木火土金水

八五郎「ねぇ、隠居、世の中のものは、すべて木火土金水(もくかどこんすい)から割り出されている、てぇ事を聞いたんですけど、本当ですか。」
隠居「ああ、そう言う事を言うな。」
八五郎「じゃ、泥棒なんてぇのも、木火土金水から割り出されているんですか。」
隠居「ああ、そうだとも、まず、どろ・ぼう、と言うくらいだから、土と木に縁がある。」
八五郎「はあはあ。」
隠居「泥棒は白波とも言うだろ、波と言うくらいだから、水にも縁がある、それにひるトンビとも言うから、火にも縁があるな。」
八五郎「最後のひ・るトンビ、ってぇのは苦しいけど、ちゃんと木火土金水から割り出さ れてるんですねぇ、泥棒で土と木、白波で水、ひるトンビで火と、ね、あれ、隠居、 これじゃあ、木・火・土・水ですよ、ひとつ足りませんよ、金(きん)がありませ んよ、金(きん)、金(かね)はどこへいっちまったんですか。」
隠居「なぁに、金(かね)が無いから、泥棒をするのだ。」

百番番頭 

 

昔、日本橋の大家の呉服屋に泥棒が入りまして、一番番頭を縛って、二番番頭を縛って、 三番番頭を縛って、四番番頭を縛って、五番番頭を縛って、六番、七番、八番、九番、十 番番頭を縛って、二十番番頭を縛って、三十番番頭を縛って、四十番番頭を縛って、五十 番番頭を縛って、六十番、七十番、八十番、九十番、百番番頭まで縛って、さあ、仕事に かかろうとしたら、がらりっと夜が明けまして、今度はてめぇが縛られた。 

 

苗屋

 

 昔は、苗屋と言って、いろいろな植物の苗を売りに来たんだそうです。 苗屋「かぼちゃのぉーなーぃー、きゅうりのぉーなーぃー。」 町人「苗屋さん、朝顔の苗あります。」 苗屋「今日はーもってーこなぃー。」 付け焼き刃  付け焼き刃は、剥げやすいとか申しまして。 若い衆「権助さーん、おはよう。」 権助「あ、おはようごぜぇます。」 若い衆「今日は馬鹿に寒いなぁ。」 権助「おらがのせいではねぇだ。」 旦那「権助、権助、お前、なんだ今のあいさつは、町内の方が、今日は馬鹿に寒いなぁと言ったら、おらがのせいではねぇだって、そんな挨拶をしていちゃ商売の切っ先がまなっていけない、そういう時は、ああ、お寒うございます、この分じゃ山は雪でしょう、ぐらいの事を言いなさい。」 権助「ああ、そうかね、じゃ、おらあしたからは、そう言うべぇ。」  なんてんで、その次の日になりますと。 若い衆「権助さーん、おはよう。」 権助「あ、おはようごぜぇます。」 若い衆「今日は馬鹿に寒いなぁ。」 権助「あーあ、寒いだなぁ、この分じゃ山は雪だんべ。」 若い衆「おおい、聞いたかよ、権助さん、ちゃんと挨拶が出来たよ。」  なんてんで、こうなると当人も嬉しいと見えまして、毎朝、雪だんべー、雪だんべー、 とやっておりましたが、そうそう、寒い日ばかりは続きませんで、ある時、大変に暖かい日がございまして。 若い衆「権助さーん、おはよう。」 権助「あ、おはようごぜぇます。」 若い衆「今日は馬鹿に暖ったかいなぁ。」 権助「あーあ、暖ったかいだなぁ、この分じゃぁ、はぁー、山は火事だんべ。」 

 

富士山 

 

昔は、富士の山へ登るなんてのは、けっこう大変だったんだそうでございます。 男壱「富士の山へ行ってきました。」 男弐「偉いですなぁ、お山はご無事でしたか。」 男壱「見晴らしがよかったですよ。」 男弐「じゃ、あたしのうちの二階の物干しに、浴衣が干してあるの、見えましたか。」 男壱「いや、駿河の山のてっぺんから、江戸の神田の物干しは、見えませんでしたねぇ。」 男弐「いや、不思議な事があるもんですねぇ、うちの物干しからは、富士の山はよく見えるんですけれども。」
 

夕立屋

男「暑いねぇ、こういう暑い日には、一雨ざーっと来てくれるとありがたいんだけど。」
夕立屋「えー夕立や夕立、えー夕立や夕立。」
男「なんだい、あの夕立屋ってのは、雨を降らそうってのかな、面白い、呼んでみよう、 おおーい、夕立屋。」
夕立屋「へい、毎度ありがとうございます。」
男「お前さん、夕立屋ってぇくらいだから、雨を降らせるのかい。」
夕立屋「へぇ、さようでございます。」
男「へぇ、で、いくらなんだい。」
夕立屋「へぇ、これはもうほんのおこころざし程度で結構でございます。」
男「そうかい、じゃさっそく、三百文ほど降らしてもらおうか。」
夕立屋「へ、かしこまりました。」
なんてんで、男はしばらく呪文を唱えておりましたが、やがて雨がざーっと降ってまい りまして。
男「おや、おかげて涼しくなったよ、だけど、こうして雨を自由に降らせたり、止ませた りできるなんて、お前さん、ただの人間じゃないね。」
夕立屋「はい、実はわたくしは、空の上に住んでおります、龍(たつ)、でございます。」
男「なるほど、道理で不思議な術を知ってなさる、だけどねお前さん、夏暑い時は、こう してお前さんが、雨を降らしていれば商売になるけど、冬、寒くなったら、商売はどう するんだい。」
夕立屋「へぇ、寒くなりましたら、倅の子龍(炬燵)をよこします。」