エコノミークラス症候群とは

エコノミークラス症候群は、下肢などにできた血の塊(血栓)が原因で肺の血管を閉塞し、ショック、心停止などの重篤な症状を現します。
飛行機による旅行者に発症したことでその名称がつけられましたが、2004年の新潟県中越地震で、車中泊の避難者に発生し、この疾患が災害時にも起こることが注目されました。

 

災害時は日常の活動が制限されてしまいます。その上、車中や避難所などの狭いところに長時間座ったままの姿勢でいると、足の血流が悪くなり、下肢の静脈に血栓ができやすくなります(図1)。この血栓ができた状態を深部静脈血栓症といいます。

 

下肢にできた静脈血栓が血流に乗って肺血管に飛び、肺血管を塞ぐことでショックや呼吸困難、最悪の場合は心停止を引き起こします。これを急性肺血栓塞栓症といいます(図1)。

深部静脈血栓症・急性肺血栓塞栓症のしくみ

 

災害時、特に女性はトイレ環境の悪化などの理由から、トイレを控えるために水分をなかなか取ろうとしない傾向があります。しかし、水分を取らないと、血液が濃縮され、静脈血栓ができやすくなります。
脱水血栓形成を一層助長します。

 

TIPS

・静脈血の流れが悪くなり、下肢に血栓が発生することを「深部静脈血栓症」と呼ぶ。

・血栓が流れて肺の血管を閉塞することを「急性肺血栓塞栓症」(肺塞栓症ともいう)と呼ぶ。

・「急性肺血栓塞栓症(肺塞栓症)」は「深部静脈血栓症」によることが多いので一連の疾患と考えて「急性肺血栓塞栓症(肺塞栓症)」と「深部静脈血栓症」を合わせて「静脈血栓塞栓症」と呼ぶ。

 

 

どういう症状が出現するか

1)深部静脈血栓症の症状

症状は大腿から下部の足のむくみ圧痛発赤発熱などの症状が出現します。
また、こういった症状は両足にできることもありますが、片足だけに出現することが多く、その中でも特に左足にできることが多いです(1)

 

しかしながら、血栓があっても静脈を閉塞しなければ症状は出ないことが多いので、注意が必要です。避難所などでの診断する場合は、超音波エコー検査などが有用です。

 

上記のような症状がある、もしくは疑われる被災者がいたら、早期に確定診断が必要となります。できるだけ早く病院に搬送するか検討するために医師に相談しましょう。

 

2)急性肺血栓塞栓症の症状

血栓が小さければ、症状が出ない場合もありますが、急性肺血栓塞栓症の患者さんの約80%は、突発性の呼吸困難が出現するといわれています(2)。以下に、急性肺血栓塞栓症で見られる症状を挙げます。

 

・呼吸困難
・胸痛
・不安感
・冷汗
・失神
・動悸
・発熱
・咳嗽
・血痰

 

どういう被災者に起こりやすいか

エコノミークラス症候群と聞けば、車中泊をしている人に起こりやすいと思われがちですが、避難所で生活している人にも起こります。震災での環境そのものが深部静脈血栓症の発生頻度を上げているのです。

 

実際に2004年の新潟県中越地震でも車中泊避難を経験せずに避難所にいた人にも血栓が見つかっていますし(1)、ストレスがかかる避難所での生活は、深部静脈血栓症の要因の一つです。

 

車中泊、避難所泊にかかわらず、以下のような人は特にリスクが上がります。注意して観察するようにしましょう。

 

・高齢者(60歳以上)
・下肢静脈瘤
・下肢の手術
・骨折等のけが
・悪性腫瘍(がん)
・肥満
・妊娠中または出産直後
・過去に深部静脈血栓症や心筋梗塞、脳梗塞の既往がある
・経ロ避妊薬(ピル)を服用している
・生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症等)がある

 

なお、2004年の新潟県中越地震後に肺塞栓症で亡くなられた方のほとんどが睡眠薬を飲んでいたことがわかっています(1)
睡眠薬を飲んでいる人や睡眠薬の処方を希望される人にはエコノミークラス症候群のリスク、予防方法について十分説明しておくことが必要でしょう。

 

どうやって予防するか

下肢の血栓を作らないことが何よりの対策です。そのために、以下のことについて指導しましょう。

 

1)長時間同じ姿勢にならない

車中で眠るときは、できるだけシートを倒し、フラットにした状態で眠るように伝えましょう。

 

2)運動(歩行)をする

簡単なのは歩行することです。車中泊の人は、昼間はできるだけ外にいるようにするか、定期的に歩くように促しましょう。
また、車中泊、避難所泊それぞれの被災者に合わせて以下の予防運動などを指導するようにしましょう。

 

車中泊の場合の予防運動

 

避難所泊の場合の予防運動

 

3)弾性ストッキングの着用

弾性ストッキング下腿を圧迫して静脈の流れを良くする働きがあります。これらの配布もエコノミークラス症候群の予防には有用です。

 

4)適度な水分を取る

女性は特にトイレの問題から、食事や水分を取りたがりません。しかし、「エコノミークラス症候群とは」で説明したとおり、水分を取らなければ、血液が濃縮され、血栓ができやすくなってしまいます。きちんと水分は取るように伝えましょう。

また、コーヒーやアルコールは脱水を招きやすくなることも伝え、どうしても摂取する場合は、水もきちんと取るように指導しましょう。

 

[参考]