歯医者さんに通っている。つい最近までは、年齢的に平均より歯が多く残っていると言われていて、気分を良くしていたが、立て続けに二本も歯を抜く羽目になってしまった。

 

 私の母は、歯だけ?丈夫で、かえってそのせいか、子供の歯を気にしたことが無かったので、子供の頃は歯を磨く習慣が無かった。それに生まれつき歯並びが悪くて、母は私の歯を見ると「まるで、馬の歯並びみたい」なんて、嫌みっぽく言うぐらいだった。何度も虫歯になって歯医者に行くのだが、そこは軍医上がりの医者で、荒っぽく、おまけに直ぐに金歯にするところだったので、私は中学生頃には既に、前歯には金の詰め物が見えて、それが大変なコンプレックスだった。当時の写真を見てみると、殆ど口を閉ざしている。金の詰め物を見られたくなかったからである。

 

 二十過ぎに自分で稼いだお金で、歯をセラミックで覆い、金の詰め物は無くなったので、随分気持ちが楽になったのを覚えている。

 

 大人になって、母に「歯磨きなんかさせてもらえなかった」と文句を言うと、「食べるだけで大変な時代に、子供の歯を気にするなんて事は出来なかった」と言い返されたが、母が年老いて、部分入れ歯を使うようになったのだが、その具合が良くなくて、私に愚痴を言う機会が有ったが「私なんて、子供の頃から歯の苦労をして来た。それなのにお母ちゃんは私の歯を見て、馬の歯みたいだと笑っていた」と言うと、急にシュンとしてしまったものだった。

 

 自分の不健康はみんな親のせいみたいに言う娘だったなあと、母亡き今では反省しているが、もうどうしようもない。

 

 貧困、差別、夫の暴力、夫の浮気、夫の病気、子供の病気、一人娘故の実母の世話、と母は実に多くの荷物を背負った人生だったのだと、今になってようやく気付くが、子供の頃にはそんなことが分かるはずもない。ついつい私に家事労働を押し付けてしまっていて、そんな母に私は反発していたものだった。私自身も大きな荷物をいつも背負っているような気分で、疲れていたのである。

 今だって、ふっと気を抜くと疲れがどっと出て来て、夫に昔の不肖事をしつこく責めたりする時がある。74歳の夫は、そんな時はただうなだれて元気を無くし、なるべく顔を合わさないようにしている。大腸がんを患っている夫は、自分の病気に加えて、妻のいらだちと嫌味にも耐えて生きて行かねばならないのである。

 

 歯の話から、随分様々な思いに逸れてしまった。