カクヨム
前のエピソード――村を出よう・1
村を出よう・2/自由の翼団
――『自由じゆうの翼団つばさだん』とは、世界を股にかける冒険者集団である。ギルドの依頼を受けて路銀を稼ぎ、気ままに旅をして、六大魔法師が遺した財宝を捜し当てるのを目的としている。
メンバーは団長のウイング。
副団長兼戦闘員のウェンディ。
マスコットキャラのゼラ。
そして新たに加わったのが、目つきが悪い金髪小僧のシャーフと、病床の少女パティ――。
***
「――と言うわけで、みんな拍手!」
鳶色の髪の男――ウイングの号令で、パラパラと拍手が起こる。
手を叩いているのはウェンディと俺だけで、パティは馬車内のベッドに寝かされ、ゼラは食事を頬張っている。
「もぐもぐ。最近はしょっぱい麦粥ばかりでしたから、なんでもおいしく感じます」
……さて、俺とパティがこの『自由の翼団』の馬車に拾われてから、数時間が経った。
馬車――とは言うものの、引く馬がいない。どうやらマナ結晶を燃料に動いている車の様だ。
御者台に当たる場所は自動車の運転席に似ており、ハンドルもある。幌付きの荷台と言い、さながら大型トラックの様だった。
それに乗り込んだ俺は、ウェンディと再会した。
ゼラがいるのだから、この人もいるだろうと見当は付けていたが。
そして森を抜け、街道の近くに停車し、顔合わせを済ませ、今に至る。
「とりあえずメシだ。今後の事は食いながら話すぞ」
料理担当は団長のウイングらしく、野菜と肉がごろごろと入ったシチューが盛られた皿を差し出された。
「パティ子にはこっちな。オレ特製麦粥。ゼラ公、食わせてやれ」
「じゅる⋯⋯」
「食うなよ?」
パティ子って。
そして、久しぶりの食事らしい食事を口にして、俺はようやく緊張を解いた。
パティも、何故かゼラに対しては恐怖心を抱かないらしく、差し出されたスプーンを抵抗なく口にしていた。
「さて、今後の事だが⋯⋯シャーフ、お前さんは何が出来る?」
「俺は⋯⋯魔法なら一通り使えます。パティの分も働きます」
「それは重畳。だが我が団には掟があってな。魔法もいいが、剣を使って貰うぞ」
「は⋯⋯剣、ですか?」
ウェンディもゼラも、腰に剣を提げているのはそういう事か。
剣なんて今まで、俺が死んだ時に現れる白い剣しか使った事がない。前世でも、現代日本で剣を使う場面なんて、あるはずもなかった。
「すぐにとは言わねーよ。そうだな、ウェンディに習え。このオバサンは剣の腕は確かだからな」
「私はまだ二十五よ⋯⋯というか同い年でしょう。いいかしら、シャーフ?」
「は、はい。願っても無いです」
本当に、願っても無い申し出だった。
これからパティを守り、村の生き残りを探さなくてはならないのだ。手段は多いに越した事はない。
「よし! まあ剣はウェンディに任せときゃ良いから、次は――」
「……お願いがあります!」
俺はウイングの言葉を遮り、馬車の床に手をついて頭を下げた。
「……言ってみ?」
「俺は、探さなくちゃいけない人がいます。それと、パティの事も……」
「よしオーケー。人探しと、魔炎障害の治療な」
「……え?」
俺が顔を上げると、ウイングとウェンディは難しそうな顔を突き合わせていた。
「でも団長、魔炎障害となると、この辺の医者じゃ無理よ?」
「あー、ウィンガルドに戻るっきゃねーな。また長旅の始まりだな」
「いや、あの……?」
「おっと、勿論タダじゃねーぞ? 人探しは旅の道中でするから良いとして、薬代はお前さんが稼ぐんだぞ」
「いえ、そうでなく……」
「ああ、魔炎障害な。あんま聞き馴染みがねーか。マナを多量に含んだ魔法の火はな、人体に重度のマナ中毒と同じ害を及ぼすんだよ。お前さんの村を襲った連中は容赦ねーな」
村を襲った連中――あの傷口から噴き出した炎に晒された者は、例え生き残ったとしても、重度の障害を抱える事となる、という事か。
ふざけるな。ウォート村の人たちに、そうまでされなくてはならない理由が、どこにあったと言うんだ。
「……おいおい、その目をやめろって。ガキがしていい目じゃねーよ」
「……すいません。それで、東大陸のウィンガルドに行けば、パティの障害を取り除けるんですか?」
「おうよ。ウィンガルドは魔法薬学に精通してるからな。魔法で負った傷は、死んでなきゃ治るぜ」
それを聞いて、俺は心の底から安堵が湧き上がってくるのを感じた。
治る――パティの記憶も言葉も、戻るんだ。
ウォート村の惨劇は、全て忘れてしまったままの方が、幸せかもしれない。
だけど、元に戻って欲しかった。
「俺のエゴかも知れないけど……それでも……」
「おいおい、パティ子がこのままでいいわけねーだろ。我が団に入ったからには、パティ子にも働いてもらうぞ」
「そうよ。それに魔炎障害は放っておくと悪化する虞おそれがあるの。まずは西大陸で路銀を稼ぎつつ人探しもして、ウィンガルドに向かいましょう」
そう言われて、少し救われた。
しかしウィンガルドか⋯⋯ここ、西大陸グラスランドとの位置関係は、世界地図の東端と西端だ。
最短ルートは北大陸イーリス国を経由する事だ。マイノルズさんが行く筈だったルートである。
「通るなら南大陸だな。北は国境関所の通行手形が高すぎて、稼いでるうちにガキが大人になっちまう」
「そんなに高いんですか?」
「一人頭、金貨三十枚なり。お前さんとパティ子、それからゼラ公の分を稼ぐとなると、生半可な依頼じゃ無理だ」
金貨三十枚⋯⋯俺が三年間で稼いだ額だ。
何も知らずにアンジェリカを連れてイーリス国へ逃げようとしていたが、土台無理な話だったのか。自分の無知が恐ろしい。
「ん? ⋯⋯という事は、団長とウェンディは手形を持ってるんですよね? ゼラは?」
「あー、あいつは最近入団したんだよ」
「行き倒れていたのを拾ったんだけどね。頑なに身元を喋らないから、仕方なく同行させてるの」
「まったく、オレの聖人っぷりには頭が下がるな! サボるわ、たかるわのクソガキの面倒を見てやってるんだから⋯⋯⋯⋯ん?」
ウイングは言葉を切り、何かを思いついた様に、ニヤリと笑う。それを見て、とてつもなく嫌な予感がした。
「あー、言い忘れていたが、我が団には入団テストがあるのだ!」
「「えっ?」」
俺とウェンディの声がハモった。
初耳である。というか、すでに入団したものだと思っていたが⋯⋯。
「ちょっと団長、何言って⋯⋯」
「というわけでシャーフ! お前にはテストを受けてもらうぞ!」
「は、はい。分かりました! 内容はなんですか?」
それに合格しなければ、団に置いてもらえないと言うのなら、受けるしかない。
「そうだなー。じゃあ明日、町に着いたら決めるか。今日は各自就寝!」
「え? 決まってないんですか?」
「んなわけねーだろ」
「でも今、町に着いたら決めるって⋯⋯」
「聞き間違いだ。じゃ、オレは書き物があるからこれで。話しかけんなよー」
ウイングはそう言うと、ヒラヒラと手を振りながら、御者台――運転席の方へ行ってしまった。
呆然としている俺の肩に、ウェンディの手が置かれる。
「⋯⋯ああいう人なの。あなたも気にせず寝なさい、見張りは私がやっておくから」
少し、いやかなり不安を覚えたが、今日のところはその言葉に甘えることにした。
なにせ洞窟暮らしでは、魔物や侵入者に神経を張り巡らせていて、殆ど不眠不休だった。
「好きなスペースを使っていいわよ。あ、でも、一番奥はパティちゃんが寝ているから⋯⋯」
「⋯⋯はい、ありがとうございます」
馬車の内部は、天井から垂れた幕で四等分に仕切られていた。野営時の部屋代わりになっている様だ。
一番手前の幕を開き、中に敷いてある毛布に包まる。すぐに眠気がやって来て、その夜は泥の様に眠った。
***
翌朝。
馬車――マナカーゴというらしい――の震動で目を覚ました俺は、幌を捲って外を見る。
流れる風景は見覚えのない土地だった。
草原を拓いた街道を走っている様で、本当に旅に出たのだと実感する。
「パティ子、朝です。起きましょう」
「んー⋯⋯んむ⋯⋯」
幕の向こう側から、ゼラとパティの声が聞こえてくる。
⋯⋯今はここから出ない方がいいな。
「もうすぐ着くぞー! 準備しろよガキどもー!」
運転席の方からウイングの声が響き、やがてマナカーゴの震動が収まり、停車した。
俺はパティと顔を合わせない様に、いち早く降車する。
続いて降りて来たウェンディが、俺の頭に手を置く。
「おはよう、よく眠れたかしら?」
「おはようございます。はい、久しぶりに」
「さーて、行くぞシャーフ! ウェンディ、留守を頼むぞ」
続けて運転席から降りたウイングが、ウェンディの手に重ねる様に、俺の頭に手を置く。縮んでしまう。
「これからお前さんには、冒険者資格を取ってもらうからな」
「それが入団テストですか?」
「ちげーよ、これは前提だ。資格取らなきゃ、ギルドで依頼も受けられねーからな」
「資格自体は簡単に取れるわ。ただ未成年の場合、冒険者歴五年以上の経験を持つ人の紹介が必要だけど、そこは団長がいるから問題ないわね。気をつけなくちゃいけないのは資格証を紛失した場合再発行に手数料がかかるのと、依頼書を紛失した場合は資格そのものが失効される場合が⋯⋯」
「うるっせーよオバサン⋯⋯。オレが道すがら教えとくから、ゼラ公とパティ子を見とけって」
ウイングはマシンガントークを手で制し、俺の手を引いた。
ウェンディは不承不承といった感じで閉口し、ヒラヒラと手を振った。
「はいはい⋯⋯」
「あと⋯⋯ゼラ公に準備させておけ」
「⋯⋯! まさか団長⋯⋯」
「そゆこと。じゃあ、またな」
目の前で意味深な会話を交わされたが、今は入団テストに集中しなくては。
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冒険者になろう
★323異世界ファンタジー連載中 149話 2019年8月24日
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――『自由じゆうの翼団つばさだん』とは、世界を股にかける冒険者集団である。ギルドの依頼を受けて路銀を稼ぎ、気ままに旅をして、六大魔法師が遺した財宝を捜し当てるのを目的としている。
メンバーは団長のウイング。
副団長兼戦闘員のウェンディ。
マスコットキャラのゼラ。
そして新たに加わったのが、目つきが悪い金髪小僧のシャーフと、病床の少女パティ――。
***
「――と言うわけで、みんな拍手!」
鳶色の髪の男――ウイングの号令で、パラパラと拍手が起こる。
手を叩いているのはウェンディと俺だけで、パティは馬車内のベッドに寝かされ、ゼラは食事を頬張っている。
「もぐもぐ。最近はしょっぱい麦粥ばかりでしたから、なんでもおいしく感じます」
……さて、俺とパティがこの『自由の翼団』の馬車に拾われてから、数時間が経った。
馬車――とは言うものの、引く馬がいない。どうやらマナ結晶を燃料に動いている車の様だ。
御者台に当たる場所は自動車の運転席に似ており、ハンドルもある。幌付きの荷台と言い、さながら大型トラックの様だった。
それに乗り込んだ俺は、ウェンディと再会した。
ゼラがいるのだから、この人もいるだろうと見当は付けていたが。
そして森を抜け、街道の近くに停車し、顔合わせを済ませ、今に至る。
「とりあえずメシだ。今後の事は食いながら話すぞ」
料理担当は団長のウイングらしく、野菜と肉がごろごろと入ったシチューが盛られた皿を差し出された。
「パティ子にはこっちな。オレ特製麦粥。ゼラ公、食わせてやれ」
「じゅる⋯⋯」
「食うなよ?」
パティ子って。
そして、久しぶりの食事らしい食事を口にして、俺はようやく緊張を解いた。
パティも、何故かゼラに対しては恐怖心を抱かないらしく、差し出されたスプーンを抵抗なく口にしていた。
「さて、今後の事だが⋯⋯シャーフ、お前さんは何が出来る?」
「俺は⋯⋯魔法なら一通り使えます。パティの分も働きます」
「それは重畳。だが我が団には掟があってな。魔法もいいが、剣を使って貰うぞ」
「は⋯⋯剣、ですか?」
ウェンディもゼラも、腰に剣を提げているのはそういう事か。
剣なんて今まで、俺が死んだ時に現れる白い剣しか使った事がない。前世でも、現代日本で剣を使う場面なんて、あるはずもなかった。
「すぐにとは言わねーよ。そうだな、ウェンディに習え。このオバサンは剣の腕は確かだからな」
「私はまだ二十五よ⋯⋯というか同い年でしょう。いいかしら、シャーフ?」
「は、はい。願っても無いです」
本当に、願っても無い申し出だった。
これからパティを守り、村の生き残りを探さなくてはならないのだ。手段は多いに越した事はない。
「よし! まあ剣はウェンディに任せときゃ良いから、次は――」
「……お願いがあります!」
俺はウイングの言葉を遮り、馬車の床に手をついて頭を下げた。
「……言ってみ?」
「俺は、探さなくちゃいけない人がいます。それと、パティの事も……」
「よしオーケー。人探しと、魔炎障害の治療な」
「……え?」
俺が顔を上げると、ウイングとウェンディは難しそうな顔を突き合わせていた。
「でも団長、魔炎障害となると、この辺の医者じゃ無理よ?」
「あー、ウィンガルドに戻るっきゃねーな。また長旅の始まりだな」
「いや、あの……?」
「おっと、勿論タダじゃねーぞ? 人探しは旅の道中でするから良いとして、薬代はお前さんが稼ぐんだぞ」
「いえ、そうでなく……」
「ああ、魔炎障害な。あんま聞き馴染みがねーか。マナを多量に含んだ魔法の火はな、人体に重度のマナ中毒と同じ害を及ぼすんだよ。お前さんの村を襲った連中は容赦ねーな」
村を襲った連中――あの傷口から噴き出した炎に晒された者は、例え生き残ったとしても、重度の障害を抱える事となる、という事か。
ふざけるな。ウォート村の人たちに、そうまでされなくてはならない理由が、どこにあったと言うんだ。
「……おいおい、その目をやめろって。ガキがしていい目じゃねーよ」
「……すいません。それで、東大陸のウィンガルドに行けば、パティの障害を取り除けるんですか?」
「おうよ。ウィンガルドは魔法薬学に精通してるからな。魔法で負った傷は、死んでなきゃ治るぜ」
それを聞いて、俺は心の底から安堵が湧き上がってくるのを感じた。
治る――パティの記憶も言葉も、戻るんだ。
ウォート村の惨劇は、全て忘れてしまったままの方が、幸せかもしれない。
だけど、元に戻って欲しかった。
「俺のエゴかも知れないけど……それでも……」
「おいおい、パティ子がこのままでいいわけねーだろ。我が団に入ったからには、パティ子にも働いてもらうぞ」
「そうよ。それに魔炎障害は放っておくと悪化する虞おそれがあるの。まずは西大陸で路銀を稼ぎつつ人探しもして、ウィンガルドに向かいましょう」
そう言われて、少し救われた。
しかしウィンガルドか⋯⋯ここ、西大陸グラスランドとの位置関係は、世界地図の東端と西端だ。
最短ルートは北大陸イーリス国を経由する事だ。マイノルズさんが行く筈だったルートである。
「通るなら南大陸だな。北は国境関所の通行手形が高すぎて、稼いでるうちにガキが大人になっちまう」
「そんなに高いんですか?」
「一人頭、金貨三十枚なり。お前さんとパティ子、それからゼラ公の分を稼ぐとなると、生半可な依頼じゃ無理だ」
金貨三十枚⋯⋯俺が三年間で稼いだ額だ。
何も知らずにアンジェリカを連れてイーリス国へ逃げようとしていたが、土台無理な話だったのか。自分の無知が恐ろしい。
「ん? ⋯⋯という事は、団長とウェンディは手形を持ってるんですよね? ゼラは?」
「あー、あいつは最近入団したんだよ」
「行き倒れていたのを拾ったんだけどね。頑なに身元を喋らないから、仕方なく同行させてるの」
「まったく、オレの聖人っぷりには頭が下がるな! サボるわ、たかるわのクソガキの面倒を見てやってるんだから⋯⋯⋯⋯ん?」
ウイングは言葉を切り、何かを思いついた様に、ニヤリと笑う。それを見て、とてつもなく嫌な予感がした。
「あー、言い忘れていたが、我が団には入団テストがあるのだ!」
「「えっ?」」
俺とウェンディの声がハモった。
初耳である。というか、すでに入団したものだと思っていたが⋯⋯。
「ちょっと団長、何言って⋯⋯」
「というわけでシャーフ! お前にはテストを受けてもらうぞ!」
「は、はい。分かりました! 内容はなんですか?」
それに合格しなければ、団に置いてもらえないと言うのなら、受けるしかない。
「そうだなー。じゃあ明日、町に着いたら決めるか。今日は各自就寝!」
「え? 決まってないんですか?」
「んなわけねーだろ」
「でも今、町に着いたら決めるって⋯⋯」
「聞き間違いだ。じゃ、オレは書き物があるからこれで。話しかけんなよー」
ウイングはそう言うと、ヒラヒラと手を振りながら、御者台――運転席の方へ行ってしまった。
呆然としている俺の肩に、ウェンディの手が置かれる。
「⋯⋯ああいう人なの。あなたも気にせず寝なさい、見張りは私がやっておくから」
少し、いやかなり不安を覚えたが、今日のところはその言葉に甘えることにした。
なにせ洞窟暮らしでは、魔物や侵入者に神経を張り巡らせていて、殆ど不眠不休だった。
「好きなスペースを使っていいわよ。あ、でも、一番奥はパティちゃんが寝ているから⋯⋯」
「⋯⋯はい、ありがとうございます」
馬車の内部は、天井から垂れた幕で四等分に仕切られていた。野営時の部屋代わりになっている様だ。
一番手前の幕を開き、中に敷いてある毛布に包まる。すぐに眠気がやって来て、その夜は泥の様に眠った。
***
翌朝。
馬車――マナカーゴというらしい――の震動で目を覚ました俺は、幌を捲って外を見る。
流れる風景は見覚えのない土地だった。
草原を拓いた街道を走っている様で、本当に旅に出たのだと実感する。
「パティ子、朝です。起きましょう」
「んー⋯⋯んむ⋯⋯」
幕の向こう側から、ゼラとパティの声が聞こえてくる。
⋯⋯今はここから出ない方がいいな。
「もうすぐ着くぞー! 準備しろよガキどもー!」
運転席の方からウイングの声が響き、やがてマナカーゴの震動が収まり、停車した。
俺はパティと顔を合わせない様に、いち早く降車する。
続いて降りて来たウェンディが、俺の頭に手を置く。
「おはよう、よく眠れたかしら?」
「おはようございます。はい、久しぶりに」
「さーて、行くぞシャーフ! ウェンディ、留守を頼むぞ」
続けて運転席から降りたウイングが、ウェンディの手に重ねる様に、俺の頭に手を置く。縮んでしまう。
「これからお前さんには、冒険者資格を取ってもらうからな」
「それが入団テストですか?」
「ちげーよ、これは前提だ。資格取らなきゃ、ギルドで依頼も受けられねーからな」
「資格自体は簡単に取れるわ。ただ未成年の場合、冒険者歴五年以上の経験を持つ人の紹介が必要だけど、そこは団長がいるから問題ないわね。気をつけなくちゃいけないのは資格証を紛失した場合再発行に手数料がかかるのと、依頼書を紛失した場合は資格そのものが失効される場合が⋯⋯」
「うるっせーよオバサン⋯⋯。オレが道すがら教えとくから、ゼラ公とパティ子を見とけって」
ウイングはマシンガントークを手で制し、俺の手を引いた。
ウェンディは不承不承といった感じで閉口し、ヒラヒラと手を振った。
「はいはい⋯⋯」
「あと⋯⋯ゼラ公に準備させておけ」
「⋯⋯! まさか団長⋯⋯」
「そゆこと。じゃあ、またな」
目の前で意味深な会話を交わされたが、今は入団テストに集中しなくては。
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