映画 「ドライブ・マイ・カー」 濱口竜介監督作品 2021年カンヌ映画祭脚本賞を受賞

 

あらすじの一部: 家福(かふく・俳優で演出家)は 広島の演劇祭に招かれ出演者のオーディションから関わる 舞台はチェホフの「ワーニャおじさん」 オーディションで日本人の青年俳優高槻、韓国の女優、聾唖者の女優も選ばれる 台本の読み合わせから始まる 台本は抑揚なくただ繰り返し読みを求められる それは濱口さんの演出手法で役者はセリフを完全に身につけて感情を乗せるのは最後の最後なのだ

家福は免停中 彼の車「赤いサーブ900コンバーティブル」で毎日ドライバーみさきが稽古場まで送り迎えすることになる みさきは不器量で寡黙な娘だが運転スキルはすばらしい

送迎の車内で家福は亡くなった妻 音とのセリフ練習テープをかけてセリフの練習を繰り返す 家福は俳優として成功していて音と幸せな結婚生活だったが ある日帰宅すると彼女は倒れて亡くなっていた その日の朝「あなたに話したいことがあるの」と言われていたのだ 家福は気づいていた 音は何人かの男と浮気をしていたことを 音は秘密をかかえていた 自分は音を愛していたが音と心底わかりあっていなかったのか

みさきは運転しながらとつとつと生い立ちを話す 北海道の田舎で中学の時から母を乗せて運転して毎晩街の仕事の送迎をした 母からの罵倒とネグレクト それでも母と娘は生きていかなければならなくて そのために運転技術を習得したのは母のおかげだった

家福とみさき、それぞれの大事な人を失ったふたりは互いの言葉を聞きあった

 

これから先は重要なネタバレになるのでひかえます    カンヌ映画祭で脚本賞を受賞!!

脚本は映画の生命線だ 原作は村上春樹さんの同名の短編小説から 濱口さんは2011年東日本大震災の後 東北地方でドキュメンタリー映画を作っていた 被災体験を語る人々を記録することを通して「聞くこと」を知る 「聞く」とは自分に向かいあわされ 古い自分を打ち捨て変わっていくことだ、といいます(濱口さんの寄稿「聞くことが声を作る」より)

劇中劇 演劇の古典「ワーニャおじさん」のセリフは韓国語・日本語・英語・韓国手話などという多言語で 字幕つきの構成がめずらしくもあった 

舞台の最後の場面 ソーニャの手話によるセリフ 「ワーニャおじさん、生きていきましょう 長いながい日々の連なりを生き延び 私たちは苦しみました 泣きました そして寿命が尽きたらおとなしく死んであの世に行きましょう そしてかの世でもう一度会えたら再会を喜びましょう」 この手話の表現が美しく 静かに美しく集中した一瞬

 

上映時間は179分という長時間 ドライブという人生の旅で見たロードムービーは最後に向かって見ている私の集中力が高まっていき 家福とみさきのうちから現れる言葉と静寂な間合いを共有するという時間で 少しも長いとは感じなかった 「ドライブ・マイ・カー」には「語ること」と「聞くこと」についての不思議な吸引力がありました