幸福の指輪~後編~
「春香、これ」
達也はそういうと、右のポケットから小さな箱を取り出した。「開けて」達也はそう言い、春香の手に箱を握らせてきた。
春香がその箱を開ける。「わ~」中に入ってるものを見て歓喜の声を上げた。
「婚約指輪…受け取ってくれる?」達也はそう聞くと、「うん」と春香は喜んで返事した。達也は春香の手から箱を取り、中の婚約指輪を取った。
「その、いつも左の薬指にしてる、指輪外してくれないかな?」達也は言った。幸福の指輪の事だ。「婚約指輪はめた気がしないし」と達也は照れくさそうに続けた。
春香は一瞬考えた。恵さんの言葉が浮かんだからだ。
『それ一度付けたら外さないようにね…』
外していいものなのかな…?春香はそう思った。「春香、どうした?」さっきから何か考えこんでいる春香を心配し達也が聞いた。春香は「ううん、なんでも」と右手を振り笑顔で言うと、幸福の指輪を見つめゆっくりと外し、テーブルの上へ置いた。
もう私には、この指輪は必要ない、だってあんなに素敵な指輪があるんだもん…春香は達也の持っている、婚約指輪を見つめながら思った。
指輪を外しちゃいけないってのは、きっと外したら幸せが起こる効果が無くなるって事なんだよね、私には、もうこの指輪は必要ない、今までたくさん幸せを感じる事が出来たから…でもこれからは自分の力で幸せを築いていかなくちゃ
春香はそう決心すると「つけて」と笑顔で達也に左手を差し出した。
「なんで俺ここに…つかここ何処?」すると達也は急に人が変わったように、周りをキョロキョロし始めた。
「えっ何言ってんの…?」春香は驚きながらそう言うと「ここ小原さんの部屋?ちょっそんなにくっついて、ってか何で俺がここにいるの?」達也は立ち上がり春香の側から離れた。「なんでってそれは…」
ハッ
春香は思った。もしかして、幸福の指輪を外したから…?だから急に他人行儀なの…?春香は急いで幸福の指輪を左の薬指に付けた。「お願い…戻って」春香は目をつむって祈った。
「なんかよく分からないけど、俺失礼するよ」達也はそう言うと部屋から出ていこうとした。
そっそんな…春香の目から涙がこぼれた「ちょっちょっと待ってよ…私たち結婚…するんだよね…?」春香は泣きながら、去っていく達也の後ろ姿に問いかけた。
「いや、何でそんな話になってんのか分からないし、つか付き合ってないでしょ俺と小原さんって」達也は振り向いてそう言うと何で俺、小原さんの家にいるんだろう?と疑問に思いながら春香の部屋から出ていった。
「うっ嘘でしょ…?」春香は膝からくずれ落ちた。
そんな…わっ私の幸せ…
春香はしばらく絶望を感じていたが、何かを急に思い出すと、幸福の指輪を手にとり部屋を勢いよく飛び出し外へ出ると走り出した。外は真っ暗だ。
もう一度、この指輪に効果を…もしそれが出来なくてももう一回買わなくちゃ!春香はそう思いながら恵が店を開いていた場所へと走った。お願い…私には達也が必要なの…
ハァハァ
「いっいない…?」たどり着いたその場所には、恵の店がなかった。いや春香はもう最初からわかっていた、ここに恵の店がもう無い事を…何故ならあの日幸福の指輪を買って以来、一度も恵の店を見ていないからだ
「もうっなんでいないの!」いない事を最初からわかっていたはずなのだが、それでもいて貰わなきゃ困ると思っていた春香はイラつき、幸福の指輪を地面に叩きつけた。靴で何度も何度も指輪を踏みつける。
「こっこんな指輪!こんなものっ」
「………」しばらく何度も指輪を踏みつけていた春香は、急に言葉にもならない虚しさにさらされた。
春香は踏みつけていた指輪を拾った。折れ曲がり形が変わっていた。それはもう指輪とは呼べない代物となっていた。
「ごめんね…ごめんね…」春香は指輪を見つめながらそう言い、ふさぎ込み泣いた。
今までの幸せはこれのおかげなのに…春香はしばらく泣いていたが
急に何かを決心するように立ち上がった。これからは自分の力で幸せを手にいれよう…最初から指輪に、他人に頼ってちゃいけないんだよね、きっと神様は私にそれを教えたかったのかな…?
春香はそう思うと真っ暗な空を見上げた。星が一つだけ輝いて見えた。もう一度、達也先輩と…今度は私の力で…
春香はそう心に強く誓うと歩き出した。家に向って帰ろうと交差点を渡ろうとしたその時
ゴォォォォォォォ
大きなトラックが春香に向ってブレーキも無しに突っ込んできた。運転手は寝ていた。
ドンッ
「えっ?」春香はトラックの方を振り向くと、何が起こったのかよく分からないままトラックにひかれ宙へと飛ばされた。
グチャッ
春香は跡形もない姿で死んだ。
「おや…かわいそうに」恵は水晶に映る春香の姿を見て呟いた。
「指輪を外すと、幸福の指輪で起こった全ての幸せが無くなる…そして指輪を傷つけた者は同じように傷付けられる…やはり言った方が良かったのね」恵は悲しみながらそう言うと、水晶をテーブルの下へとしまった。
おやおや、また幸せになりたい人が現れたようだね…
「お姉さんここで何売ってんの?」
終わり