オランダのデザイン―跳躍するコンセプチュアルな思考と手法 [グラフィック編]
オランダのデザイン―跳躍するコンセプチュアルな思考と手法 [グラフィック編]
【インタビュー】
・トーマス・ウィデルスホーフェン(THONIK)
・ヨップ・ファン・ベネコム&ゲルト・ヨンカース(『FANTASTIC MAN』『BUTT』)
<紹介デザイナー>
【巨匠】ウィム・クロウエル | ピート・ツワルト | アントン・ベーケ | ピーター・ブラティンガ | ウィレム・サンドベルフ | ヤン・ファン・トゥールン | カレル・マルテンス | ロジャー・ウィレムス【中堅】 エクスペリメンタル・ジェットセット | トニック | メーフィス&ファン・ドゥールセン | マウリーン・モーレン&ダニエル・ファン・デル・ヴェルデン | イルマ・ブーム | ヨースト・グルーテンス | ヴェルクプラーツ・タイポグラフィ | ステゥディオ・ドゥンバー | ケッセルスクラマー【若手】ヨップ・ファン・ベネコム | ベン・ラロウア | ディディエ・パスカル | スタウト・クラマー | ジョナサン・プッキー | ラスト | クエーデン・ポストマ | レスリィ・ムーア | ラディム・ペスコ | カタログツリー
【エッセイ】
・藤本やすし「オランダのデザインがユニークな理由」
・マイケル・ロック「狂オランダ病」
【コラム】
・柳本浩市「良いデザインは社会を変える力をもつ」
・中島佑介「デザインと印刷・造本の実験が想像力を刺激する」
・江口宏志「オランダの建築雑誌を支える2つのエレメントとは?」
・木村稔将「自主性を育む"対話"と"実践"の教育」
【取材】オランダのデザイナーのアトリエ取材、オランダの光と生活 by 一之瀬ちひろ
【Q&A】紹介デザイナーに訊く、コンセプト・コンセプチュアルの意味
【ガイド】オランダデザインを知るイントロダクション
VORMGEVINGとは、古いオランダ語です。英語にするとFORM-GIVING。時代に漂う空気の断片を寄せ集め、物質的に「かたちを与える」こと。それが、かつてのオランダ語の「デザイン」の広義の意味でした。しかし、現代では「かたち」の意味は変化しています。常にうつろう自然や世界を前にして、人によってつくられるものもまた、輪郭の固定されない「かたち」が生まれています。それに連動するかのように、デザインの輪郭自体も揺らいでいるのが現状です。では、その輪郭の中心は、どこにあるのでしょうか。
ここ数十年、オランダを中心に広がった、コンセプチュアル・デザインとは、うつろう「かたち」の中心にコンセプトを置くひとつの方法でした。それは物質的に「かたち」の輪郭を固定するのではなく、その内部でうごめく、自己生成する植物の種子のようなものを「かたちの原動力」としてデザインすることです。世界に形を与えたのが神であるならば、過去現在にいたるまで、自然にそのあり方を倣いながら、私たちは世界を「かたち」づくってきました。常に固定化されない土地自体を干拓によってつくりあげ、維持してきたオランダ人が見せてくれるのは、自然のように不確かなものを不確かなままに、人の手で「かたち」を与えるという方法です。
固定化されたアイデアを引き渡すのではなく、種子をつくり、育て、世に放つこのようなあり方は、不完全さを、関係性の開かれた形に置き換えることであり、様々な環境や人との関係の結び方を見せてくれます。誰かひとりが「かたち」のつくり手になるのではなく、より開かれた形で人々と「課題」という名の種を共有し、リアルな場でともに考えていくこと。それは既存の受け手がつくり手になる可能性をも秘めているのです。
かのフェルメールは、光に形を与えたということもできます。はたして現代のオランダの建築家やデザイナーは、いったい何を受け止め、「かたち」を与えているのでしょうか。