彼は、“一心同体”となったAさんを連れて、幼い頃に訪れた八王子の峠へ向かいました。


希望のなかった自分の人生に、必然にもAさんは“童心に帰る”という選択肢を彼に与えてくれたのです。



彼ははしゃぎ回るAさんを傍で見ていますが、日が暮れていきます。


その時、Aさんはようやく自我を取り戻します。



知らない場所にいて、知らない人といて、もう空が暗くなっている。



Aさんは不安になり始めて泣きだします。



その時です。



彼は鳴き始めたAさんを見て混乱します。


“一心同体”であったはずのAさんが泣き出した。

お互い幸せだったのに、と。



彼もそこで現実に引き戻されたのです。


一心同体である、けれど、Aさんはよその子。

どこかの家族の子。



しかし、彼はAさんに縋りました。


泣き止まないAさんに近寄ると、Aさんは彼を睨みました。


そこで彼の理性は切れました。



完全にAさんに拒絶されたことにより、彼は再び希望のない現実へ引き戻されてしまったのです。



彼は、その時、思考より先に体が動きました。


Aさんを押し倒し、首を絞めたのです。

「現実に戻さないで」という意味を込めてです。



Aさんはまだ4歳で、当然ながら家族がそばにいなければ不安にもなります。泣くのは自然なことです。



ですが、Aさんと一体化していた彼にそんな常識は通用しませんでした。



Aさんに拒絶され、現実に戻されるのが嫌で、咄嗟にAさんに否定されるより先に攻撃していました。



Aさんは、数分間首を絞められたことによって死んでしまいます。



彼は、冷静さを取り戻すと、Aさんを殺してしまっていたことに気づきました。



丁度その頃、Aさんの両親は警察に「娘が帰ってこない」という連絡を入れています。




犯人はAさんの遺体を別の場所に遺棄し、捜査員らがどれほど探してもAさんは見つかりませんでした。


まだ消息不明、生死不明という扱いになっていたAさんですが、家族はAさんが生きていることを祈ったままAさんの帰りを待ち続けていました。