青森県の「大間のマグロ」漁師のように小型船で大型魚を釣り上げ、一獲千金のイメージもあるマグロ漁。志願者が増えているのは、世界の海洋で長期間操業する遠洋漁業だ。近海の漁とは違って、半年以上操業を続けることが多い。
日本に流通するマグロの大半を稼ぎ出す主力漁業だが、きつい、汚い、危険といった3K職場のイメージが強い。水産高校卒業生や身近に漁業関係者がいる人でなければ入り込みにくい職場だ。
さらにマグロ漁は、多額の借金をつくった人など、崖っぷちの人生を打開する手段として例えられることも。「内臓を売るかマグロ船に乗るか」といった窮地の場面を示す口承「都市伝説」はいまだに健在。マグロ漁師を志願しても、両親などに反対されて諦める若者も少なくないとか。
日本かつお・まぐろ漁業協同組合(東京)の香川謙二組合長は「船上で奴隷のような扱いを受けるようなイメージを持つ人もいるため、船員の確保が難しく、漁船を手放す漁業経営者もいる」と打ち明ける。
漁船の個室、Wi―FiをPR
マグロ漁師の魅力を語る若手機関長(左)と先輩の漁労長(日本かつお・まぐろ漁業協同組合がユーチューブで配信する「遠洋漁師になるって夢をかなえる動画っ!」より)
マグロ漁への誤ったイメージを払拭(ふっしょく)し、担い手を増やそうと、同組合は今年3月末から週1度のペースで動画を更新。マグロをモチーフにしたアニメキャラクターを作製し、まずはどうしたら船員になれるのか、漁業団体の幹部が詳しく解説している。
動画では個室が完備されていること、漁船によってはWi―Fi(ワイファイ)が使用したりできることをPR。船上では船員同士が助け合いながら操業していることや、仕事でくじけそうになりながら先輩のアドバイスで、機関長になった若手船員のインタビューなども配信し、マグロ漁への参入を促している。
配信直後から、「悪いイメージがなくなり、むしろ憧れるようになった」と、同組合や動画に登場した地域の漁業団体へメッセージが送られるなど反響は大きく、「ぜひ自分もマグロ漁師に挑戦してみたい」と興味を示す声が多く寄せられているという。
動画配信から3カ月で、既に3人の船員内定者が確定したほか、海外で動画を見た日本人留学生が「帰国したらマグロ漁師になりたい」と考えるなど、前向きな若者も少なくないという。
「撮影大変だが、よりリアルに」
内定者の1人で、北海道でキノコ栽培の仕事をしていた20代の男性は、動画を見て「小さなころからの夢をかなえたい」と、マグロ漁師への転身を決意。新型コロナウイルスの感染対策を行った上で、9月上旬に静岡県の焼津港から初航海に出る予定という。
世界の漁場で長期間操業する遠洋マグロはえ縄漁船(日本かつお・まぐろ漁業協同組合提供)
同組合によると、遠洋マグロ漁船の日本人船員は約1100人で、ここ20年で半減。外国人の船員も確保して操業しているが、新型コロナの影響で以前のような往来ができないことなどから船員不足が顕著。このままでは「日本の遠洋マグロ漁業の存続が危うくなる」と危機感を募らせている。
動画はこれまで、マグロ船が寄港してから船員などにインタビューして公開していたが、今後はマグロの漁獲中の状況についても配信する予定。同組合は「撮影が大変だが、よりリアルな状況を伝えながら、若手の船員確保につなげていきたい」と話している。


