韓国ドラマを観ていると、軍隊の話が出てくると、しょっちゅう”忠誠”チュンソンと言って敬礼している。恐らく国、あるいは国家に対しての忠誠なのだろうが、私は天邪鬼なのでいつも違和感を感じてしまう。

 忠誠?じゃあ在日韓国人の私たちは何に対しての忠誠心を持てばよいのだろうか?

 中年以降は韓国に観光の為に何度も訪れているが、それまでは実際の韓国の事はよく知らなかった。単に父母の出身国というだけである。ちなみに父母の世代が、韓国に行く時は”親族訪問”と称していた。

 

 今思うに、父母の世代は、民団(韓国側)と総連(北朝鮮側)に別れて、喧々諤々の小競り合いみたいなものをしていたものである。

 ある時在日の若い人たちの集まりに行った時に、誰かが「同志、トンム」なんて呼びかけたと言って、怒っていた若者がいた。トンムなんて北朝鮮風の呼び名だから止めろ、なんて言っていて、どうやら怒った人は韓国側らしかった。

 あまりにくだらないように思えて、私はもうその集まりに行かなくなってしまった。

 

 我が家の次男は、中学を出る頃に急に自衛隊に入ると言い出し、何やら行動を起こしていたが、どうやらそれは上手く行かなかった。これはあくまでも伝聞だが、いくら帰化していても元?韓国人は自衛隊には入れないと言う。いざ有事の際には、どこの国に忠誠を示すかということが問題になると言うが、あくまでも伝聞ではある、しかし息子は上手く行かなかったようであった。

 

 周りを見回しても、在日二世以降は、韓国に忠誠心を持っているようには見えないし、本国の人たちも、私たちを”僑胞キョッポ”と呼んでいて、本当の韓国人扱いをしていないように見える。

 それでも韓国に行った時には、雰囲気で素早く在日韓国人と見破るらしく、日本人とは少し違う扱いを受けたものである。やはり、どこか親し気で親切にもしてくれた。遠くの親戚が来たような、そんな素振りであった。

 

 私は、一世たちを流民だと考えている。特に国を追われたわけでもないし、難民でもない。中には政治的に居づらくなって、やって来た人達もいるだろうが、殆どは別の理由でやって来ている。私の父みたいに単身来る人は珍しくて、一族郎党うち揃って来ている人が多い。

 

 歴史的に見ても、世界はそんなものである。人々は流動的で、生れた地で一生を終える人もおれば、他国や他郷に出かける人もいるのである。

 そして今こうしてここに、私たちがいるのである。