韓国籍の頃に交通検問に遭って、と知人男性が話し始めた。

 「同乗している人は、自分が韓国人だとは知らないので、警官に運転免許証の提示を言われると、車から降りてドアを閉めて、運転免許証と外国人登録証を見せたものだった。余分な気苦労をしたもんだ」

 この話には身につまされる在日韓国人は多いだろう。

 日本の国で韓国人として生まれた者たちは、大方は余分な気苦労をして生きて来たものである。

 

 私は自宅の売買をしたことが有るのだが、家を買う時は韓国籍で、売る時は日本籍という稀有な例で、(その家に住んでいる時に国籍帰化をしていたので)不動産屋を書類の手続き上で、ウーン?なんて悩ませたことが有った。無理もない、不動産屋の事務員さんが、一生に一度どころか、恐らく経験することなんて無い事なのだ。特に不動産の売買は、漢字一文字、少しでも点が違っていても、財産に絡むことなのでうるさいのだ。

 その事務員さんに相談されて、それなら役所で一度尋ねてみると言って、最寄りの役所に出向いたのだった。話をすると、手書きで経緯を書くことでその件はクリア出来たのだったが、当時は書類は手書きが多くて、目の前でスラスラ書いてくれて用件は早く済んだが、今ならそうは行かなかったかもしれない。

 

 余談だが、私は法律事務所でアルバイトをしたことが有るが、書類が一枚でも足りなかったら申請が通らないものだが、案外日本の役所はフレキシブルな所があって、白紙の紙一枚足すだけで、申請が通るのを見たことも有った。

 私がある時、事務所の先生の指示通りに書類を持って行ったところ、添付写真が前回と同じものだと叱責されて、どうやら新しい写真を添付するのが筋らしく、書類を事務所に持ち帰ったことが有ったが、それを知った先生が激怒して役所に電話して激しく抗議したところ、再度持って来てくれと言われたらしかった。先生に平身低頭されて頼まれて、私が再度持って行ったところ、件の役人はいなくて、別の役人が出て来て「何でこの書類は通らなかったのかな」なんて、とぼけた言い方をしながら、まるで同じ書類なのに申請は通ったものだった。市民の抗議が役所は苦手らしいように思えたものだった。

 自分が抗議しながら、私に行かせた先生も可笑しいが、前回の役人が雲隠れして、別の役人が現れたのも可笑しかった。

 

 兄嫁が兄と一緒に韓国旅行に行くことになって、パスポートを韓国領事館にまで作りに行ったそうだが、よく分からない事ばかりで、何度も聞きに行って、大変だったと愚痴を言っていたものである。日本籍ならば、一度パスポートを作ると10年か5年は海外旅行なんて気軽に行けるが、韓国籍ならば、一旦役所に外国人登録証を預けて出国して、帰国した時にもう一度それを受け取りに行かねばならないというひと手間がある。

 日本人から見れば、それは当然だと思うかもしれないが、そんな煩雑な手続きをしなければならない気苦労は分かって貰えないだろう。役所に行くのが億劫だと言う在日韓国人は多いのである。