何度か海外旅行に出かけて、気づいたことが有った。

 私は、日本人に見えないらしいのである。では何人か?

 韓国に行けば韓国人、中国圏に行けば中国人というか、華僑と言うべきか、日本人には見えないらしい。

 

 釜山に行った時のことだが、釜山タワーの土産物店に入ると、店主らしい人中年男性に呼び止められて、即座に在日韓国人という意味で「キョッポか?」なんて言われて、夫と一緒にコーヒーの缶を差し出されて、椅子に座ると長話の相手をさせられたのだ。彼は日本には中学三年生までいて、その後韓国にやって来て、土産物店を営んでいると言う。こちらは早く次の目的地に行きたいのになかなか離してくれない。日本語の方が韓国語より話しやすいらしく、日本語のお喋りがしたいみたいだった。「今度来た時も、是非ここに寄ってほしい」と言い、夫の手を取らんばかりに「今度は一人でおいで、楽しい所に案内するから」なんて、私を差し置いて、夫を熱心に誘っていた。

 

 上海空港では、土産物店の前を通ると「アンニョンハセヨ」なんて声を掛けられて、商売人の人を見る目の確かさにも驚いたものだった。

 台湾では、夫と二人で火鍋の店に夕食を食べに行ったのだが、他に席が空いているにも関わらずに、我々の席のすぐ横に若い台湾人のカップルが座るので、少し妙だと思っていたら、食事が済んで帰ろうとすると、日本語で声を掛けられた。えっ、日本語知っているの?それなら今までの会話を聞かれていたのかとギョッとしたが、相手はどうやら在日中国人というか華僑と踏んだらしく、親し気に話して来る。「ニホンゴを勉強しています」なんて、売り込みの様でもある。名刺を欲しがるが、生憎そんなものは持ち合わせていないので、それで終わった話であるが。

 

 日本人の友人たちは、海外に行っても現地の人と会話なんて殆どしないと言うが、私はいつも誰かと話している。友人の中には「外に出るのが怖くて、ずっとホテル内で食事も済ませていた」なんて言うので、何をしにお金を掛けて海外にまで行ったのかいな、なんて思ったりもする。

 

 香港の啓徳空港、カイタック空港がもうすぐ閉港になると聞いて出かけたが、帰国する日は洪水と大雨で、まるで地面から雨が降っているかのようで、空港内で簡易レインコートを配られて、書道用の画仙紙を巻いたのを買っていたので、それを夫がレインコートの中に入れて持っていたところ、空港係員の女性が、夫に「ワッツ?」なんて尋ねたので、驚いた夫が「ひぃー」なんて声を上げた。「ペーパー」と私が答えると、尚も何か話したりないような素振りである。拙い中国語と英語のチャンポンで、書道用の紙を買ったのだと言うと、もっと話し続けたい様子で、やはり中国系の人間だと思われたようだった。

 

 北京から帰国して、関空では「何泊したのですか?」なんて出口で係員に声を掛けられたのにも驚いた。そんなことは他の日本人には言ってはいない。そう言えば、飛行機内で配られた持ち物届用の紙が、中国人用の中国版だったのを思い出した。中国人スチュワーデスが、私に中国版を渡したので、何も考えずにそのまま書いたのだったが、空港の係員が不思議に感じたのかもしれない。日本語で「三泊でした」と答えると、「ああ、そうでしたか」なんて言われて出て来たが、妙な経験ではあった。

 

 中年以降の私は、太っていて、外股開いてのドタドタ歩きで、日本人らしくはないのかもしれない。日本人の中年女性は、韓国人や中国人に比べると細身で、静かな印象であるが、多分私は、そうではない。

 血というものは不思議で、日本生まれ日本育ちだが、見る人、それも外国人には、出自は隠せないらしい。