通っている歯医者さんの女医さんが大変お気に入りである。今まで抜歯の際には麻酔薬を注射で打つが、大抵心臓がパクパクして、時には死ぬのかと思うぐらい動悸が激しくなったことも有る。

 今までの歯医者さんは全員男性だったが、いつも雑な扱いで、差し歯が外れて行った時は、接着剤を思いっきり使われて、口中が接着剤の匂いでいっぱいになって気分が悪くなったものだったが、今診てもらっている女医さんは、言葉遣いも丁寧で優しく、おまけに麻酔なんて全く何ともないので、医療の進歩のせいもあるだろうが、人柄の良さが感じられて、治療が楽しいぐらいである。

 

 抜歯をして仮の歯を付けているのだが、食事をすると邪魔になって仕方が無いので、家の中では外してご飯を食べることにしているが、鏡で見ると歯が無い分、実に無残な老女の顔になっている。いつの間に、こんなお婆さんになってしまったのかと情けなくなる。抜歯をして一月後位に、固定式の部分入れ歯を入れてくれるらしいので、それまでの辛抱なのだが、生憎その間に二回も会食があるのだ。普段は滅多に会食なんてないのに、皮肉なものである。

 仮歯を付けると、食事が困難だし、外すとおかしい顔になるしで、どうしようかと思案中である。

 

 年を取ると良い事なんて何もないが、唯一年金をもらえることぐらいだろうか、働かなくても飢え死にしないぐらいのお金は貰えている。

 

 ところで韓国の年金制度をよくは知らないが、知人の韓国人の話だと、退職金を少しずつ使いながら老後を送っていると聞いた。

 別の在日韓国人男性の話だと、彼は若い頃韓国に留学していて、色々辛い目に遭ったせいか話は辛口で「親の面倒を子供が見ると言うのは今では殆ど無くて、韓国の老人の自殺率は国際的に見ても高い」という。

 テレビからの情報だと、韓国の若者の失業率は高いらしいので、親の面倒まで見れないと言うことだろうか。その点、在日韓国人の方が老親の面倒をよく見ているかも知れない。日本に例えれば、明治時代の感覚で生きて来たような在日一世と二世には、親孝行とか、男尊女卑とか、古い観念がしみついていて、特に長男は親の老後をしっかりと支えていた人が多かった。

 

 親は子を想い、子は親を想う、なんて当たり前で、その上年長者を敬うということも自然に身に備わっていて、年長者の前ではタバコは吸わない、お酒は横を向いて飲む、一歳でも年上には敬語を使い、パンマルと言われるくだけた物言いなんてしなかったものである。それが良いのか悪いのか分からないが、疑問に思わずに生きて来たのである。

 しかし、二世の私たちが親になってからは、子供に頼る時代ではなくなって、親には尽くしたが、子には尽くしてもらえない、という損な役回りになってしまっている。でも多分それが正しい事なのだろうと思っている。