鏡には――髪はボサボサ、目の下には隈、眉間には深い皺が寄った、金髪の少年が映っていた。



「はは……」



 思わず笑ってしまうくらい、酷い顔だった。



「余計な事すんなバカ。で、誰かに助けを求めるまで弱るのを待ってたんだよ」

「いやでも、監視ってどうやって……?」



 ここには俺とパティ以外、誰もいなかったはずだ。

 人の気配も無かったし、魔物も近寄らない様に念入りに退治した。



「それは企業ヒミツ。さて、金はいらねえと言ったが、無償とは言ってねえ。お前さん、なんでもするって言ったよな?」

「……はい、言いました。俺に出来る事なら、なんでも……」



 押し売りじみていたとはいえ、パティの命を救って貰った以上、なんでもする気ではいる。

 それがパティに害をなす事以外なら、なんでも。



「おいおい、また凄え目にしてんぞ……。別に、そんな無茶な要求はしねえよ」

「あ……すいません」

「良いさ。薬の代金は、お前さんが身体で支払え」

「身体で……」



 ――なるほど。つまり臓器売買か。医者は医者でも闇医者だったか。

 良いかもしれない。俺の不死の身体は、臓器も再生する様だし。

 それでパティの健康が買えるのであれば、いくら摘出して貰ってもいい。



「……心臓って、金貨何枚くらいになりますか?」

「変な勘違いをしている様です」

「あぁ? おいおい、そんなに深く考えんな。要はお前さんが働いて返せって事だよ」

「摘出の際に麻酔は……えっ?」



 働いて……?

 臓器売買の仕事で?



「合点が行ってない様です」

「あーもう! だーかーらー、オレ達と一緒に来いって事だよ! 三食昼寝付き、衣食住完備の冒険者稼業! 給料は歩合制! その子の面倒も見れる! どうよ!?」

「どうよ、と言われましても……なんで、俺なんか……」

「こっちにも色々あんだよ。というか受けろ。こんなクソみてえな場所、治る病気もんも治んねーぞ」



 男は少し怒った様に言い、俺の頭に手を置いた。

 そう言われてしまっては、黙って頷くしかなかった。



「よし決まり! じゃあ荷物纏めて、外に馬車が停めてあっから運び込め。ゼラ公、お前も手伝ってやれ」

「先に戻ってます」

「ふざけんなテメー」



 ひとまず、悪い人では無さそう⋯⋯か?

 とにかく、今は藁にもすがる思いだった。

 俺は荷物を纏め、パティを抱え、洞窟の外へと向かった。

 


作者を応援しよう!
ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)


次のエピソード

村を出よう・2/自由の翼団



★339現代ファンタジー連載中 86話 2019年8月



以上シェア、