日本人でも様々な人がいるので当たり前の話だが、夫の属していた世界は、私にとって、毎日が発見というか不思議であった。何しろ役者が揃っている?

 朝鮮人部落の人々は私には親切だった。チョソナー、朝鮮人の女の子が嫁に来たってなもんで、顔合わせは結婚式で済んでいるので、李さんちの花嫁だとはみんな知っている。

 

 今考えると、可笑しいと思うのだが、日本人の中で日本人風に生きて来た私が、いざ結婚となると、急に韓国人が前面に出て、チマチョゴリ姿で式を挙げている。普段は生意気で親の言うことを聞きもしないのに、結婚となると突然保守的になって、在日韓国人の社会に飛び込んでいる。確かに可笑しい‼

 

 新居は親元から少し離れた伯母の持ち物である、いわゆる文化住宅といって、二階建てのアパートである。水洗トイレが珍しい時代に、その古めかしいアパートが水洗トイレだったのが、新鮮で嬉しかった。部屋は6畳と4畳半に、小さな台所が奥に有った。住まい的には問題は無かったが、家主の伯母と義母の仲が険悪で、その仲の悪さというのが普通じゃなくて、犬猿の仲以上で、どうやら複雑な事情があるらしかった。

 

「親父が、自分の姉に自分の持っていた土地をやって、その土地の上にこのアパートを建てた」なんて、夫は訳の分からないことを言う。姉に土地を無償であげる?そんなことが有るのか、妙な話である。

 夫は母親の言うことを鵜呑みにしていて、父親の浅はかさを嫌っていた。本来ならば、自分に来るはずの土地を父親が姉にあげる、変な話である。

 段々分かって来るのだが、夫の祖父が日本人の地主から貰った土地を四人の息子に分け与えたが(娘には分けない時代なので)、夫の父が貰った分を姉に売ったらしかった。どんな経緯で売ったのかは分からないが、義母はそのことが一生の禍根で、買った義姉を嫌悪していたのである。義母は、義姉の顔を見るなり戦闘モードに入って罵り始めるが、もう普通の状態ではなくて、半ばトランス状態というか常軌を逸しているとしか思えない。伯母の方は、馴れっこになっているのか、又か、なんて顔をしている。そんなに嫌悪している伯母のアパートに息子夫婦を住まわせなければ良いと思うが、日本人の持っているアパートは別な意味で敷居が高く、やはり同族の持ち物に住まわせざるを得ないのだ。義母の周りを斟酌しない性格の激しさは、それまで日本人社会で見て来た慎ましい日本人女性とは異質なものだった。

 

 義母の話によると、義父が伯母の娘婿に殴られたことも有るらしいが、どうやら何度か土地がらみで金の問題があったらしく、暴力になるほどの凄まじい争いがうかがえたものだった。

 親族が皆無状態の私が初めて見る同族の争いは、熾烈を極めていて、何だこの世界は‼、なんて思ったものである。