「オーバーストーリー」2019年刊 著者リチャード・パワーズ 木原善彦訳 オーバーストーリーとは林冠(層) 森の上部の樹冠(樹林において樹木の枝や葉の茂っている部分)が連続している部分のこと    物語の主な登場人物は

男性トイレニック 南北戦争後アメリカ中西部で開拓者ニコラス・ホエールが庭に栗を植えた ホエール家4世代に渡り撮影し続けたその栗の木の写真を一族の末裔の芸術家ニックが相続する 彼が出会ったのは  女性トイレオリヴィア セックスとドラッグに溺れたあげくうっかり感電死してたまたま蘇生した女子大生 自分が生き返ったのは「光りの妖精」のおかげだと信じている彼女と共にニックは西をめざす そこには空高くレッドウッド(セコイア)がそびえ 北アメリカ最後の原生森林が野蛮な開発の危機にさらされていた

女性トイレパトリシア 樹木同士のコミュニケーションを発見する聴覚障害の研究者 幼い頃ミニチュアの植物世界を作って遊ぶ 森林科学大学院で「健康な森には死んだ木が必要で木は社会的な生物だ カエデは共同体を形成し ヤマナラシは種でなく根によって増殖移動する」 その前例のない研究は主流学者に無視される ユリノキの研究で博士号を取得 著書「森の秘密」を出版する 女性トイレミミ 中国から移民し父を自死で喪った女性エンジニア  男性トイレダグラス 17歳で孤児となり強盗を働いて収監 入隊しタイで撃墜され大木に救われた空軍兵士 除隊後牧場や道路工事で働く 森を歩き植樹作業の仕事をする 男性トイレアダム 筋金入りの動植物好きの心理学研究者

 

カスケード山脈のふもとで人々が集まりカーニバル そこには4つの環境保護団体が集まっていた ここは住民の大半が材木業で生活し木こりは今や絶滅危惧種 皆伐のコストは高すぎる!最後の木立を助けよう!松の大木の伐採に反対集会だ!5月23日に結集しよう! デモ隊は伐採地 木材会社の土地に不法侵入する ニックとオリヴィアが原始林を救う戦いに加わる 

二人は60メートルの巨木「ミマス」=レッドウッドに出あう 木にロープをかけて登る樹上占拠は物語の魅力的なところ 樹冠での生活 ハンモックの図書室で「森の秘密」を読む モモンガが生息しオリヴィアはネズミと戯れる 樹下の仲間から食物や排泄物回収支援を受ける 樹冠は落下のスリルつまり動物的な運動感覚が必要だ レッドウッドと共に呼吸している 守られているのだ ヒトと樹木の「共生」だ そこへ博士論文の調査のためアダムが樹上までインタビューに来る

 

しかし とうとう警官隊に囲まれ 三人は木から降りて拘束される 国有林でのデモ活動キャンプは終了する 釈放されて2か月後 ニック、オリヴィア、ミミ、ダグラス、アダムの5人は極秘の製材所放火事件を起こし逃亡 その際の不意の爆発でオリヴィアが死ぬ

 

20年後の2011年 彼らのあるものは非情な結末を迎える 不遇だったパトリシアは名前を知られ多くの人が彼女の講演を聞く 彼らに共通するのは 地上の自然環境の互恵性に目を向けその豊かさを享受していること 地球上を人間が支配するのではなくすべての生命あるものが共存する そのような世界を目指していること

2019年ピューリツア賞受賞 この気候変動文学 このまえの「複眼人」に続いて 600ページ超の長編 最後までぐいぐいと引きこまれたのです