やらずに後悔してこの世を去ることが一番辛い

 したいこと、しなければならないことを、ついつい先送りにしてしまうのは、「明日がある」と思えるからこそである。しかし、死を目の前にしたときには、本当にしたいこと、しなければならないことが見えてくることがある。

 

 

死を前にして本当に大切なものに気づく
 
 自分の容姿や能力などを他人と比べ、優越感を覚えた、もしくは劣等感にさいなまれたという経験はないだろうか。他人との比較によって、自分の価値をはかることを、ここでは「比較の価値」と呼ぶ。

 他人との比較は、自分を客観的に見つめ直せるというメリットをもつ。だが、比較によって苦しさばかりが増してしまうときは、一度「今日が人生最後の日だ」と想像してみよう。

 死を目前にすると、比較の価値はまったく意味を持たなくなる。どれほど社会的に成功した人でも死を逃れることはできないし、その成功が穏やかな最後のときを約束してくれるわけでもない。病気になって将来の夢を失い、自分の人生の意味について悩む患者さんも多い。

 しかし、そんなときが「本当に大切なもの」に気づき、自分が果たしてきた役割を見つめるチャンスだ。平凡であっても「親として家族を守ってきたことこそが自分の役割だった」などと振り返る人も多いそうだ。このようにして自身の人生を肯定できるようになると、人は必ず穏やかな気持ちになれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人生最後の日に何をするか
◇最後の一日は人生に納得するためにある

 最後のときが近づいていても、自分自身の支えに気づけば、自分の人生を肯定し、穏やかになれる。ここでの支えとは、家族、家族以外の介護者、神の存在など、さまざまである。また、苦しんでいた人が、「自分が大切にしてきたことが、世代を超えて伝わっていくこと」に気づいたとき、穏やかさを取り戻すこともある。

 誰かの幸せを願って亡くなった方々の人生があって、現在の私たちの生活が成り立っている。社会で人と関わっている以上、私たちの日々の積み重ねも、必ず誰かの人生に何らかの影響を及ぼしているのだ。

 

 たとえ後悔が多くても、後世に自分の思いを伝えることができれば、人は穏やかな気持ちでこの世を去ることができる。

◇平凡で価値のない人間はいない

 健康なときは、人生に価値を見出すことは難しい。だが、平凡で何のドラマもない人など、この世には一人もいない。人生には必ず意味がある。

 著者はかつて、海軍の元軍人の男性を看取った経験がある。彼は一言も「痛い」「辛い」などと弱音は吐かず、最後まで痛み止めの投薬を拒否していた。彼は、若いときに戦争で二人の兄弟を亡くしていた。もしかしたら本人は、「兄弟の受けた痛みに比べれば、自分の痛みなんて大したことはない」「長く生きて家族を持てた自分は、十分に幸せだ」と思っていたのかもしれない。亡くなった兄弟の存在が、彼の人生の支えになっていたとも考えられるだろう。人は存在するだけで、何らかの役割を果たしているのだ。

 

 

 

◆苦しみから、人は多くのことを学ぶ
 

◇苦しみは決して「悪」ではない

 誰しもが何かしらの苦しみを抱えて生きている。苦しい思いをするのは嫌なものだ。なかには、「苦しみながら生き続けるより、死んでしまった方がマシだ」と思う人もいるかもしれない。だが、「苦しんでいる=不幸」なのだろうか。苦しみを抱えながら、生き生きと過ごす道もあるのではないだろうか。

 

 

多くの看取りの経験から、著者はそれが可能だと考えている。人生の最終段階にいた患者さんたちは、苦しみながらも、人の優しさや人との絆、自然の偉大さなど、健康なときには見過ごしていたことに気づいていく。そして、自分が生きていた意味を考え、見出し、最終的には本当の幸せや穏やかさを手にすることができたそうだ。

 苦しみは決して「悪い」だけのものではない。苦しみと向き合えば、そこには学びがあるものなのだ。

 

 

 

◇最後の日が近づくとあなたに「支え」が訪れる

 苦しみを生むのは、希望と現実のギャップである。自分の足で歩きたいのに、体の自由がきかない苦しみ。やりたいことがたくさんあるのに、残された時間が少ないという苦しみ。このように希望と現実のギャップが大きいほど苦しみも大きくなる。

 

 世の中にある苦しみのなかには、その希望と現実のギャップを埋めれば、解決できるものもある。現実を引き上げて、理想の状態に近づけるのだ。医者による治療も、患者の状態を引き上げる手助けといえる。

 しかし、医療や科学をもってしても、解決できない苦しみも存在する。そのような苦しみを、無理に解決する必要はない。まずは「自分が解決できない苦しみを抱えている」という事実を受け入れればよい。「そのうえで穏やかに生きるにはどうすればいいか」を考えたときに、大切な存在や支えに気づくことができるのだ。

 人生において重要なのは、苦しみを解決することではなく、苦しみから何を学ぶかということなのだから。

 

 

◇夢を持つことは人間に許された「最高の尊厳」

 未来に希望を抱き、将来の夢を思い描くことは、人間が「今」を生きるために必要不可欠なことだ。苦しみがあっても、「明日がある」という思いに支えられることは多い。これは、人生の最終段階にいる人々にも当てはまることである。

 

 

 

 

 

イベントバナー