時は2202年4月中旬。
小マゼラン銀河内に浮かぶ薄緑色の球体をまず見せる。設定は別の幕で述べる。
ガトランティス閣議中。
おどろおどろしい太鼓の響き。
ゴーランドとバルゼーが、ズォーダーの前に跪いて顔を下に向けている。
ズォーダーが片手を挙げると、太鼓がストップ。
ズォーダー:「今回の戦いで失われた500万人の勇敢なる戦士たちを追悼し黙祷を
捧げる。黙祷!!」
1分後、ズォーダー:「黙祷止め」
ゴーランド:「大帝からお預かりした5万隻の艦艇と500万人の戦士を失い、
ここにむざむざと敗将の身を晒すことになってしまいました。いかような罰を
受けましても構いません」
バルゼー:「私も同罪です。この命に代えて500万の戦士の御霊を慰めたいと
存じます」
ズォーダー:「お前たち2人の首を刎ねれば、500万の戦士が還って来るというなら喜んでそうしよう。だが、それは叶わない。それならば、失われた戦士の数以上の
敵を屠れ」
ゴーランドとバルゼー:「はは~」
ズォーダー:「『勝ちに不思議の勝ちあれど、負けに不思議の負け無し』という言葉がある。これから今回の敗因を分析する。まず、敵の縦深陣になぜ嵌まったのか?」
第九幕場面転換その1
時は2202年2月初め。場所は大マゼラン銀河辺境。
戦術兵:「ガミロン偵察機発見!! 攻撃しますか?」
ゴーランド:「攻撃の必要は無い。敵が戻り始めたら、偵察艦隊で追跡せよ。
少数で良い。敵の主力の位置・陣形を確認せよ。くれぐれも敵に気づかれるなよ」
第九幕場面転換その2
時は2202年2月中旬。
戦術兵:「偵察艦隊から暗号通信入電。敵の主力を発見。偵察艦隊のデータを
大パネルに表示します」
ゴーランド:「ふむ。敵は中央に2万隻、左右に4万隻ずつ、計10万隻か。
この布陣、バルゼーはどう見る」
バルゼー:「中央と左右の距離がかなり離れている。敵の集結が完了する前に、
我らが位置を特定できたと考えられる。これは各個撃破のチャンスだ」
ゴーランド:「俺もそう思う。しかし、何かの罠かもしれんぞ」
バルゼー:「確かにその可能性もあるな」
ゴーランド:「だが、敵がどんな罠を仕掛けていようと、その罠が発動する前に、
敵を殲滅してしまえば問題無かろう。これから全艦、空間跳躍した後、我ら10万隻を突形陣に編成し、中央突破背面展開戦法で行こう」
バルゼー:「うむ。敵の中央は2万隻なので、「10万隻 vs 2万隻」なら我らの損害は無視できる。中央突破後、左右に展開しても、「5万隻 vs 4万隻」なので、我が軍有利だ」
ゴーランド:「決まりだな。全艦隊に告ぐ。直ちに空間跳躍の陣を敷け。
陣が整い次第、敵主力近傍に空間跳躍せよ。全艦空間跳躍完了後、直ちに突形陣を
形成せよ。突形陣形成後、最大戦速で敵中央の2万隻に突進。敵に集結の時間を与えるな」
戦術兵:「敵主力の周囲には、2つの大質量星から吹き出す恒星風によって作り出されたイオン乱流あり」
ゴーランド:「続けて全艦隊に告ぐ。イオン乱流に捕まらないよう十分注意せよ」
第九幕場面転換その3
偵察母艦司令官:「偵察母艦戻りました。敵主力からここまでの間に監視衛星を千基ばらまいておきました」
総参謀長:「ご苦労。監視衛星のデータを大パネルに表示せよ」
戦術兵:「敵10万隻が我が艦隊近傍にゲシュタムジャンプで出現。突形陣を形成中」
ディッツ:「かかったな。蛮族どもは間も無く最大戦速で、我ら中央に突進し始めるはずだ。敵が前進を始めたら、所定の行動をとれ」
第九幕場面転換その4
ガトランティスが突形陣を形成し終わり、ガミラス艦隊中央に突進を始める。
その突進開始直後から、ガミラス艦隊中央2万隻が反転後退開始。
戦術兵:「敵が反転逃走を開始しました」
ゴーランド:「逃がすか!! 全艦隊、最大戦速で敵を追え」
ガミラス艦隊中央は、最初はゆっくり、徐々に速度を上げ、最後は最大戦速で後退。
火焔直撃砲の射程には決して入らない。
ガトランティス10万隻の内、足の速い艦艇が突出先行し、足の遅い艦艇が順繰りに
置き去りにされる形となり、戦線がどんどん伸びていく。
ガトランティスの戦線が伸び始めたタイミングで、ガミラス側の左右4万隻ずつが、
ガトランティス戦線を側面から包囲し始める。
ゴーランドとバルゼーが、ガミラスの縦深陣に誘い込まれたと気付いた時には、
すでに遅く、ガミラスの包囲網が完成していた。
ゴーランド:「待て。全艦隊、進撃を一時中止せよ」
バルゼー:「やられたな。敵の狙いはこれだったのか」
ガトランティスが前進をストップしたタイミングで、ガミラス艦隊中央が反転し
咆口をガトランティス側に向けた。
(注)ガミラス艦隊中央2万隻の戦線が伸びなかったのは、あらかじめ足の速さの
揃った機動艦隊で構成されていたため。
第九幕場面転換その5
ガトランティス閣議の場面に戻る。
ズォーダー:「敵を罠に嵌める最も有効な手段は、敵が自分たちの方が有利であり、
作戦通りに事が進んでいると錯覚させることだ。お前たちは、中央突破背面展開戦法が順調に進んでいると錯覚させられ、敵の縦深陣に絡め取られた。戦術面での敗因だ。今後の糧にせよ」
ゴーランドとバルゼー:「御意」
ズォーダー:「他の敗因について述べよ」
ゴーランド:「我々が失った5万隻の1/3、約1万7000隻は、テロンのヤマッテと
同じ大砲で撃たれたものです。一方、我が艦隊の最大火力は火焔直撃砲であり、
これについては、ガミロンが対策を施してきており、かつてのように百発百中では
なくなっています。この最大火力の差を痛感しました」
ズォーダー:「ゲーニッツ、例の件を報告せよ」
ゲーニッツ:「空間跳躍エネルギーの武器転用については、サーベラー丞相が詳しいので、丞相からご説明いただきたい」
サーベラー:「ヤマッテの大砲の存在を知ってから、早速、ガミロンの科学奴隷に、
空間跳躍エネルギーの武器転用の研究を始めさせましたが、大層難しいようで、
未だ開発の目処が立っていません。しかし、防御方法には目処が立ちました」
ズォーダー:「ほう。どういう方法だ」
サーベラー「文字通り空間跳躍の応用です。敵が大砲を撃つと察知した時点で、
時空に空間跳躍口を開き、敵が放射した巨大エネルギーを曲げて、空間跳躍口に
吸い込ませます(蒼き鋼のアルペジオのミラーリングシステム参照)。
これで艦隊への命中は防げます。ただ、敵の巨大エネルギーを曲げ、かつ空間跳躍口を開くには、超強力な重力場を発生させる必要があり、ラスコー級突撃型巡洋艦クラスの空間跳躍エネルギー千隻分が必要です。しかも、この千隻は、一旦空間跳躍エネルギーがゼロになってしまうので、戦闘復帰に必要なエネルギー充填に約1時間が
必要となります。その間は、戦線を離脱させざるを得ません」
ズォーダー:「防御できるのであれば問題ない。すぐに艦隊に実装せよ」
サーベラー:「御意」
ゲーニッツ:「我が艦隊の最大火力の向上について説明させていただきます」
ゲーニッツ:「現時点で、我々が保持する最大火力は、本要塞オノーンと
帝星ダイドゥーに配備されている超雷撃砲です。超雷撃砲は機構が巨大過ぎるので、そのままでは艦艇に実装できません。しかし、威力が1/10でも良ければ、機構を
小型化し、艦艇に実装できます。これを雷撃砲と呼び、メダルーサ級殲滅型重戦艦に配備したい所存です。雷撃砲の威力は、火焔直撃砲の10倍です」
ズォーダー:「雷撃砲を直ちに配備せよ」
ゲーニッツ:「御意」
ズォーダー:「ラーゼラー、大砲防御機構と雷撃砲の艦艇配備にどのぐらいの時間が必要か?」
ラーゼラー:「大砲防御機構をラスコー級突撃型巡洋艦1000隻に、雷撃砲を
メダルーサ級殲滅型重戦艦100隻に配備するとしたら、約3ヶ月が必要です」
サーベラー:「大砲防御機構は、すでに設計が完了しているので、約1ヶ月半で配備可能だ。まずは大砲防御機構の配備を優先してはどうか」
ゲーニッツ:「雷撃砲の方は、今から設計着手となるので、ラーゼラーの言う通り、
配備に約3ヶ月は必要だ」
ズォーダー:「サーベラーの言に従い、大砲防御機構の配備を優先せよ。
ラスコー級突撃型巡洋艦1000隻に大砲防御機構を配備した後、本要塞オノーンにも、
1ヶ月半で大砲防御機構を配備せよ。雷撃砲の配備は並行して作業を進め、3ヶ月で配備せよ」
ラーゼラー:「御意」
バルゼー:「次の出撃時期と作戦はいかがいたしましょうか?」
ズォーダー:「今までの話でわかったように、3ヶ月はこちらから仕掛けることは
できぬ。それに、失った艦艇と戦士の補充も必要だ。艦艇の方は、帝星ダイドゥーで毎日200隻生産しておるから目処が立つが、問題は戦士の補充だ。
3ヶ月以内に、ダイドゥーと小マゼランの各帰順惑星から200万人を確保する必要がある。ラーゼラー、戦士補充の見通しを述べよ」
ラーゼラー:「3ヶ月あれば可能です」
ズォーダー:「では、7月後半に再出撃するとしよう。今度は、こちらが地の利を
得られるように、小マゼラン銀河内にガミロンどもを誘い込むとしよう。
ただし、敵が勝利の余勢をかって、3ヶ月以内に小マゼランに侵攻して来る可能性も
十分ある。メーザー、麾下の偵察艦隊で、小マゼラン銀河辺境の警戒を厳にせよ」
メーザー:「御意」
ラーゼラー:「気になることがございます」
ズォーダー:「なんだ」
ラーゼラー:「2月の戦いで我が軍が敗北したことが、すでに小マゼランの各帰順惑星で噂になっており、一部の帰順惑星で反乱の兆候が見られます。いかがいたしましょうか?」
ズォーダー:「私に反抗することは許されない。速やかに鎮圧せよ」
ラーゼラー:「御意」
第九幕ラストシーン
時は2202年4月末。場所は、小マゼラン帰順惑星ナイマーン。
反乱が勃発し、ガトランティス総督が殺害される。
その2週間後、メーザー遊撃艦隊1万隻(=1個艦隊相当)に包囲されたナイマーン。強大な火力・膨大な数のミサイル群・多数の戦闘機に蹂躙されるナイマーン。
全惑星規模で破壊と虐殺が繰り広げられる(2199の15話、オルタリア虐殺シーン参照)。
あるナイマーン人の「ズォーダーを倒せー!!」の絶叫で第九幕終了。