病院へ行くと、父、叔父、叔母がいました。

私の弟も病院へ向かっているとのこと。


母は…ただただ苦しそうでした。

声も発せず、目も開けず、ひたすら痛がって、もがいている感じ。

見ている方も辛かったです。


病室にいた看護師さんは私達に話をしてくれました。


「奥様の意識はありますが、話せません。

まだ話せた時に2つ伝言を預かってます。

1つは孫には決して言わないでほしいということ。中学受験の邪魔をしたくないそうです。

もう1つは、もしもの時は代わりにご主人へ誕生日プレゼントを渡してほしいとのことです。」


そういうと、看護師さんは、父へプレゼントを渡しました。もうすぐ誕生日だった父へのプレゼントを前もって用意していた母。


プレゼントを見て号泣する父。


私の両親は仲が良く、お互いがお互いのことを想っている理想の夫婦でした。

特に父は母のことが大好きでした。


そして母はどうしてもむーくんには伝えたくないようでした。


でも、ここで父が口を開きました。


「今まではお母さんの意思を尊重してきたけど、この状況で、孫に言わないのは違うと思う。

だってもしこのまま二度と会えなかったら?その時の方がむーくんはショックで立ち直れないだろう。会いたかった、知りたかったと思うだろう。むーくんには知る権利がある。受験に影響が出たって良いじゃないか。人の命よりも大切なものなどないんだから。それで受験がダメになっても仕方ない。」


父はずっと正しい人で、私が一番尊敬する人です。

本当にその通りだと私は思いました。


でも、その時、急に母が目を開け、


嫌そうな顔をしました。


きっと頑張って抵抗したかったのだと思います。


そんな母を見た父が、


「なぁ、もういいじゃないか。

孫に会いたいだろう?

会いたい気持ちがあるなら、今はその気持ちを優先すべきだよ。」


父のその言葉を聞いて母は納得したような、していないような表情をして、また目を閉じ、そこから、その日は、もう目を開けることはありませんでした。


こんなことになるなら、やっぱりもっと早くむーくんに言いたかった…

早く伝えるべきだったと私は後悔しました…


後悔しても遅いですが。


父は、私に、


「明日、むーくんが来ても良いと言ったら一緒に病院に来てほしい。いつどうなるか分からないから…」


と言いました。


この時、病室にいた全員が回復の見込みはないことを覚悟しました。辛そうだから早く楽にしてあげた方が良いのでは?

そう思うほど、ずっと苦しそうでした…


昔から、延命治療は絶対しないでほしいと言っていた母。

痛みだけは和らげてほしいけど無理矢理寿命を延ばすことだけは絶対しないで。

これは母が病気になる何年も前からずっと家族に言っていたことです。


延命治療について主治医から聞かれた父は、

延命治療は本人の意向なので行わないでほしいこと、でも痛みだけは和らげてあげてほしいことを伝えたそうです。


私は、むーくんの塾の迎えの時間ギリギリまで病室の母や親族と過ごし、塾へ向かいました。

むーくんを迎えに行き、塾の帰りに、むーくんにここで初めて母のことを話しました…


③へつづく