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『夢』(1990) 夢というモチーフを借りた、黒澤明監督の私小説的作品。ネタバレあり。



2005/12/30 22:59
 オムニバス形式というよりも、自らの見た「夢」をモチーフにして短編八作品を自身の歴史として紡いでいった作品集であり、後期の黒澤監督らしい審美的な映像美で満たされた作品に仕上がっています。ただ単に八本の短編を羅列しただけではなく、自身の幼少期の思い出から青壮年期の葛藤、そして老境での達観までを描いています。




 同じような「夢」や「妄想」を描いた映画としては、フェリーニ監督の『8 1/2』があり、あの作品では追い詰められていくフェリーニ監督の自伝のような作品となっていますが、この作品では「夢」が黒澤監督の老境での落着いた回顧録として我々に提示されています。掛かりすぎる経費のために、惜しくも撮影されなかった幻の残り三作品である『飛ぶ』、『阿修羅』、そして最終話となるはずだった世界平和の話である『素晴らしい夢』が映像化されていれば完全な「夢」が完成していたはずなのでそれがとても残念です。




 物語のあらすじを聞くだけでも、ビルの間で綱渡りをした後に、天使とともに夜空を駆ける『飛ぶ』、京都の阿修羅像や仏像たちが動き回るという『阿修羅』、そしていろいろな人種の人たちを世界各国の街で、何千人も集めて撮影しようとしていたという『素晴らしい夢』をぜひ劇場で観たかった思いが今でも強くあります。しかし、どれも聞くだけで、確かにお金がかかりそうな作品ですので、プロデューサーの一人でもあった黒澤久雄氏が監督に撮影を断念するように伝えたことも納得は出来ます。




 各作品については、それぞれをプロットとして捉え、八作品全部をまとめて監督の「夢」の回想として捉えていきます。それは幼少期の記憶から始まり、青年期の苦労と苦悩、壮年期の現代文明と未来に対しての懸念であり、そして老成期の達観までの監督自身の「夢」という正直な精神世界の歴史でもあります。