金利が上がるというニュースをテレビで観ていて、思い出したことが有る。

 私が30歳前位だから、1980年頃だろうか、我が家はある街で、アパート暮らしをしていた。いわゆる文化住宅と言って、二階建ての上下別れて5軒ぐらい、全部で10軒ぐらいのアパートであったが、お風呂は一旦家の外に出てスイッチを回して点火するという面倒があったが、結婚時に夫の実家近くに住んだアパートは風呂が無かったので、風呂付アパートは嬉しかったのを覚えている。

 

 そこに時々やって来る不動産屋の営業が必ずこう言いながら、各家庭を訪問するのである。

「韓国人や朝鮮人には家を売れないよ、何故なら住宅ローンを組めないからね」

 セールストークの枕詞の様にそう言う。

 私はその言葉を聞くと、思わず苦笑いを浮かべてしまった。家を買うなんて縁遠い話なのだが、その営業の枕詞が可笑しい。時間の節約の為に、日本人だけを選んでいるのだろうが、言っている本人は無意識に言っているのかも知れないが、私の様に耳をそばだてている人間だっているのである。彼の発案ではなくて、不動産屋の営業の手引書に書いてあるのかもしれない。

 

 その地区には大きな風俗街が有って、夜の治安はあまり良くなくて、近所の若奥さんが夜、町を歩いていると「姉ちゃん、ナンボ(幾ら)」なんて言われたと憤慨していた。住んでいる地区名を言うと、ぎょっとして顔を見直されたりしたことも有るが、でも家賃も安く、近所の総菜屋さんは安くて美味しい物を売っていて、駅にも近く住みやすい所だった。

 

 そこで2年暮らしたが、兄の家族がが引っ越したという団地を見て、我が家もそこに引っ越したのだった。

 団地の入居案内の為に集まった時に、係員から「ここは低所得者用の団地なので、しっかりお金を貯めて、さっさと家を買って出て行くように」なんて、堂々と言われて、たじろいたものだった。

 

 そこには5年住んで、中古の連棟式の汲み取りトイレの家、即ち昔風の長屋の一軒を買って出て行くことになるのだが、金利はなんと年利9.2パーセントだった。今では考えられないが、定職無し、韓国人と言うので、貸してくれるところがなかなか無かったのである。そんな高金利でも払って行けたのは、家の価格がひどく安かったからである。2年経って、貸出先が勝手に7.2パーセントに下げてくれた。

 

 その家に住んでいる時に、夫が大手企業の中で自営をすることになり、仲介者の提案で帰化をすることになり、その家を売って別の家を買うのだが、今度は驚く程の金利の安さで、私たちってナニ?なんて社会の矛盾、いや社会の道理を知るのだった。