはそう言って、薄っぺらい何かを差し出す。
それは、目元を隠す白い仮面だった。装飾も何もない、簡素なハーレクインマスクだ。
「仮面ですか? なんでまた……」
「おう。パティ子はお前さんの顔を怖がってんだろ。これがありゃ、ちったあマシになるんじゃねーか?」
「ええ……そんな簡単に行きますかね⋯⋯」
「あとな、お前さんの顔は良くも悪くも人の目を引く。あんな洞窟に身を隠してたって事は、あんま目立ちたくねーんだろ?」
確かに、一理ある。
というか転生する際、顔面偏差値を上方に弄られた様だが、この容姿が役に立った事なんて無いな。あの胡散臭い女神も余計な事をしてくれたものだ。
俺は頷き、仮面を受け取り、装着した。
「⋯⋯⋯⋯ぶっ」
「⋯⋯いま笑いました?」
「笑ってねーよ。似合ってんぞ。さ、武器防具一式は入団祝いで奢ってやろう」
「良いんですか? ⋯⋯あれ、というかまだテスト段階なんじゃ」
「いんだよ細かい事は!」
細かい事を気にもする。
この団に入れるかどうかが、俺とパティの今後に関わってくるのだから。
「んじゃ、お着替えタイムだ」
ひとまず、買ってもらった武器と防具を身につける。
武器は刃渡り五十センチ程の、片刃の剣だ。ショートソードと言うのだったか。それを鞘に納め、腰から提げる。
防具は丈夫な革製のジャケットにパンツ、膝丈のブーツ。その上から外套を羽織り、仮面を付けて⋯⋯ハロウィーンの仮装でもしているみたいだ。
「うーんうん、仮面の少年剣士。インスピレーションが掻き立てられるな」
「なんのインスピレーションですか⋯⋯」
「その外套、少しだが防護魔法がかかってんな。お前さんの体に鎧は重たいだろうし、今はそれで良いだろ」
この黒い外套は、クリス氏のものを適当に引っ掴んで来たものだった。特に装飾もない、袖が無い、マントタイプのものだ。
一応、形見という事になるのだろうか。大切にしなくては。
「さて、次はいよいよ冒険者デビューだな!」
***
冒険者資格の取得は、特に問題なく終わった。
ギルド内の受付カウンターで、ウイングが書類にペンを走らせ、俺の名前を記名するだけで済んでしまった。もっとこう、身体能力の検査とかを想像していたので、拍子抜けだ。
資格証は手のひらサイズの、銅製のカードだった。
表面には白い文字で俺の名前、年齢、星のマークが五つ。
それと『羊が天秤に掛けられている』シンボル。これはカルディの印章らしく、魔法印もこの形らしい。
五つの星は、ブロンズランク内の"Ⅴご"を表しているそうだ。
「割と誰でもなれんだよ。その後、成りあがれるかどうかは自分次第ってな。さ、テスト用の依頼を見繕うから、その辺ぶらぶらしてろ。迷子になんなよー」
どうやら入団テストの内容は、ウイングが選んだ依頼をこなす事らしい。
ぶらぶらしてろ、と言われても興味を惹かれるものも無いので、混み合うギルド内の隅でじっとしている事にした。
驚いたのが、子供の冒険者が多い事だった。
俺と同年代、もしくはそれより少し上くらいの子供が、ウイングや大人の冒険者と並び、依頼書が綴じられたバインダーと睨めっこしている。
⋯⋯アリスターとノット、サムは無事だろうか。
あんな事が無ければ今も、ウォート村の隣町のギルドで、今の俺と同じように冒険者の姿を眺めていたかもしれない。
「⋯⋯⋯⋯ッ」
ダメだ。今は目の前の事だけに集中しろ。
ここで入団テストに受からなかったら、パティを路頭に迷わせる事になるんだ。
「⋯⋯おーい、仮面付けてても殺気が漏れ出てんぞ。もちっと気楽にやれや」
「あ⋯⋯団長⋯⋯」
軽い感触に頭を叩かれて顔を上げると、呆れ顔のウイングが立っていた。
手には丸めた依頼書を持っている。どうやらこれで叩いた様だ。
「つーわけで、お前さんの初仕事が決定した! さ、一旦馬車に戻っぞ」
「はい⋯⋯初仕事? テストでは?」
「同じようなもんだろ。いちいち細かい奴だなー」
㉑Aへ続く
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