これタイトル、すごいインパクトですよね
わぉ!!と驚いた後に(たしかにそうだよな笑)とひとり笑みをこぼしてしまった
きみはだれかのどうでもいい人
伊藤朱里
県税事務所に務める年齢も立場も異なる女性たち。
彼女たちの目に映る景色を
それぞれの視点で描く連作短編。
税金滞納者への支払いを促す納税担当若手職員中沢環。
納税担当時代に精神を病み総務へ異動になった環の同期染川裕未。
納税担当ベテランパートの田邊陽子。
総務の御局的存在の堀。
社会復帰支援雇用プログラムの一環で雇われた
アルバイトの須藤深雪。
須藤の存在により炙り出される彼女たちの本性と心の裡。
読んでいる間の感情の振り幅がすごくていっき読みでした。
思えば職場での人間関係ってちょっと複雑ですよね。
他人に心の裡を見せず自分の仕事を黙々とこなしているように見える人でも、実際思うところやストレスが溜まっていたりして、
そういう他人に見せない自分の姿って誰にでも多少はあると思うんです。
職場でこう演じていれば面倒事を避けられる、
みたいな計算高さが。
特に女性はそういう部分あるかもと経験上思います
そこにアルバイトとして雇われた新人須藤深雪。
過去に心の病で仕事に就けていなかった彼女は
仕事はできないけれど、
自分の弱さとか本音を全面に出してくるちょっと異色な存在。
そんな存在がひとりいると、
もちろん彼女たちの心はかき乱されるわけです
わたしたちだって辛いのに……!!!
それを表に出さずに平静を装って毎日頑張っているだけなのに!!!
近頃よく聞くセクハラ、モラハラ。
生き辛い世の中になったなぁ~なんて言葉も聞くけれど果たして生き易い社会なんてあっただろうか?
結局、人は現実と理想を比較しているに過ぎない。
病気だから、精神的に脆いから、心が弱いから。
これらを単なる言い訳として片付けられなくなった現代の社会。
弱きものを強きものが支える社会。
それはとても美しい。
だけど、人の心や感情はそう単純なものではない。
そもそも《強い人間》なんていないんだよ。
みんななにかしらどこかで苦悩したり傷ついたり、
それを表面上誤魔化しながら、うまく隠しながら生きてるのだろうと思う。
納税担当という仕事柄、滞納者に心無い言葉で傷つけられる場面もあったりして心が痛みましたが…
だれかの心無い言葉で傷つけられながらも
業務をこなさなきゃいけない仕事はたくさんありますもんね~
私も接客業という仕事柄理不尽な言葉投げつけられること度々経験があるので…彼女たちの思いに共感できました。
心無い言葉を投げつけられたら、その人はだれかの大切な人だと思って気持ちを沈めなさい
←これ接客対応の常套句ですが…
安易に心無い言葉を投げつける人が
実際にだれかの親だったり大切な人であるからこそ恐ろしいんです…。
この場面にはほんと共感
そんなときはこう思えばいいんですね…
きみはだれかのどうでもいい人
そんなふうに、
うまくうまく心を調整しながら
ダークな心を逃がす抜け道をつくってあげることも
ストレス溜めない秘訣ですよね~
人に優しい社会は、裏を返せば人を不必要に病ませる社会にもなりかねない。
そんな危うい一面を描いた作品でした。
ミステリのようでもあり、お仕事小説のようでもあり
指針があってもなくても、どこかで支えていないと心折れそうになる一冊でした
最後まで読んでくださり、ありがとうございます♪