「パパイヤ・ママイヤ」乗代雄介著 2022年5月刊

 

SNSで出合ったふたりの17歳 ハンドルネームはパパが嫌いなパパイヤ 高校バレーボール部で部活・スマホゲーム好き ママが嫌いなママイヤ 世界を股にかけ仕事するシングルマザーの娘で今は学校に通わない カメラを持ち歩く ふたりは週に一度千葉県木更津の小櫃川(おびつがわ)河口 流木の墓場で待ち合わせる そこはヨシの群生そして小径 足もとに蟹の群れ

 

7月末水辺で絵を描く男の子に出あう 満潮がよせて体を引っ張ってやる 出来た絵を見ると空が黄色、この絵へん? 彼は描き直す 黄色の空と海の絵はパパイヤがそこに捨ててあったゴミ、サントリー白・角2.7リットルのペットボトルに巻いて入れ沖へ投げた 男の子「ボトルは外国に行きますか?」

 

干潟で暮らすホームレス老人は所ジョンと名乗る 「きいれえもんを集めようと思ったの」老人の自転車の箱には干潟で拾い集めた黄色、黄色のゴミ

黄色いサンダルやおもちゃ その色が自分を励ます光  

パパイヤ「あの絵、こんど捜しにいこうよ 所ジョンならあの絵の良さをわかってくれるかも」

ママイヤ「私、所ジョンに自転車の練習させろって言った 壊れた修理代は出した 私には パパイヤと所ジョンと二人だけなんだ」

 

東京湾は木更津から富津岬あたりへ潮が流れる サントリーのボトルを追って海岸を移動するがボトルは見当たらない 別の日、富津岬の端の展望塔へ行った

奇跡だ! ボトルが見えた! ママイヤは泳いだ!  ボトルは空だった でも、ボトルの傷でわたしたちが投げたものだとわかった

 

「あんたってイイヤツだよね」「あんたは誰にも頼らないで生きていけるじゃん」

「みんな勝手に生きている ひとりで考えた、あんたのこと」

「なりたい自分だ、あんたといる時だけ」 「ずっと友だちだね」

「あんたがいなくても自分をわすれないようにしよう、あんたのおかげ」

 

父親母親のしばりから離れてひとりになった不安や寂しさや希望のありかがきらきらとした言葉になる 潮が太平洋に向かう海岸と干潟の場所から 

17歳たちのつぶやきがよせては返すひと夏の時間 そして干潟の風景だけが残る

乗代雄介さんの小説は「旅する練習」に代表されるように旅している風景がいい ひとりぼっち同士の木更津小櫃川(おびつがわ)の干潟がとてもいい